塩田潮(以下、塩田):日本維新の会の代表就任から半年が過ぎました。代表任期は次の国政選挙か統一地方選挙の後までとのことですが、4月の統一地方選の後に選び直しとなる可能性も。
馬場伸幸(日本維新の会代表、以下、馬場):そうです。この代表任期の設定は、国政選挙、統一地方選挙を総括するという意味合いが強かったんですが、巡り合わせによって、今回のようにたった8カ月でもう一度、代表選挙をやるかやらないかを決めることになる。非効率的だということで、今、代表選改革を検討していて、年数で任期を決めることで調整しているところです。
◆政権政党に至るまでの3ステップ
塩田:在任期間がいつまでになるかはわかりませんが、党代表として在任中の目標は。
馬場:2021年に維新の会として中期経営計画を策定しました。政党が「経営」という言葉を使ってプランニングしているのは維新だけだと思います。それによると、最終目標は政権政党になることで、到達まで3段階を設定しています。
第1段階が「参院選での数値目標のクリア」で、これは達成しました。
第2段階は今年の統一地方選で、地方議員の総数を現在の400から600にする。維新は組織、団体、企業などの後ろ盾は何もない。やっぱり「人」しかないんです。国政でさらに力を伸ばしていくには、各地域で地方議員が活躍し、その中から国会議員や地方自治体の首長が誕生する形が重要です。今年の統一地方選でその課題をクリアする。
第3段階は次の衆院選で野党第1党となる。今までにはなかった建設的な議論ができる国会に持っていく。その先にわれわれが政権を担う道が見えてくるかなと思います。
塩田:現在の400のうち、250が大阪です。これは伸び切った議席数と映ります。目標の600議席確保には、大阪以外で150を2倍超の350にという計算になりますが、高い壁では。
馬場:去年の参院選の後、統一地方選挙選対本部を立ち上げ、本部長の藤田文武幹事長(衆議院議員)を中心に、過去の国政選挙を精緻に分析して、各地方自治体でどれだけの議員を生み出せるか、検討し、それをベースに発表したのが 600という数字です。到達すれば、「衆院選で野党第1党」という目標をクリアするための大きな武器になります。
実を言うと、 600議席獲得は、数字上、見通しが立っています(笑)。あとは「人」が見つかるかどうかですね。候補者の発掘や公募による候補者集めなどを積み重ねていて、立候補予定者は700に近い数字になっていると思います。最終的に900ぐらいになれば、勝率7割で630になりますので、何とか目標をクリアできるかな、と(笑)。
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馬場伸幸(ばば・のぶゆき)/日本維新の会代表。1965年大阪府堺市生まれ。1986年より衆議院議員中山太郎氏の秘書を8年間務める。1993年堺市議会議員。 2011年堺市議会第76代議長に就任。2012年衆議院議員選挙に初当選。2022年8月より現職(撮影:尾形文繁)
塩田:統一地方選では4月9日に大阪府知事と大阪市長の選挙が行われます。展望は。
馬場:吉村洋文知事は知名度も人気も高いですから、頑張って選挙をやれば大きな失敗はないと思います。大阪市長は、わが党の候補は横山英幸さん(大阪維新の会幹事長。前大阪府議)に替わりましたが、松井一郎市長と比べて知名度も全然低い。チーム野球でいかにうまく押し上げていくかが最大のポイントですね。
もし知事と市長がねじれになれば、活性化しつつある大阪の将来は頓挫するんじゃないですかね。大阪の選挙では、自民党と共産党が組んだりとか、維新に勝つためなら「何でもありの大阪方式」が伝統的になっています。相手がそういうことをやれば、決して侮れないと思います。徹底的に戦いをやる気甲斐性(きがいしょ)で臨むしかないですね。
◆大阪都構想は「府・市合体」で
塩田:大阪都構想は2度の住民投票否決で失敗に終わった形になっています。再挑戦は。
馬場:吉村知事は「大阪都構想の住民投票を今のままの形でやることはない」と明言しています。大阪の場合、大阪府と大阪市の合体というプランが一番いい。ベストの選択肢だと思います。
私の個人的な思いですけど、都構想実現のベースになっている大都市法(大都市地域における特別区の設置に関する法律)は欠陥品だと思う。「大阪市の解体・大阪府への編入」という建て付けになっているため、住民投票ができるのは大阪市民だけです。
大阪市を解体して大阪府に編入するという言い方自体がおかしい。「府・市合体」が正解です。大阪全体に関係することですから、3度目にチャレンジするには、法律を改正して府民全員の住民投票にするとか、やり方を変えないと、批判が出てくると思います。
