地元の住宅地で、初めてタヌキに逢ふ。
東京都心から各停電車で約三十分の町に、このやうな動物がゐるとは思ひもよらず。
野生なのか飼はれてゐるのか分からねど、珍しさにカメラを向けても逃げる様子はなく、却ってのんびりと地面に伏せて私をじっと觀察するヒト慣れしたその胆力、こりゃタダモノに非ず。
そして五代目柳家小さんを連想させる愛嬌ある風貌に、つひ微笑を誘はれる。
かたや。
夜になるとキーキーギャーギャーと、癇に障る奇聲を發するメスの人面獣が數匹、人災疫病禍元年初夏の頃より、わが町内に棲みつく。
夜行性の成獣と思はれるそれらの棲みかの前には、人名を刻んだ表札が出てはゐるが私はそれを無視し、「獣舎(ケモノごや)」と呼んでゐる。
この獣舎にはほかにも、中型犬が一匹ゐる。
吠えないやう躾られてゐるらしいその中型犬がこの獣舎でいちばん静かとは、なんとも皮肉であり、またお笑ひ草だ。
同じニンゲンに非ず、あくまで人面獣(ケモノ)だと思へばこそ、夜間の奇聲も「あぁ、またアレが吠えてら……」と鼻先で笑ってやり過ごせる。
タヌキに人面獣──
動物も、實に様々だ。