【日産自動車】:「ハゲタカ」真山仁氏が事件分析、ゴーン氏逮捕/下
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【日産自動車】:「ハゲタカ」真山仁氏が事件分析、ゴーン氏逮捕/下
日産自動車の前会長カルロス・ゴーン容疑者(64)が金融商品取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕され今日26日、1週間がたった。人気経済小説「ハゲタカ」シリーズの著者、真山仁氏(56)が事件背景を分析する連載の2回目では、皮肉にも平成の最後に、本事件がバブル崩壊を上回る経済危機につながる可能性を指摘した。【聞き手・三須一紀】

日産自動車ゴーン前会長が逮捕された事件について、日刊スポーツのインタビューに応じた真山仁氏(撮影・三須一紀)
-ルノーを介したフランス政府による日産のM&A(買収・合併)が実現する不安要素は
真山氏(以下、敬称略) ルノーが持つ日産株が現在43・4%で、過半数まであと7・6%だ。この約8%を、ルノーの息が掛かった人が既に持っている可能性がある。違法だが、トリックはいくらでもできる。
-現時点でホワイトナイト(敵対的買収を受ける側に友好的に買収または合併する会社)はいるか
真山 いないらしい。株式公開買い付け(TOB)をすれば市場の何%か上乗せする必要があるため、何兆円単位になる。
-先日、駐日フランス大使がゴーン容疑者と接見した。何を話したと思うか
真山 大使がゴーンへ「絶対に何もしゃべるな」と言ったか、もしくはゴーンが大使に「守ってくれますよね」と念を押したか、どちらかだと思う。
-2国間以外に問題が波及する可能性は
真山 当然EU(欧州連合)に深く関わる。欧州の雄はドイツ車。ポルシェ、BMW、フォルクスワーゲンと、速さ、省エネ、さまざまなエンジンなど、充実した研究が出来ている。そこに勝つため、フランスは日産の技術に頼りたい。
-ドイツはどのような立ち位置になるか
真山 2パターンある。優秀な日本車メーカーの一角をはがしてくれるなら良いことだ、と思うか、逆にドイツが日本の味方に付いて、ルノーの勝手にはさせないとなるかもしれない。
-当然、日本はドイツに味方になってほしい
真山 これは既に国際政治の話だ。EUは1つに見えるが、フランスとドイツは嫌いなもの同士。あとは外交力次第だが、日本は苦手。世耕経産相がフランスの経済・財務相と会談したが、毅然(きぜん)とした対応ができたのか心配だ。
-日本政府の今後の動きに注目だ
真山 グローバル社会を目指すと掲げている日本政府の本気度を測る良いチャンス。当然、グローバル社会は危険が伴う。そこをどう守ってくれるか。例えば、海外に行って拉致された時、国が助けてくれるかという話と一緒。「勝手に行ったんでしょ」と。日産がルノーの傘下になったら「政府のせいじゃないでしょ」と言ったようなもの。でも、それを見た他の企業は、日本から離れたくなる。ここは、何が何でもフランスを説得しないと、大変なことになる。
-日本経済全体を巻き込む話になり怖さも感じる
真山 バブル崩壊から始まった「平成」が終わる時に、とんでもないことが起きた。日産が世界2位になり、電気自動車(EV)技術が欲しいから三菱自動車も取り込んで、ある意味、日産は次のステージで王者になれたかもしれないタイミングで、トップがやられた。フランスがのみ込むことになれば、バブル崩壊がもう1回来るようなもの。
-どういうことか
真山 日産・三菱グループの技術は、フランスのルノーが使う。大株主であるフランス政府が、この技術をフランス車全部に使うように、と言うかもしれない。一方、外国投資家は、日本企業は楽勝に買えるじゃないか、となる。不動産がいたずらに高騰したバブルより、たちが悪い。今回は技術力という日本の屋台骨を狙いに来ているからだ。
-日本政府に言いたいことは
真山 安倍首相が3選し、もう1期首相をやりたいから「頑張ろう」ということがなくなった。ロシアと平和条約を結んで名を残せると、ウキウキしていたら、とんでもない球が飛んできた。これで失敗したら首相を辞めざるを得ない。それなりに財界と良い関係をつくってきたのだから、踏ん張ってほしい。
-今後に向けて
真山 海外による日本の買いたたきが横行し「きっかけって、そういえばゴーンだったよね」とはなってほしくない。メディアにも言いたい。ゴーン容疑者が強欲で積み上げた金額は確かに面白いが、そこばかり報じていると、結果的に深層がうやむやになり、フランスの味方をしていることと同義になる。(おわり)
◆真山仁(まやま・じん)
1962年(昭37)7月4日、大阪府生まれ。87年同志社大卒業、89年に中部読売新聞(現読売新聞中部支社)退社。91年からフリーライターとして活動し、04年にハゲタカファンドを描いた「ハゲタカ」でデビュー。08年「ベイジン」、11年「コラプティオ」など著書多数。
元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【事件・犯罪・疑惑】 2018年11月26日 08:16:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。