塩田:2018年11月に「25年大阪・関西万博」の開催が決まりましたが、コロナ大流行は今も収束の見通しが立たない状況が続いています。2年後の開催への影響は。
馬場:第8波もピークアウトしていると言われています。感染対策をきっちり行えば、開催時までには大きな懸念はなくなるのでは、と思います。万博のテーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」で、「健康と長寿」ですから、会場で感染が爆発することになれば、ブラックジョークみたいになります。そのへんの対策はきちっとやらないといけない。
塩田:一方で、維新が推進するIR(統合型リゾート)開設に、根強い反対があります。
馬場:反対される方の根本は、大阪湾の埋立地の夢洲でさらにお金を使ってビッグプロジェクトをすることだと思うんですけど、すでに4000億円ぐらいが投入されている夢洲をあのまま未来永劫、放置することがどれだけ多くのマイナスを生み出すか、考えていただきたい。死にかけた埋立地を再生させ、利用・活用していく方向とは真逆に進んでいく話です。その点を対比させて考えれば、ご理解いただけるのではないかと思います。
塩田:維新は「大阪を東京とは違うもう一つの極に」と唱えています。何が必要ですか。
◆インバウンドと医療に投資する
馬場:大阪は東京に比べて、インフラ整備は随分遅れています。行財政改革や将来への投資で生み出された財源で整備していくことが必要です。それから地理的・地政学的に東南アジアに近いですから、海外からの皆さん方をインバウンドとして受け入れていく。もう一点、大阪が今、力を入れているのは医療です。「医療といえば大阪」という特色のある取り組みが進んでいます。それによって、大阪だけでなく、関西一円を活性化させる。
塩田:代表就任後、全国行脚を続けているそうですが、大阪以外での維新への期待、あるいは批判などについて、どう感じていますか。
馬場:6年前に幹事長になったころは、全国を回ると、「維新って大阪の政党でしょ」とか「何してる党かようわかりません」とか、批判的な意見が多かった。一昨年の衆院選ぐらいから、自民党の支持層でも「自民党もタガが緩んできてる。誰かにタガを締めてもらわなあかんのとちゃうの」という雰囲気が出てきて、「まじめに政治に取り組み、議論している維新はいいんじゃないの」と、風向きが変わってきたと思いますね。
塩田:ですが、昨夏の代表就任後、特に最近は維新の支持率がやや低迷傾向にあります。
馬場:わが党は、選挙が近づくと支持率が上がり、選挙の本番でピークに達する。その後は徐々に落ちていくという傾向があります。私が代表になって、国政でも新しい国会対策を取り入れ、国会運営でそれをやろうとしています。政治は結果ですから、結果を出すことがわれわれの課題だと思います。
塩田:支持率の低迷傾向は、個人的な人気が高かった橋下徹さん、松井さんの後に登場した馬場さんのキャラクターも影響しているのでは、という声も。
馬場:橋下さん、松井さんはリーダーシップとパワーは大きいものがあり、今までは役職に就いている人間が懸命に働いて、みんなはポカンとした感じという状態でした。私はチームプレー重視で、それぞれのポジションをきちっと決め、責任も課し、目標設定もして進めています。最終的にはそのほうが党のパワーは大きくなると思っています。
塩田:橋下さんと松井さんは今も影響力は大きく、年齢もまだ引退期に達していません。今後の維新と両者との関係をどう考えていますか。
馬場:橋下さんはすでに党員も辞めています。人間的なつながりはもちろんありますけど、党としてのつながりはありません。松井さんは10年間、先頭に立って走り続けてきましたから、ちょっと燃え尽きているというか、疲れているところがあると思うんですね。しばらく休憩してもらえればいいんじゃないかな。
ですが、日本の政治はこのまま自民党「1強」体制が続くと、どうしようもない状況が生まれます。そこで抜本的な構造改革をやれるのは、自民党じゃなく、維新だと思います。そのときに余力が残っていれば、戻ってきて、もう一度、一緒に大改革に取り組んでほしいですね。
塩田:政党として維新は内在的に3つの大きな課題を抱えていると見ています。第1は、国政で野党第1党を目指す場合、地域政党が原点の維新はどうやって「国政政党の壁」を乗り越えるのか。第2は全国政党に成長した場合、大阪選出の「大阪組」とそれ以外の「非大阪組」の亀裂という問題をいかに克服するか。第3は、勢力拡大で人材が膨張したとき、「玉石混淆の人材の政党」のトップとして党内をどうコントロールしていくかです。
◆「大阪モデル」を堂々と全国に訴える
