まだまだ先だと思っていても
いつかは必ずやってくるのが未来だ
出場すると決めてから10ヶ月
ついにその日はやってきた
四国を一周する1000kmのブルベだ
いろんなことに対応するため バッグ3つ付けの最大装備
撮影もできるように
パッと取り外しできるカメラマウントもエアロバーに装着した
サドルバッグの中身も最大だ
レイン上下
レインキャップ
ウェロトーゼ
小型ポンプ
ゴム手袋
防寒防水手袋
部屋着
マッサージボール
インナー(スリーブレス)
インナー(ロングスリーブ)
靴下
アームカバー
レッグカバー
タイヤはチューブレスだが
いざという時のためにチューブ(TPU)も入れた
さすが1000km
チェックポイントは12箇所と多い
これまでは 写真撮り忘れとか
必ず何かをやらかして来たが
今回はどうぞミスしませんように(笑)
スタート/ゴールは徳島市
五郎さんと旅した時は雨だったなあ
港の倉庫街を改装したおしゃれなポイント
参加者は100人ほど
全員がSR(200〜600km全クリア)取得者だけあって
デキる雰囲気が漂っている
でも中にはサンダルばきにミニベロの人や
たぬき(のちに熊と判明)の着ぐるみがいたり
お祭り感もありまくり
ホントにあれで走る気だろうか…?
順番に車検を受け(今回は無事に通過)
13時07分にスタートした
距離 1005.8km
獲得標高 9518m
坂道の数 81
制限時間 75時間
徳島(四国の右側)から反時計回りに1周する
途中 左端の佐田岬と南側の四万十川沿いに
内陸部への往復区間があるのが特徴だ
どんな出来事が待っているのか…
楽しみ7割 不安3割で走り出した
天気はゴールまで晴れ予報だが油断は禁物だ
女心と秋の空だ
トレインに加わり参加者についていくが
ペースがとんでもなく速すぎる
自分はこのまま行くと 明日以降使い物にならなくなる
千切れるべきか ついていくべきか
迷い続けるが
そこまでアウトなパワーではないので 着いていくことを選んだ
52km地点のチェックポイントを2時間で通過
小山がぽっこり散らばる讃岐の風景が好きだ
殿(筒井道隆さん)と旅したベトナム北部のハジャンと
とても似ている
速いと言ってもパワーにすると平均180Wほど
トレーニングにあてはめると L2の上限ぐらいな感じ
普段の自分なら ホテルをとっている今治(200km地点)までは大丈夫のはずだが
100kmを過ぎると 脚のあちこちが痛くなり始めた
これはおかしい こんなこと初めてだ
トレインから千切れ ペースを落とすことにした
出発直前に 娘からもらった風邪のためか?
それとも別に理由があるのか…
ちょっとブルーになりつつ 200km地点の今治に到着
予想より2時間早い 21時だった
1000kmを3日間で走るとなると
本当は松山(250km)か伊方(300km)に宿を取りたかったが
夜中にチェックインできるホテルがなかった
今治のホテルに泊まるのは 実は初めて
ロビーには自転車の整備スペースはあるし
当たり前のように 自転車ごと部屋に入れてビックリ
部屋着まで置いてある!
さすがしまなみ海道の拠点だ
膝の痛みが何かの間違いでありますように
そう願いながら コンビニのパスタを食べ
3時間の睡眠をとった
2日目
深夜2時に今治を出発
今日は600km地点の高知県 四万十市をめざす
愛媛県 伊予市(290km地点)で夜が開ける
交通量の多い松山市街地を 夜のうちに通過できた
ここまでは順調だった
しかし
300km地点
佐田岬に向かって西へ走り始めたころ
マズい事態が起こった
膝がキョーレツに痛み始めたのだ
痛みはみるみる強くなり
強く踏むと「ズキューン!」と突き刺すように痛む
これはたまらん
膝が痛いとどうなるかというと
スタンディングができない
ずっとサドルに座り続けることになり
お尻の破壊が始まる
坐骨のところがズンズンと痛むので
なんとか立ちあがろうとするが
今度は膝が「ズキューン」と痛む
座ってズンズン
立ち上がってズキューン
逃げ道ゼロ(笑)
漕ぐパワーは130Wまで落ちた
まだあと700kmあるのに(泣)
ほうほうの体で357km地点
四国最西端の佐田岬にたどり着いた
ここで大休憩を取ることにした
しらす丼を食べながら
この先のことを考える
平坦と下りをエアロフォームで走るのは なぜか大丈夫だ
問題は上り坂で
エアロフォームだと腰が痛くなるし
トルクをかけると膝は悲鳴をあげる
何か良い手はないものか……
しかし佐田岬半島は 坂道だらけなのだ
痛みに耐えられなくなり 休憩が増えていく
あ!
