《余録・12.05》:「小説に登場する主人公のモデルとなった少年たちを…
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《余録・12.05》:「小説に登場する主人公のモデルとなった少年たちを…
「小説に登場する主人公のモデルとなった少年たちを含む無辜(むこ)の人々のおびただしい死が、今日の韓国の民主的な社会の尊い礎になった」。韓国の作家、ハン・ガン(韓江)さんの「少年が来る」を訳した井手俊作さんがあとがきに書いている
▲1980年5月、戒厳令下の韓国で軍が民主化運動を弾圧した「光州事件」がモチーフ。女性ではアジア初のノーベル文学賞の授賞理由には「歴史のトラウマに向き合い」という言葉があった
▲韓国映画にも現代史の闇に切り込んだ佳作が多い。学生運動家の拷問死事件を追った「1987、ある闘いの真実」。光州事件を生んだ全(チョン)斗(ドゥ)煥(ファン)元大統領のクーデターを描く「ソウルの春」。民主化の定着でタブーもなくなったのだろう
▲そんな韓国社会の現状とは懸け離れた不可解な暴挙に映った。尹錫(ユンソン)悦(ニョル)大統領が強行した45年ぶりの戒厳令。国会での野党の反対を「反国家行為」とみなし、力で封じ込めようとしても国民がついてくるはずもない
▲軍が国会に派遣されたものの集まった議員や市民には手を出せなかった。国会決議を受け、尹氏は6時間で戒厳令解除に追い込まれた。人権が抑圧された時代を思い浮かべて反対に動いた人も多かったのではないか
▲「これからはあなたが私を導いていくように願っています」「明るい方へ、光が差す方へ、花が咲いている方へ」。事件で倒れた少年たちに祈るような冒頭の小説の一節である。歴史の歯車を戻すことはできない。一刻も早い政治の正常化を願う。
元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【余録】 2024年12月05日 02:02:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。