「老人タイムス」私説

昭和の一ケタ世代も高齢になりました。この世代が現在の世相をどう見て、考えているかーそのひとり言。

         東京の悲劇 ”故郷の廃家”

2008-08-28 05:25:50 | Weblog
東京の代々木上原の築80年の木造二階建て住宅が倒壊した。明治神宮に比較的近
い住宅街の出来事である。幸い中に住んでいた80歳と74歳の老姉妹は付近の住民に
助け出されケガもなかった。もしこれが夜間に起きたならば、大事にいたったかもしれ
ない。東京で起きた”故郷の廃家”の悲劇だ。

僕は昔、外国人の研修施設がこの近くにあるので、このあたりをよく通った。今は地下
鉄と小田急が相互乗り入れして駅も高架な大きなものになっているが、戦前は郊外の
小さな駅だった。調べてみると小田急が開通したのが昭和2年で、駅も「代々幡上原」
駅の名で開業している。倒壊した家は駅の近くにある。多分、そのころ老姉妹の両親が
土地を借りて新築したものかもしれない。

わが家の周囲にも二軒、同じように戦前建てられた家がある。もう雨漏りがするのだろ
う。瓦屋根の上にブルー・シートが載せてある。そのうちの一軒の当主を子供時代から
知っている。彼の先代が新婚時代に越してきたのだから、彼も70歳を越えているが何故
か独りで住んでいる。

空襲で焼け残った東京のかっての郊外には、まだ築70年、80年建った古家が残っている。
戦前は地主から土地を借りて家を建てるのが、東京では慣習だったが、戦後相続税その
他で土地を放す地主が多くなった。土地の借主との間の話がうまくいけばよいが、こじれ
ると、こんな倒壊寸前の家にいつまでも”いついて”しまう。中学唱歌「故郷の廃家」は”住
む人絶えてなく”だが、東京では”住む人移り住む所なく”倒壊するまで住んでしまう。故郷
がここしかない悲劇だ。