【平成の経済事件簿】:東京佐川急便疑獄<上> 暴力団への資金はホメ殺し封じの謝礼
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【平成の経済事件簿】:東京佐川急便疑獄<上> 暴力団への資金はホメ殺し封じの謝礼
「竹下登センセイは日本一金儲けのうまい政治家です。偉大な政治家、竹下登センセイの新総理擁立に立ち上がろう」――。
1987年1月ごろから、四国・高松に本拠を置く右翼団体・日本皇民党の街宣車十数台がスピーカーのボリュームをいっぱいに上げて、東京・永田町を駆け巡った。相手をやたら褒めちぎり、結果としてイメージダウンを招く“ホメ殺し”と呼ばれる街宣活動である。
自民党総裁の後継指名に当たり、中曽根康弘首相から「右翼の動きを止められないようでは、後継に指名できない」とクギを刺された竹下は、執拗な“ホメ殺し”の攻撃に、円形脱毛症になるほど精神的に追い詰められていた。
日本皇民党の“ホメ殺し”はある日突然、ピタリとやんだ。その数週間後の10月31日、中曽根裁定によって自民党総裁に選ばれた竹下は、11月6日、晴れやかな表情で総理大臣の椅子に座った。
一連の謎が解けるのは5年後のことだ。東京佐川急便疑獄が発覚した。「政治とカネ」の裏には常に暴力(装置)が絡みついている。東京佐川急便を舞台に起こった事件は、バブル崩壊とともに始まった平成という時代の影絵ということができるかもしれない。
渡辺広康社長は政界の“タニマチ”と言われていた(右は左から、金丸信と竹下元首相))/(C)日刊ゲンダイ
91年7月12日、東京佐川急便は社長の渡辺広康と常務の早乙女潤を解任し、同月26日、2人を特別背任(商法違反)で東京地検に告訴した。
渡辺は63年に渡辺運輸を設立。74年に、佐川清が率いる佐川急便グループと業務提携して、東京佐川急便の社長になった。
運送会社は地域をまたいで営業するため、役所の許可が必要になる。渡辺は政界にカネをばらまき、政界の“タニマチ”と言われた。
東京地検特捜部は92年2月13日、渡辺を特別背任(商法違反)容疑で逮捕。併せて早乙女らも逮捕した。
地検特捜部は3月6日、渡辺ら4人を起訴した。
同年9月22日、渡辺被告らに対する初公判が東京地裁で開かれた。
検察は、広域暴力団・稲川会の石井進前会長(91年9月に死去)がオーナーだった北祥産業に対する157億円の巨額の債務保証など、総額952億円に上る被害を東京佐川急便に与えたと認定した。
検察側の冒頭陳述で爆弾が炸裂した。渡辺被告は、「かねて交際のあった政治家」が右翼団体の活動を苦慮していたことを知り、直ちにこの件の解決を稲川会の石井前会長に依頼し、活動を止めた。このことが、石井前会長系の企業への融資の動機になったと、指弾した。
政治家、右翼団体の名前は伏せられていたが、「かねて交際のあった政治家」が金丸信自民党副総裁であり、「苦慮していた右翼活動」が、87年の自民党総裁選での竹下元首相に対する“ホメ殺し”を指していることは明らかだ。
暴力団に流れたカネは、“ホメ殺し”を抑え込んだ謝礼だったと、検察は冒頭陳述で述べた。
検事調書を基に、渡辺元社長が詳述した右翼封じの経緯が一斉に報じられた。
87年、自民党総裁選挙直前、竹下元首相(当時は自民党幹事長)に対する右翼団体・日本皇民党の攻撃抑え込みについて、金丸自民党副総裁から相談を受けた渡辺元社長は、稲川会の石井前会長を動かして封じ込めることを勧めた。
金丸は初めは、ためらったが、最後は「頼んでほしい。いまでは、渡辺社長だけが頼りだ」と了承した。
石井前会長は、竹下による田中角栄元首相邸訪問を、攻撃を中止する条件として提示した。
87年10月6日午前8時。降りしきる雨の中、竹下は東京・目白の田中邸を訪れた。田中家は竹下との面会を拒否。門前払いの一部始終はテレビによって全国に放映された。
竹下は衆人環視のなかで屈辱を味わったが、その対価は大きかった。竹下が中曽根から自民党総裁に指名されるのは、門前払いを食ってから2週間後のことだった。
竹下政権誕生の最大の功労者(?)とされる石井前会長は、山口組3代目の田岡一雄と同じ、焼け跡世代である。頭の切れるインテリヤクザのはしりといっていいだろう。
69年、土建業・巽産業を設立。同社を小佐野賢治が支援したという逸話が残っている。
86年、稲川会2代目会長となる。ビジネスの対象を不動産と株式投資に絞った。
石井がオモテ社会とウラ社会をつなぐフィクサーの役割を果たすようになったのは、竹下の“ホメ殺し”を封印したからである。
“佐川マネー”の政界ルートの全容が解明できるかが焦点だったが、思わぬ方向へと発展する。 (一部敬称略)
◆有森 隆 ジャーナリスト
30年余、全国紙で経済記者。豊富な人脈を生かし、取材・執筆活動中。「カルロス・ゴーン『経営神話』の自壊」(「月刊現代」2004年9月号)、「C・ゴーン『植民地・日産』の次の獲物(ターゲット)」(同09年1月号=最終号)などを執筆。ゴーン会長の欺瞞性を鋭い筆致でえぐり出した。この仕事ぶりが、今、再び脚光を浴びている。
元稿:日刊ゲンダイ 主要ニュース ビジネス 【企業・産業】 2018年11月28日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。