ふとあることを思い出した私は
西予市で薬局に駆け込んだ
そう ご存じ「バンテリン」だ(笑)
昔 ブルベでたまたまご一緒した人に質問したことがある
「カラダ痛くならないんですか?」
「なるよ」
「痛くなったらどうしてます?」
「バンテリンだよ」
単純明快で 聞いていて爽快だった(笑)
ふだん薬を全く使わない私には 想像できない答えだった
どんな痛みもスッと消える インドメタシン配合の「バンテリン」
痛みが消えると 悪化していることに気付かず運動してしまうので
さらに症状を悪化させてしまう 恐ろしい薬だ
だが 背に腹は変えられねえ
バンテリンを膝に塗りたくった
すると
塗った途端に 鋭い痛みは消え
鈍痛だけになった
どうにかゆっくりだが走り続けられそうだ
再びバイクにまたがり 先へ進む
2日目の夜は
月明かりが綺麗だった
そして高知の星空は 宇宙の果てしなさを肌で感じるほど
美しく そして恐ろしかった
走っている間 時間はいっぱいあるので
つい色々と考えてしまう
自分は結局 苦手だったロングライドを克服できなかった気がする
きっとそれは 自分のDNAに設計されたことなのだろう
おそらく人はDNAには逆らえないようになっていて
設計図に描かれた能力を超えられないし
描かれた通りの性格になる
ひょっとしたら 自分の意思でやっているように見えて
すべて設計図に描かれた通りのことを選ばされているだけなのではないか?
…いや
結局どこにも届かなかったけれど
自分の限界を見るのはとても楽しかった
自分の設計図の外郭を知れたのだ
それだけで良しとしようじゃないか
そしてこれが終わったら
自分は何を目標に自転車を続けようか……
470km地点 愛南市
もう限界だった
痛めた部分を庇ってきたためだろう
全身が耐えられないほど痛かった
心が折れる音がした
この先の宿毛市でホテルをとろう
たっぷり休んで回復したら リタイア連絡をして
徳島へ戻ろう
自販機の明かりの下 ホテルを検索する
しかし 藁にもすがる思いで探したが
この辺りには 一部屋の空きもなかった
120km先の ホテルを予約した四万十市まで行けということか……
しばらく呆然としていたが
嘆いても何にもならない
覚悟を決め マッサージボールで20分ほど脚と腰を必死でほぐす
「足掻く」というのは 楽しいものだ
どうせ絶体絶命なら 何かをやってみる方がいい
すると…
あることを思いついた
300km地点で現れた膝の痛みは
最近まで無かったものだ
そして最近変えたセッティングといえば…
「クリートの位置」しかない
ロード用シューズのクリート位置に合わせて
このSPDシューズのクリートもいじっていた
2週間ほどテスト走行して 良い感じだと思っていたが
長距離テストまではしていなかった
こうなったら 一かバチかだ
クリートを2ミリ 後方に戻してみよう
すると
走り出してすぐ 変化が起こった
膝の痛みが気にならなくなったではないか!
悪の元凶はこれだったのか
バンテリンには申し訳ないが
こっちの方が100倍の効果があった
80Wまで下がっていたパワーが
120Wまで復活した
スタートから33時間
560km地点の足摺岬へ到着
膝の痛みの元となっていた筋肉を使わなくなったためか
走りながら脚が回復して スタンディングも少しできるようになってきた
激痛から解放されて
景色を楽しむ余裕が出た
こんな道を夜中に走るなんて
ブルベじゃなければあり得ないな
月明かりを頼りに
絶対辿り着かないと思っていた四万十市に到着
予定より5時間遅れの 深夜1時だった
3日目
五郎さんと旅した四万十川沿いを走る
残りは400km
この時点でTSSは700を超えていた
膝の痛みはなんとか誤魔化せているが
スタンディングを封じられた時に痛めたお尻が
限界を迎えていた
四万十川近くにあった謎の自転車店
立ち寄りたかったが 寄ると絶対に1時間以上かかるのでパスした
お尻の痛みをどうにかするには
何かクッションを考えれば良い
すると
忘却の彼方から あるパイセンの言葉を思い出した
「お尻とか痛くならないんですか?」
「ならないですね」
「どうしてですか?」
「お尻に絆創膏を貼るんですよ」
ゲットした(笑)
しかし改めて見ると 絆創膏とはペラペラなものだ
こんなので本当に効果あるのだろうか?
