【社説・11.23】:選挙運動/公正さを保つ対策を急げ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.23】:選挙運動/公正さを保つ対策を急げ
17日に投開票された兵庫県知事選では、選挙運動を巡って想定外の事態が相次ぎ、県選管に苦情が殺到するなど混乱した。詳細を検証して対策に生かし、民主主義の土台となる選挙への信頼を守らねばならない。
特徴的だったのは、政治団体「NHKから国民を守る党」党首が、自らの当選ではなく失職した前知事の支援を目的に立候補したことだ。
公職選挙法では候補者間の機会均等などを確保するため、ポスターや選挙カー、はがきなどの数や規格が厳格に規制されている。しかし、一人の候補者を当選させるために複数の候補者が協力し合えば、こうした前提が崩れかねない。
党首はポスターに自身のプロフィルや政策ではなく、告発文書問題に絡む個人のプライバシー情報などを掲示した。こうした行為の是非も検証されねばならない。また、7月の東京都知事選と同様に、大量の候補者の擁立を示唆したことから、県選管が急きょポスター掲示板の増設を各市町選管に指示し、後に撤回する事態も生じた。相当の公費負担が生じたことは看過できない。
さらに党首は告発文書問題を検証する県議会の調査特別委員会(百条委員会)委員長の自宅兼事務所前で演説し、委員長は「脅迫目的だった」として被害届を出した。候補者の活動は尊重されるべきだが、選挙の自由を重視するあまり、必要な取り締まりをためらってはならない。
知事選では、交流サイト(SNS)の動画などに注目が集まり、投票率上昇に寄与した半面、真偽不明の情報や誹謗(ひぼう)中傷などがあふれ、投票行動に影響したとの指摘がある。
ネットを使った選挙運動が解禁され10年余りがたつ。虚偽表示は禁止され、侮辱罪など刑法も適用されるが、大量の情報が流れる中、違反行為の取り締まりは容易ではない。
選挙期間中、新人候補陣営のX(旧ツイッター)のアカウントが凍結し、陣営は根拠不明の違反報告による妨害が相次いだとして県警に告訴状を提出した。活発な論争を損なうことのないよう、副作用にも目配りした多角的な議論が求められる。
ネットの特性に関する啓発も不可欠だ。自分と似た意見を持つユーザーをフォローすると、同様の意見が次々と表示される「エコーチェンバー」現象が起きる。有権者は、SNSに真偽が不明確な情報が含まれていることを理解してほしい。不用意に拡散すると、他者の人権や名誉を傷つける恐れがある。
選挙運動に疑義が生じれば、結果の正当性が揺らいでしまう。言論や表現の自由を最大限に尊重しつつ、選挙の公正さを守る規制の在り方などの議論を急がなければならない。
元稿:神戸新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月23日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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