【社説・12.20】:仮装身分捜査/導入に向け課題の解決を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・12.20】:仮装身分捜査/導入に向け課題の解決を
首都圏などで相次ぐ闇バイトによる強盗事件を受け、捜査員に架空の身分証を使ってバイトに応募させ、摘発したり犯行を抑止したりする「仮装身分捜査」の導入を盛り込んだ緊急対策を政府がまとめた。来年早い時期の実施を目指す。
仮装身分捜査は現場の要望を受け長年検討されてきたが、安易な適用を懸念する声は根強い。今後、都道府県警に示すガイドラインで歯止めとなるルールを明確にした上で、実効性のある運用を図るべきだ。
一連の事件の実行役は若者が大半で、交流サイト(SNS)の「高収入」「ホワイト案件」との書き込みにつられて応募していた。参加を断ると運転免許証などの個人情報を基に「家に行くぞ」などと脅され、逮捕されるまで何度も加担させられる事例も目立つ。多くは報酬も支払われず、卑劣さは際立っている。
仮装身分捜査では、架空の身分証を作成した上で捜査員が闇バイトに応募し、犯行グループとの接触を図る。実行役として現場に集められる過程で、他のメンバーを摘発する手法が想定され、募集を抑止する効果への期待もある。
これまで違法薬物や銃器の捜査の一環で、捜査員が身分や目的を隠し密売などの犯行を促す「おとり捜査」が用いられてきた。これに対し、仮装身分捜査は事前抑止が目的で、若者らによる犯行の実行を食い止められる利点がある。
導入に慎重だったのは、身分証の偽造が本来違法なためだ。一方、刑法は「正当な業務による行為は罰しない」と規定しており、警察庁は現行法下でも実施可能とみている。
国外では米国やドイツ、フランスなどが導入しているとされるが、他の犯罪捜査への安易な拡大は避けなければならない。適用を闇バイトに限る特別法を制定するなど、歯止めが欠かせない。摘発に踏み切るタイミングの判断や捜査員の安全確保など捜査上の課題もある。対策をきめ細かく練り上げてほしい。
闇バイトによる犯行を元から断つには首謀者の摘発が必須だが、秘匿性の高いアプリで遠隔指示するため捜査は容易でない。
緊急対策は、募集者の氏名や業務内容の記載がない求人情報を違法と明確化し、事業者に削除させるよう求めた。さらに、アプリに対する捜査環境の整備も不可欠だ。憲法が保障する通信の秘密に配慮しながら、通信データの照会を可能にする方策を追求してもらいたい。
強盗罪の刑罰は5年以上の懲役、強盗殺人は無期懲役か死刑である。将来ある若者が意図せず凶悪犯罪に手を染めるような事態は早急に止めなければならない。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月20日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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