店のトイレで お尻の左右に貼って
走り出してみるが
「言われてみれば効果があるような気がする」ぐらいのものだぞ
こんな具合なら貼らない方がマシかもしれないと
お尻をまさぐってみたら
サドルに当たっていなかった(笑)
コンビニのトイレで 再度貼ってみる
買ったのは5枚入りなので これがラストチャンスだ
シッティングに近いポーズをして 慎重に骨の位置を確認
思ったよりはるかに内側だった
あまりに2枚が近くて これは穴を塞いでしまったのではないか
走ってみると かなり良い感じ
だが穴を塞いでいるので お腹を壊したら大変だ
「お腹!壊れるなよ」と言い聞かせながら走るが
気にすると逆にグルグル言い出すものである
一瞬油断した
おならが出てしまったのだ
だが心配をよそに おならは抵抗なく出ていった
塞がれていなかったようだ(笑)
ちなみに
街でオナラをしたとき 多くの人が後ろを確認するが
あれは絶対にやってはいけない
「私がオナラをしました」と言っているようなものだ
徹底的に知らん顔をするのがベターである
雨雲が現れたので
お遍路さん用の休憩所で
マッサージボールしながらやり過ごす
パワーは出ないが
お尻も膝も腰も 耐えられないほどの痛みはない
食欲は落ちなかった
前回の失敗を分析して 補給の間隔を長くした
具体的には1時間に1回から2〜3時間に1回に変更
胃を休ませる時間を長くした
スタートから62時間
880km地点の室戸岬を通過
ここで次なる敵が現れた
睡魔である
眠くて眠くて 目を開けていられない
これはキツい
すると…
道路の真ん中に 犬が座っている
近づくと 犬がこちらを振り向いて
首を伸ばした
なんとその首が どんどんどんどん伸びていくではないか
なんだあれは? 犬じゃないぞ
イタチか? カワウソか?
あまりに首が伸びていくのでギョッとしたが
よく見るとそれは 道路の中央線だった(笑)
美しく大好きな高知県と別れを告げ
徳島へと戻ってきた
眠気が襲ってくるたびに 自販機で「阿波ライズ」を飲んでやり過ごす
そして素敵な参加者をたくさん撮影した
980km地点
ついに最後の難所がやってきた
距離2.5km
平均勾配12%の激坂「鶴峠」である
ここに来て この激坂は
主催者の愛を感じる(笑)
今のパワーだと 乗って上れる気がしない
だが降りて歩くと1時間近くかかる
そんなのはまっぴらゴメンだ
私はこの坂の攻略のために
ある計画を進行させてきていた
これだ
題して「バンテリン効果最大化作戦」
バンテリンの効き目を最大にするために
24時間前から使用を控えてきたのだ
このために
塗りたい気持ちを何度ガマンしたことか
この坂で バンテリンを思い切り塗りたくって
一気に坂を攻略するのだ
坂の手前の細道で
念じるようにバンテリンを塗る
どうか痛みよ引いてくれ
そして自転車に乗って上れるだけのパワーを出させてくれ…
しかし
塗った瞬間 信じられないことが起きた
塗った場所が モーレツに痛くなったのである(笑)
なんだそりゃ!
なぜ痛くなる?
お前はパルプンテか!
