國立演藝場の演藝資料展示室で、企画展「口絵・挿絵でたどる演芸速記本」を覗く。
近代ニッポンで考案された“速記”術が、落語の口演を稽古台にしたことで大いに發展して今日に至る“言文一致体”の基礎を生み出し、またそれら速記本に華を添へた口繪や挿繪が、のちのち近代ニッポンの繪画に幅を與へた意義を考へると、明治十七年(1884年)に「怪談牡丹燈籠」を出版して演藝速記本の嚆矢となった三遊亭圓朝の偉業にはなかなかのものがある。
挿繪は讀み手が文章から想ひ描く世界を補助し、また誘導する役割などを担ってゐるが、連載物の場合は画家が事前の打ち合はせを元に内容を想像して描くため、物語が發表直前で変更となって文章と挿繪とが合致しない悲喜劇もあった云々。
小学生の時に愛讀してゐたポプラ社刊の江戸川乱歩シリーズの挿繪には、作品世界そのままの妖しい都市トウキョウの一片が描かれてゐて、遠い郊外に住んでゐた當時の私には、そんな都會の魑魅魍魎さに強く魅了されたものだった。
果たしてそれは、乱歩の魔力であったか、または挿繪画家の魔術であったか──?