【社説②・01.19】:国立劇場再整備 国際的な視野で活用法を探れ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②・01.19】:国立劇場再整備 国際的な視野で活用法を探れ
伝統芸能の重要な拠点である劇場の再整備が課題となっている。建物を新しくすると同時に、海外の演者や観客が一度は訪れてみたいと思うような場所にすべきだ。
老朽化による建て替えのため、東京・国立劇場が閉場してから1年以上になる。建設費の高騰などで入札が2度不成立となり、事業者は今も決まっていない。
国は今年度の補正予算で物価高騰分として200億円を追加計上した。昨年末には整備計画も改定し、ホテルの併設を必須としないなど、入札条件を緩和した。
国立劇場は1966年に開場した。歌舞伎や文楽などの鑑賞の場であるほか、担い手の養成にも力を注いできた。商業的な成功が難しいような作品の上演も試み、文化の維持発展に寄与してきた。
再整備の遅れを巡っては、関係者が「伝統芸能の発表の場が失われ、衰退しかねない」と危機感を募らせている。国立劇場は、国を代表する文化施設である。十分な予算措置を講じ、充実した内容にすることが欠かせない。
新しい国立劇場は、約1600席の大劇場と約600席の小劇場を備える、旧劇場と同様の規模になる予定だ。施設のバリアフリー化も進めるという。
ただ、それだけでは十分とは言えまい。主催公演の有料入場者数は1979年度の約42万人をピークに、閉場前の2022年度には約23万人まで減った。施設を新しくしただけでは、集客の増加が見込めるのか疑問だ。
コロナ禍が収束し、海外から再び多くの観光客が来日している。日本の伝統芸能を味わってもらうのに加え、時には映像や現代音楽と組み合わせるなど、新しい観客の発掘にも努めるべきだ。
海外のエンターテイナーも憧れるような舞台を目指してほしい。アジアを始めとする各国の伝統芸の演者らを招き、交流の場とすることも一案だろう。
改定した整備計画も順調に進まないようなら、建設地を含めて、計画を抜本的に見直すことも検討すべきではないか。
伝統芸能を守りつつ、国際的に活躍する人気グループのコンサートやミュージカルの上演にも適した多目的の大劇場として整備することも考えられる。
日本を含め、多くの国では文化や芸能、アニメ、映画などのコンテンツ産業が盛んだ。世界に誇れる劇場を整備し、アジアの文化の中心地となれるような魅力的な舞台づくりを目指してほしい。
元稿:読売新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月19日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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