【社説・11.22】:「103万円の壁」 開かれた議論、各党で尽くせ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.22】:「103万円の壁」 開かれた議論、各党で尽くせ
年収が103万円を超えると所得税が生じる「103万円の壁」の見直しに自民、公明、国民民主の3党が合意した。壁を178万円へずらすことを求めてきた国民民主に自公両党が歩み寄り、年末にかけての税制改正の場などで具体的議論が進む見通しだ。
国民民主の浜口誠政務調査会長は「手取り増に向けて大きな一歩を踏み出せる」と胸を張った。28日開会の臨時国会で、政府の補正予算案にも賛成する方針という。
働き方を時代の変化に合わせて変えていくことに異論はない。手取り増を掲げた国民民主が衆院選で躍進したことも民意ではあろう。
しかし、見直しの方向性には賛成できても、個別の課題は多い。十分な検討もなく、年末までに数字だけを見直すような結論では禍根を残す。
壁を178万円にずらす狙いが、より多くの人に労働参加を促す就労対策なのか、憲法25条の生存権を重視し、課税最低限を引き上げるためなのか。国民民主の主張はどうも曖昧に映る。
前者であれば、一律に基礎控除を引き上げるのは理にかなわない。後者なら税だけでなく、より高い壁となっている社会保険料も合わせて見直さなければ効果は薄い。
しかも、厚生労働省が目指す社会保険料の見直しは、これまで扶養の範囲内だったパートタイマーにも保険料負担を求める内容だ。国民民主の主張とは真逆に手取りが減ることになる。老後の年金などは増えるとは言うが、年15万円ほどが見込まれる負担増は決して軽くはない。
企業が支給する家族手当も税制上の扶養を条件にしているところが大半だろう。扶養から外れれば会社員である配偶者の税金も増えることになる。仮に178万円にまで壁が動いたとしても、扶養を外れてまで働ける流れがどれだけ広がるかは見通せない。
育児や介護を社会で担う仕組みが整っておらず、主に女性が家事を担わざるを得なかった時代から夫婦共働きが当たり前になった時代への変革期である。制度を改めることは不可欠としても、ゴールポストを動かすように、控除額を単純に増やすだけでは抜本的な解決策にはなるまい。
制度見直しによる税収減の問題もある。国が壁を178万円にすれば減収は7兆6千億円と見込む。減税効果で景気が上向けば税収は上振れるかもしれないが、防衛力増強などで膨張した予算を見直すことも必要だろう。
影響は地方も受ける。事業見直しでは追い付かないかもしれない。給食費や医療費の無償化など、地域の実情に即した横出しのサービスが失われる可能性も否定できない。
3党合意を基に、具体的な議論はこれからになる。これまでは与党が数の力を頼りに決定してきたが、少数与党政権ではそうはいくまい。
立憲民主党も社会保険料の負担増を穴埋めするような前向きな案を示している。3党だけでなく、各党がよりオープンに議論を尽くし、国民の納得が得られる制度に仕上げてもらいたい。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月22日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます