《社説②・12.12》:国際社会と核兵器 被爆者の声を廃絶の糧に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・12.12》:国際社会と核兵器 被爆者の声を廃絶の糧に
核のリスクはかつてなく高まっている。国際社会は未来に対する責任を共有しなければならない。
「人類が核で自滅することのないように」。ノーベル平和賞授賞式で日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の田中熙巳(てるみ)さんは警鐘を鳴らした。
世界の指導者が耳を傾けるべき被爆者の言葉である。
ウクライナ攻撃を続けるロシアは核の脅しを繰り返し、使用のハードルを下げている。中国は長射程の戦略核を増強し、北朝鮮は戦術核の開発に乗り出す。
いずれの国も核戦力を重要な軍事戦略に位置付ける。
これに対し、米国は3カ国に同時に対抗できる態勢を検討するという。通常兵器の強化に加え、核弾頭の配備増も視野に入れる。
懸念を増大させているのが、大統領に復帰するトランプ氏だ。1期目では、イランの核開発を制限する核合意から離脱し、ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄した。
核戦力の強化を宣言し、北朝鮮への核攻撃すら示唆した。危機感を強めた議会は大統領の核使用権限を制限しようとした。
強硬姿勢に変化はない。大統領が核使用を命じても糾弾されるべきではないと主張する。地下核実験を再開するとの観測も流れる。
負の連鎖を断ち切るには、対話で解決策を探るほかにない。
米露間の軍縮条約である新戦略兵器削減条約(新START)は、次期政権発足から約1年後の2026年2月に期限を迎える。
延長で合意し、核兵器の配備を増やさないようにすることが欠かせない。
国際社会の取り組みも重要だ。今秋の国連総会では、核戦争が人類と地球に与える被害を予測する専門家パネルの設置が決まった。
その甚大さを想像し、各国首脳が話し合えば、使ってはならないという「核のタブー」を共有できるはずだ。
核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)に続く被団協の平和賞受賞は草の根の力を見せつけた。廃絶の世論をさらに広げたい。
「歯止めなき核の世界」の現実を「核なき世界」の理念に引き戻す。それを後押しするのが唯一の戦争被爆国である日本の責務だ。
元稿:毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年12月12日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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