【社説・05.04】:自衛隊の歴史観 戦前回帰の空気を懸念
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・05.04】:自衛隊の歴史観 戦前回帰の空気を懸念
自衛隊員の歴史観が疑われるような問題が相次いでいる。
昨年5月に海上自衛隊練習艦隊司令部の司令官らが、今年1月には陸上幕僚副長らが、相次いで靖国神社を集団で参拝した。
3月には、靖国神社の新しい宮司に元海将が就任することが発表された。4月には陸上自衛隊の普通科連隊が公式X(旧ツイッター)で「大東亜戦争」という言葉を使って活動報告を投稿した。
自衛隊は戦後、平和憲法の下で発足した。先の戦争を美化する歴史観や、旧軍の伝統とは断絶することが大前提だ。
集団参拝は、国と宗教を切り離す憲法の政教分離に抵触しかねない極めて問題ある行動である。戦前回帰のような言動は、厳に慎むべきだ。
陸自の陸上幕僚副長ら数十人が集団参拝した問題では、移動に公用車を使い、担当部署が実施計画を作成していた。
防衛省は公用車の使用が不適切として計9人を処分したが、休暇中だったことなどから、部隊参拝を禁じた事務次官通達違反ではない私的参拝だったと結論づけた。
だが、事前に行政文書である実施計画まで作っていたのに、組織的な参拝ではないと言い切るのは無理がある。身内に甘いお手盛りの処分と言うほかない。
昨年5月の海自幹部らの集団参拝についても、防衛省は、私的参拝だとして問題視しなかった。
靖国神社は戦前、国家神道の中核をなす陸海軍の所管機関だった。現在は東京裁判のA級戦犯を合祀(ごうし)している。
政教分離は、国民の信教の自由を保障するためにも重要な原則であることを肝に銘じるべきだ。
大東亜戦争の呼称は、日米開戦直後、当時の政府が決定した。アジアの解放と新秩序建設との喧伝(けんでん)に使われたものだ。
戦後、連合国軍総司令部(GHQ)が使用を禁じ、今は政府も一般に公文書では使っていない。
歴史的経緯を踏まえず、当時の呼称を無条件に使うのは、先の戦争の肯定と受け取られかねない。侵略戦争や植民地支配への反省を忘れてはならない。
一連の言動に対し、自衛隊の最高指揮権を持つ岸田文雄首相は、何ら危機感を示す発言をしていない。木原稔防衛相も「誤解を招くような行動は避けなければならない」と述べるだけだ。
文民統制は民主政治の原則である。首相は、憲法に基づき毅然(きぜん)とした姿勢を示さねばならない。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年05月04日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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