塗った場所は 動かさなくても痛むようになってしまった(笑)
バンテリンとは ただの麻酔ではなく
神経に作用する何かなのだろう
そんなことはどうでもいい
坂は目の前に迫ってきた
もはや覚悟を決めるしかない
痛かろうがぶっ壊れようが 全力で上るしかない
「20分頑張る」
そう決めて 激坂に突っ込んだ
体感的には 20分300Wで走ったつもりだが
あとでデータを見たら 184Wだった(笑)
でも 今の自分には奇跡的な数値だった
歩いて上る参加者を6人抜いた
驚くことに アドレナリンのせいか
痛みはゼロだった
人間とは不思議なものだ
設計図で決められているとしても
まだまだ不思議に満ちている
そしてついにゴールに辿り着いた
72時間34分
距離1020km
TSS 1134
スタート地点で見かけた サンダルばきの人は
私よりも先にゴールしていた
聞けば このスタイルはウケ狙いではなく
さんざん走った末に辿り着いた 究極の装備なのだという
長距離ライドは奥が深い…
こうして 2年間の長距離チャレンジが終わった
これから先 なにを目指して走るのか
それはゆっくりと考えようと思う
そして実はこのあと 一番辛いものが待っていた
お尻に貼った絆創膏を 絶叫しながら
毛と一緒に剥がしたのだった(笑)
いつかは必ずやってくるのが未来だ
出場すると決めてから10ヶ月
ついにその日はやってきた
四国を一周する1000kmのブルベだ
いろんなことに対応するため バッグ3つ付けの最大装備
撮影もできるように
パッと取り外しできるカメラマウントもエアロバーに装着した
サドルバッグの中身も最大だ
レイン上下
レインキャップ
ウェロトーゼ
小型ポンプ
ゴム手袋
防寒防水手袋
部屋着
マッサージボール
インナー(スリーブレス)
インナー(ロングスリーブ)
靴下
アームカバー
レッグカバー
タイヤはチューブレスだが
いざという時のためにチューブ(TPU)も入れた
さすが1000km
チェックポイントは12箇所と多い
これまでは 写真撮り忘れとか
必ず何かをやらかして来たが
今回はどうぞミスしませんように(笑)
スタート/ゴールは徳島市
五郎さんと旅した時は雨だったなあ
港の倉庫街を改装したおしゃれなポイント
参加者は100人ほど
全員がSR(200〜600km全クリア)取得者だけあって
デキる雰囲気が漂っている
でも中にはサンダルばきにミニベロの人や
たぬき(のちに熊と判明)の着ぐるみがいたり
お祭り感もありまくり
ホントにあれで走る気だろうか…?
順番に車検を受け(今回は無事に通過)
13時07分にスタートした
距離 1005.8km
獲得標高 9518m
坂道の数 81
制限時間 75時間
徳島(四国の右側)から反時計回りに1周する
途中 左端の佐田岬と南側の四万十川沿いに
内陸部への往復区間があるのが特徴だ
どんな出来事が待っているのか…
楽しみ7割 不安3割で走り出した
天気はゴールまで晴れ予報だが油断は禁物だ
女心と秋の空だ
トレインに加わり参加者についていくが
ペースがとんでもなく速すぎる
自分はこのまま行くと 明日以降使い物にならなくなる
千切れるべきか ついていくべきか
迷い続けるが
そこまでアウトなパワーではないので 着いていくことを選んだ
52km地点のチェックポイントを2時間で通過
小山がぽっこり散らばる讃岐の風景が好きだ
殿(筒井道隆さん)と旅したベトナム北部のハジャンと
とても似ている
速いと言ってもパワーにすると平均180Wほど
トレーニングにあてはめると L2の上限ぐらいな感じ
普段の自分なら ホテルをとっている今治(200km地点)までは大丈夫のはずだが
100kmを過ぎると 脚のあちこちが痛くなり始めた
これはおかしい こんなこと初めてだ
トレインから千切れ ペースを落とすことにした
出発直前に 娘からもらった風邪のためか?
それとも別に理由があるのか…
ちょっとブルーになりつつ 200km地点の今治に到着
予想より2時間早い 21時だった
1000kmを3日間で走るとなると
本当は松山(250km)か伊方(300km)に宿を取りたかったが
夜中にチェックインできるホテルがなかった
今治のホテルに泊まるのは 実は初めて
ロビーには自転車の整備スペースはあるし
当たり前のように 自転車ごと部屋に入れてビックリ
部屋着まで置いてある!