馬場:維新が大阪でやってきたことは、これからの政治・行政モデルになっていくと思います。有言実行でやってきたから、大阪で支持が落ちない。兵庫県や奈良県の支持率を見れば一目瞭然ですが、大阪以外でも、特に関西圏では受け入れられてきています。一つの成功例である大阪モデルを、堂々と胸を張って訴えていくべきだと思っています。
人数が増えてくれば、「大阪組対非大阪組」という問題も起こるかもしれませんが、その点はリーダーの一つの仕事です。われわれ大阪の人間が、なぜ維新の会が誕生したのか、なぜ自民党から抜けて一か八かの賭けに出たのか、繰り返し話をすれば、やがて理解が深まってくると思うんです。
各地域を回るときも、自慢話にならないように気をつけながら、これまでの活動を振り返って報告することで、支援が集まってきています。それらの点を認識して、きちっと融和していけるように、リーダーがアクションを起こし、舵取りを続ければ、「亀裂の懸念」は大きな問題ではないと私は思うんです。
もう一つの人材の資質の問題は非常に難しい。党に参加される方を、3回も4回も面接しても、なかなか本性の部分を見抜くことができないのが事実です。ただ、前回の衆院選のころから、わが党に集まる人材は、かなりレベルアップしていると思います。問題を起こしたりしないように、教育は徹底していきたいと考えています。
それと、問題が発覚したときの対応について、「危機管理の基本はスピード」とよく言われます。わが党はスピード感を持った事実調査とか、処分のあり方で結論を得ることを徹底して心掛けています。私の幹事長時代、忍びない部分もありましたが、何回も泣いて馬謖も斬りました。国民の側から見て、潔いな、きちっと対応しているな、身内に甘いわけじゃないんだな、という政治姿勢を取り続けていかなければと思いますね。
塩田:維新に限らず、国政政党、全国政党は、「一枚岩の結束」と同時に、「党内の自由度の容認」「政党としての幅の広さ、懐の深さ」が求められます。そのバランスは。
馬場:党の原点は大阪での改革ですが、財政と行政の両面で、改革の実績を否定するような意見は、党内にはあまりないのでは、と私は思います。わが党の場合、一つの課題は徹底的に議論する、そのうえで民主主義の基本である多数決で決まったことには全員が従うという政治哲学があります。「それがいやなら出ていってください」ということで、そこは堅持してやっていきたいと思いますね。
◆政治家になった以上は総理を目指す
塩田:以前、インタビューしたとき、堺市議に当選した瞬間を振り返って「この業界に入った以上、絶対にトップになったると思った」と語り、衆院選初当選の場面では「首相を目指すには国会議員にならなければ、と挑んで、有資格者になったのが一番うれしかった」とお聞きしました。野党第2党の党首は、展開次第で、もしかすると首相も、という可能性がゼロではないステージです。政治家としての「初心」に変わりはありませんか。
馬場:政治家になった瞬間の思いはまったく変わっていません。トップの総理大臣を目指して頑張るということは、引退までおそらく変わらないと思います。不可能ではない、絵空事ではないというレベルまでは来ていると思っていますので、それを目標に。
塩田:日本のトップを担う人材として、必須の資質、手腕はどんな点だと思いますか。
馬場:うーん、どこですかねえ。組織を動かしていくことは、おこがましいけど、昔からそのポジションにいて経験を積み、慣れている面があります。多様化している大多数の国民の合意を得られるような政策をどう打ち出していくか、そこだと思いますね。
(このインタビューは2023年1月20日に行いました。)
【インタビューを終えて】
過去1年半に第1党の自民党、第2党の立憲民主党、第3党の維新で新党首が誕生したが、迷走が続く岸田首相を含め、与野党の「リーダーの人材難」を心配する国民は少なくない。安倍元首相は他界の直前、都内でのスピーチでトップリーダーの条件として「運と多少の人柄」を挙げた。必要な資質は「プラス実力」の3要素である。
加えて、大転換期の「危機の現代」の指導者は、党内世論ではなく国民の「大きな民意」を吸収・掌握する資質、必要なら「大きな仕掛け」もいとわない柔軟思考と先見力と決断力、さらに立国の基本路線や将来ビジョンといった「大きな政治」を構想し、実行する能力という3条件が求められる。
維新の馬場氏は、「大きな民意」への感度、「大きな仕掛け」の手腕と力量は、備えありと映る。「8番・キャッチャー」「若い世代へのバトンタッチ役」が大化けするかどうかは、「大きな政治」への挑戦が最大のカギだろう。(塩田潮)
元稿:週刊東洋経済新報社 ONLINE 主要ニュース 政治・経済 【国内政治・担当者:塩田 潮 : ノンフィクション作家、ジャーナリスト】 2023年02月23日 06:20:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。