【社説・11.24】:【香港民主派実刑】:消滅に等しい一国二制度
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.24】:【香港民主派実刑】:消滅に等しい一国二制度
選挙を通じて政治や社会を変える。民主主義体制の下では当然のことが犯罪行為と認定された。
香港の高等法院(高裁)が民主派45人に対し、懲役10年~4年2月の量刑を言い渡した。立法会(議会)選挙に先立ち行った予備選を巡り、政権転覆を共謀したとして香港国家安全維持法(国安法)違反の罪に問われていた。
民主派は2020年7月、候補者調整の予備選を実施。立法会選挙での過半数獲得を目指し、政府の財政予算案の否決を呼びかけた。しかし判決は、政府の機能をまひさせて行政長官を辞職に追い込むことを企て、政権転覆の意図があったと認定した。
市民の自由で民主的な選挙活動を厳しく罰する不当な判断だ。香港に高度の自治を認めた「一国二制度」は消滅したに等しい。
国安法は、19年の反政府デモを受け、翌年に中国指導部の主導で施行された。国家分裂や政権転覆、外国勢力との結託などを犯罪行為として処罰する。
しかも国安法事件は行政長官が指名した裁判官が審理に当たる。司法の独立も脅かされるようになった。民主派はほぼ壊滅状態に追い込まれ、抗議活動は消えたという。
立法会の選挙制度も大きく変えられた。資格審査を取り入れて反中国的な候補者を排除するなど、「愛国者による香港統治」を強化した。住民生活に近い区議会(地方議会)も親中派に圧倒的優位な選挙制度に変更した。民主派排除の姿勢は徹底している。
統制強化はさらに続く。今年3月には、国安法に含まれない行為を新たに犯罪として規定した国家安全条例も施行された。
国家への反逆や反乱の扇動、国家機密の窃取やスパイ行為などが処罰の対象となる。扇動罪の定義が拡大され、言論や出版、表現の自由にも制限が加わった。国家安全を最優先する中国指導部の意向が香港にも反映された格好だ。
国安法と国安条例の違反で逮捕されたのは今年6月時点で約300人に上り、うち約180人が起訴された。同法違反の罪に問われて廃刊に追い込まれた民主派香港紙、蘋果日報(リンゴ日報)創業者の公判も続く。
締め付けの強化で、自由で開かれた国際都市の魅力は失われつつある。既に多くの香港人が外国へ移住し、外資撤退の動きも目立つ。これは中国の国益に反するはずだ。
今回の実刑判決に対し、国際社会は厳しい目を向けている。米国は対抗措置として国安法を推進した香港当局者に対し、ビザを制限する制裁を科した。英国も同法を非難する声明を出している。
台湾は、中国が台湾統一を求めていることを念頭に、中国共産党を批判した上で「民主主義は罪ではない」と強調する談話を発表した。
強権的な統治は国際社会の不信感を強め、緊張を高めるだけだ。中国指導部や香港政府は自治の原則に立ち返らなければならない。
元稿:高知新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月24日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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