【社説②・12.23】:仮装身分捜査 乱用招かぬ歯止め必要
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・12.23】:仮装身分捜査 乱用招かぬ歯止め必要
交流サイト(SNS)で犯罪の実行役を募る「闇バイト」について、政府が緊急対策をまとめた。捜査員が応募者を装い犯行グループに近づく「仮装身分捜査」を来年導入するという。
闇バイトによる強盗などの事件では死者も出ており、住民の不安は高まっている。闇バイト事件の根絶に向け、手だてを尽くすべき状況にある。
とはいえ、仮装身分捜査の適用範囲がなし崩しに広がるようなことがあれば、捜査を理由に市民生活にさまざまな影響が及ぶ恐れがある。
警察庁は闇バイト関連にのみ適用するとして運用指針をつくるというが、それでは不十分ではないか。
法律で厳格に規定して乱用に歯止めをかけるべきだろう。捜査手法の正当性や実効性を含め、国会で議論するべきだ。
闇バイトの犯行グループは多くの場合、秘匿性の高い通信アプリで実行役に犯行を指示する。事前に犯行を察知するのは難しく、被害は後を絶たない。この状況への危機感が仮装身分捜査を導入する背景にある。
似た捜査手法に、違法薬物や銃器の取引などで行う「おとり捜査」がある。犯罪を意図して起こさせる捜査の行き過ぎが課題として指摘されている。
仮装身分捜査では、架空の人物になりすました捜査員が偽の運転免許証などの身分証を用意して応募。指示役から集合場所などを聞き出し、犯行の前に実行役らを逮捕し被害を防ぐことを想定している。
ただ、偽の身分証をつくることは本来、公文書偽造などに当たる違法行為だ。
警察庁は、刑法の「正当な業務による行為は罰しない」との規定を根拠に違法性は阻却されるとみているが、身分証の信頼低下といった混乱を社会に招くことも考えられる。
捜査員が偽造の身分証を悪用することはあってはならず、厳格な管理が欠かせない。乱用を防ぐために、運用状況を点検できる仕組みも求められる。
捜査員の安全をどう確保するかも大きな課題だ。
緊急対策には、SNS事業者に問題のある求人情報の削除を促し、アカウント開設時の本人確認の厳格化を要請することも盛り込まれた。各社は主体的に取り組みを強化してほしい。
秘匿性の高い通信アプリは海外の事業者が運営している。それらの事業者に交渉のための日本法人窓口の開設も働き掛ける。表現の自由や通信の秘密を踏まえながら、理解を求めていく必要がある。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月23日 04:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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