【社説・01.11】:温室効果ガス削減目標 排出国の責任を果たさねば
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・01.11】:温室効果ガス削減目標 排出国の責任を果たさねば
政府は、温室効果ガスの新たな排出削減目標を「2035年度に13年度比60%減」とする地球温暖化対策計画の改定案を了承した。
60%減は、現在の目標「30年度に46%減」の延長線にある。いわば、上乗せのない数字だ。しかも産業革命以降の気温上昇を1・5度に抑えるパリ協定の目標達成のため、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が必要とする削減量に届いていない。
先進国の中で米国に次ぐ世界5位の排出量を抱える国の責任を放棄しているとしか思えない。世界に胸を張れる数値にまで、削減幅を引き上げる必要がある。
24年は世界各地で記録的猛暑や洪水などの気象災害が多発し、気候変動危機の深刻さを印象付けた。気温上昇が1・5度を上回った最初の年になりそうだという。
11月にブラジルである気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)に向け、各国に大幅な削減目標の打ち出しが求められるのは当然だ。
IPCCは、1・5度目標の達成には35年に19年比で60%減が世界平均で必要と試算する。日本が基準とする13年度比にすると66%減に相当する。政府の目標値は6ポイントも足りないのに、「野心的」と自画自賛する姿勢にあきれる。
欧州連合(EU)は40年までに1990年比90%減、英国は35年までに同81%減と、はるかに野心的だ。先進国が本気度を示せば、途上国の対策を促すことにもつながる。
政府の目標値は、経済産業省と環境省の合同会合でまとめた。ベースにあるのは経産省所管の公益財団法人が示した「大幅削減ならコストが多大」とする試算だ。目先のコストにとらわれ目標を低く設定するのは、気候変動危機を軽視するのと同じだ。災害や熱中症に拍車がかかれば国内経済も影響を避けられない。
60%減は、経団連が昨秋提言した数値から一歩も踏み込んでいない。再生可能エネルギー拡大や電力システム改革を怠れば「企業の競争力にも影響する」と75%削減を求めたリコーなど大手企業グループの意見や、科学者らの声は反映されなかった。
官僚の筋書き通りの目標値を、政府が型通りの会議で認めるやり方も納得できない。本来は国民生活の実情に即した議論の積み上げが必要だろう。エネルギー確保と消費の在り方も根本から問い直されるべきだ。国民不在の決め方で実効性が伴うと思えない。
トランプ次期米大統領はパリ協定離脱を準備し、米国に危機回避のリーダー役は期待できない。再エネ普及の鍵を握るペロブスカイト太陽電池などの分野で強みを持つ日本がけん引役を果たすべきだ。
その観点からも石破茂首相は、この目標値でCOP30に臨めば国際社会や将来世代にどう受け止められるか、よく考えてもらいたい。
国連への提出期限は2月。政府は今月26日まで意見公募をした後に閣議決定するという。意見募集を形式だけのものとせず、提出を引き延ばしてでも日本のこれからの行動を見直す決断を求める。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年01月11日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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