【卓上四季・11.21】:唯一無二の声
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季・11.21】:唯一無二の声
雪化粧した夜道をとことこ歩くうち、体がすっかり冷えた。たまらず、なじみの店ののれんをくぐる。ぬるめの燗酒(かんざけ)でやっと人ごこちがつくと、切ない恋の歌が聞こえてきた
▼「雪の華(はな)」「なごり雪」…。店に流れるのは、中性的でハスキーなボーカルだった。だれだろうか。徳永英明さんかな? おかみさんに確かめると、やはりそうだ。女性歌手のヒット曲のカバー集。楽曲の力に加えて徳永さんの声に魅了された。ロングセラーになったのもうなずける
▼声というのは不思議だ。親しんだ声なら久々に聞いても持ち主がわかることが多い。歌い手や家族はもちろん声優も典型か。ドラえもんだと大山のぶ代さん、峰(みね)不二子が増山江威子(えいこ)さん、ちびまる子はTARAKO(たらこ)さん。今年世を去った名優たちの声は人々の記憶に刻まれる
▼こうした唯一無二の声が危機に直面する。声優や歌手の声を生成AI(人工知能)に学ばせて音声を作り、ネット上で無断利用する―。そんな動きが広まった
▼声そのものは著作物ではない。だから著作権でカバーされないことが盲点となる。俳優や声優でつくる団体がルール作りの必要性を強く訴えているのも当然だ
▼プロフェッショナルの声は才能だけでなく、鍛錬のたまものにほかならない。敬意を払い、節度を守ってこそ、末永く楽しめるに違いない。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2024年11月21日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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