【中山知子の取材備忘録・01.15】:菅前首相が突いた岸田首相の「痛いところ」派閥会長問題、因縁の2人の距離感はどうなる?
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【中山知子の取材備忘録・01.15】:菅前首相が突いた岸田首相の「痛いところ」派閥会長問題、因縁の2人の距離感はどうなる?
菅義偉前首相が、月刊誌「文芸春秋」インタビューやベトナム訪問の際に言及した「自民党派閥政治の弊害論→今も派閥会長の岸田文雄首相への苦言」が、永田町に波紋を広げた。首相在任中には派閥を抜けた小泉純一郎、安倍晋三両元首相の名前を出しながら、岸田派会長をやめていない岸田首相の対応に、異を唱えた。首相経験者が現職首相に異を唱えるのは珍しいが、「あの菅さんが」「ついに…」という観点から、驚きをもって語られた。
- 令和の元号発表後、「ニコニコ超会議」のイベントに登場した官房長官時代の菅義偉前首相(2019年4月28日撮影)
「あの菅さんが」というのは、菅氏は第2次安倍内閣で、舞台裏での高い調整能力が求められる官房長官としてらつ腕をふるったことに代表されるように、自ら積極的に表に出て、政局につながるような発言をするタイプではない。また、安倍晋三元首相の国葬で人々の心を打った弔辞とは対照的に、首相在任中の言葉は、国民の心にまったく響かなかった。「口べた」「慎重居士」が定番の評価だ。
「ついに…」は、菅氏が「犬猿の仲」といってもいい岸田首相の政治姿勢に、批判的に踏み込んだこと。首相退任時の経緯もあって、岸田首相との関係性がいいという話は聞いたことがない。菅氏が首相在任中の21年8月、岸田首相は自民党総裁選に向けて党役員人事改革などを打ち出し、真っ先に出馬を表明した。菅氏も党役員人事の刷新などを模索したが不調に終わり、結果的に総裁選出馬を断念。岸田首相の動きをきっかけに、菅氏は首相の座を追われた形になった。
昨年10月末、菅氏と岸田首相がともに名を連ねることになって注目された「カーボンニュートラルのための国産バイオ燃料・合成燃料を推進する議員連盟」の発足総会が開かれた。2人とも出席はしなかったが、議連幹部の甘利明氏には、報道陣から「本当は仲が悪いかもという人たちがいっしょにというのは、いかがでしょう…」と質問が飛んだ。甘利氏は「議連を通じて人間関係の溝を埋めて、自民党が一丸になれたらいいと思う」と答えたほどだった。
「文芸春秋」は、政治家が言葉を語る際、時に大きな決意表明の場となることも多い媒体。それだけに、菅氏が現職首相への苦言ともいえる言葉を口にしたことに、一定の「覚悟」はあったとみる向きが多い。菅氏周辺にも菅氏を支える無派閥議員のグループがあるが、「派閥結成か」の見方を菅氏は否定してきた。
永田町を取材すると、菅氏の発言については、やはり首相とは距離がある二階俊博元幹事長とともに「岸田おろしに動き始めた」という声も聞いたが、現段階では大きな流れになる雰囲気はない。低空飛行とはいえ、岸田政権は今のところ淡々と歩みを進める。むしろ、首相の「弱点」や痛いところを突くことで、じわじわ体力を奪う作戦ではないかとみる人もいた。政治状況が厳しくなれば、こういう問題はボディーブローのように効いてくるというのだ。
痛いところといえば、岸田首相には、東京都の小池百合子知事も少子化政策をめぐって、チクリチクリ攻めている。18歳以下の子どもへの月5000円給付、第2子保育の無償化などを含めた総額1・6兆円の子育て政策を、23年度当初予算案に盛り込むことを表明。1月4日の職員あいさつで「本来は国策として取り組む課題」「国の23年度予算案は、ただちに少子化から脱却して反転攻勢に出るという勢いになっていない」と指摘し、13日の定例会見では「国が遅いだけの話」「スピード感をもって国民に刺さる政策を」と踏み込んで、注文を連発。「異次元の少子化対策」との違いを強調してみせた。
岸田首相は昨年の夏以降、旧統一教会と自民党との関係に端を発した被害者救済法制定に追われ、閣僚の辞任ドミノに振り回され、年末には「防衛増税」などを国会審議を経ることなく次々打ち出した。目の前のことへの対応に精いっぱいの様子に見えた。そんな中で菅氏や小池氏が指摘したテーマは、岸田首相にとっては確かに「痛いところ」なのかもしれない。
1月23日から始まる通常国会は「防衛増税」追及国会になる見通しだが、首相自身は地元広島でのG7サミット成功で反転攻勢のタイミングを狙うはずが、派閥については「あしきイメージ」(関係者)、異次元の少子化対策は「名前だけで中身に乏しい」(同)現実が突きつけられた。首相が向き合うべき課題は、いくらでもある。菅氏の狙いはそこではないだろうかとも感じる。
前首相が現職首相への苦言を口にすれば、波紋が広がるのは当然だ。菅氏の指摘は、自身を追い込んだ岸田首相への「反撃ののろし」となるのだろうか。これに対して「聞く力」の岸田首相が、菅氏が投げかけた派閥会長問題に対応することはあるのだろうか。因縁の2人の距離感に関心が注がれている。【中山知子】
◆中山知子(なかやま・ともこ) 日本新党が結成され、自民党政権→非自民の細川連立政権へ最初の政権交代が起きたころから、永田町を中心に取材を始める。1人で各党や政治家を回り「ひとり政治部」とも。現在、日刊スポーツNEWSデジタル編集部デスク。福岡県出身。青学大卒。
元稿:日刊スポーツ社 主要ニュース 社会 【話題・コラム・「中山知子の取材備忘録」】 2023年01月15日 11:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。