【社説・01.13】:学習指導要領/教育現場にもっと余裕を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・01.13】:学習指導要領/教育現場にもっと余裕を
2030年代の学校教育の在り方についての議論が始まった。画一的な授業から脱し、多様な個性や背景を持つ子どもたちの成長を促す取り組みを着実に進めてほしい。
阿部俊子文部科学相は、小中高校で教える内容や教育目標の基準となる学習指導要領の改定を、有識者らでつくる中央教育審議会に諮問した。指導要領はほぼ10年ごとに見直されており、中教審は26年度中の答申を目指す。新しい指導要領に基づく授業は30年度以降、小学校から順次始まる見通しだ。
諮問は「多様性を包摂する教育」を強調する。現在の指導要領が掲げる「主体的・対話的で深い学び」の方向性を維持しながら、学校の裁量拡大による教育課程の柔軟化、デジタル時代に合わせた教育、教員の負担軽減-の検討を求めている。
例えば教育課程の柔軟化では、1こまの授業時間を5分短縮して浮いた時間を個別学習や探究活動に振り向けたり、学年の枠を超えて過去につまずいた分野の授業を受けられたりすることなどを想定する。
学校現場の自由度を高め、教員の創意工夫を後押しする狙いは妥当といえる。しかし、子どもの多様性に対応しつつ主体的な学びを進めるには、全体の学習内容や授業数を見直し、教員の配置拡充に踏み込むなどして、現場に余裕を持たせることが不可欠だ。
指導要領は改定のたびに内容が膨らみ、「終わらせるだけで精いっぱい」との声が上がる。教員の持ちこま数を減らし、児童生徒に向き合う時間を増やすことが教育の質向上につながるとの指摘は多い。だが、学力低下の批判を恐れる文科省は、このたびの諮問で「(総授業数は)現在以上に増加させない」とするにとどめた。
不登校の小中学生は、23年度に過去最多の34万人超となった。発達障害の可能性がある児童生徒や、外国にルーツを持つ子など、丁寧な支援が要るケースは増えている。そうした中で、文科省は生成人工知能(AI)の発達を踏まえ、情報モラルの育成なども現場に要請している。
十分な対策を取らなければ、教員の負担は軽くならないばかりか、学力格差が広がることにもなりかねない。中教審には、疲弊する学校現場と問題意識を共有しながら、改善への道筋を探ってもらいたい。
国際的な調査では、日本の子どもの学力は世界トップクラスだが、自己肯定感が低く、自律的に学習に取り組む意欲が乏しいとの結果が出ている。次代の「生きる力」を育むために、長期的な視野で教育の在り方を議論し、先進国でも低い教育への財政支出を増やす必要がある。
元稿:神戸新聞社 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月13日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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