さすがしまなみ海道の拠点だ
膝の痛みが何かの間違いでありますように
そう願いながら コンビニのパスタを食べ
3時間の睡眠をとった
2日目
深夜2時に今治を出発
今日は600km地点の高知県 四万十市をめざす
愛媛県 伊予市(290km地点)で夜が開ける
交通量の多い松山市街地を 夜のうちに通過できた
ここまでは順調だった
しかし
300km地点
佐田岬に向かって西へ走り始めたころ
マズい事態が起こった
膝がキョーレツに痛み始めたのだ
痛みはみるみる強くなり
強く踏むと「ズキューン!」と突き刺すように痛む
これはたまらん
膝が痛いとどうなるかというと
スタンディングができない
ずっとサドルに座り続けることになり
お尻の破壊が始まる
坐骨のところがズンズンと痛むので
なんとか立ちあがろうとするが
今度は膝が「ズキューン」と痛む
座ってズンズン
立ち上がってズキューン
逃げ道ゼロ(笑)
漕ぐパワーは130Wまで落ちた
まだあと700kmあるのに(泣)
ほうほうの体で357km地点
四国最西端の佐田岬にたどり着いた
ここで大休憩を取ることにした
しらす丼を食べながら
この先のことを考える
平坦と下りをエアロフォームで走るのは なぜか大丈夫だ
問題は上り坂で
エアロフォームだと腰が痛くなるし
トルクをかけると膝は悲鳴をあげる
何か良い手はないものか……
しかし佐田岬半島は 坂道だらけなのだ
痛みに耐えられなくなり 休憩が増えていく
あ!
ふとあることを思い出した私は
西予市で薬局に駆け込んだ
そう ご存じ「バンテリン」だ(笑)
昔 ブルベでたまたまご一緒した人に質問したことがある
「カラダ痛くならないんですか?」
「なるよ」
「痛くなったらどうしてます?」
「バンテリンだよ」
単純明快で 聞いていて爽快だった(笑)
ふだん薬を全く使わない私には 想像できない答えだった
どんな痛みもスッと消える インドメタシン配合の「バンテリン」
痛みが消えると 悪化していることに気付かず運動してしまうので
さらに症状を悪化させてしまう 恐ろしい薬だ
だが 背に腹は変えられねえ
バンテリンを膝に塗りたくった
すると
塗った途端に 鋭い痛みは消え
鈍痛だけになった
どうにかゆっくりだが走り続けられそうだ
再びバイクにまたがり 先へ進む
2日目の夜は
月明かりが綺麗だった
そして高知の星空は 宇宙の果てしなさを肌で感じるほど
美しく そして恐ろしかった
走っている間 時間はいっぱいあるので
つい色々と考えてしまう
自分は結局 苦手だったロングライドを克服できなかった気がする
きっとそれは 自分のDNAに設計されたことなのだろう
おそらく人はDNAには逆らえないようになっていて
設計図に描かれた能力を超えられないし
描かれた通りの性格になる
ひょっとしたら 自分の意思でやっているように見えて
すべて設計図に描かれた通りのことを選ばされているだけなのではないか?
…いや
結局どこにも届かなかったけれど
自分の限界を見るのはとても楽しかった
自分の設計図の外郭を知れたのだ
それだけで良しとしようじゃないか
そしてこれが終わったら
自分は何を目標に自転車を続けようか……
470km地点 愛南市
もう限界だった
痛めた部分を庇ってきたためだろう
全身が耐えられないほど痛かった
心が折れる音がした
この先の宿毛市でホテルをとろう
たっぷり休んで回復したら リタイア連絡をして
徳島へ戻ろう
自販機の明かりの下 ホテルを検索する
しかし 藁にもすがる思いで探したが
この辺りには 一部屋の空きもなかった
120km先の ホテルを予約した四万十市まで行けということか……
しばらく呆然としていたが
嘆いても何にもならない
覚悟を決め マッサージボールで20分ほど脚と腰を必死でほぐす
「足掻く」というのは 楽しいものだ
どうせ絶体絶命なら 何かをやってみる方がいい
すると…
あることを思いついた
300km地点で現れた膝の痛みは
最近まで無かったものだ
そして最近変えたセッティングといえば…
「クリートの位置」しかない
ロード用シューズのクリート位置に合わせて
このSPDシューズのクリートもいじっていた
2週間ほどテスト走行して 良い感じだと思っていたが
長距離テストまではしていなかった
こうなったら 一かバチかだ
クリートを2ミリ 後方に戻してみよう
すると
走り出してすぐ 変化が起こった
膝の痛みが気にならなくなったではないか!
悪の元凶はこれだったのか
バンテリンには申し訳ないが
こっちの方が100倍の効果があった
80Wまで下がっていたパワーが
120Wまで復活した
スタートから33時間
560km地点の足摺岬へ到着
膝の痛みの元となっていた筋肉を使わなくなったためか
走りながら脚が回復して スタンディングも少しできるようになってきた
激痛から解放されて
景色を楽しむ余裕が出た
こんな道を夜中に走るなんて
ブルベじゃなければあり得ないな
月明かりを頼りに
絶対辿り着かないと思っていた四万十市に到着
予定より5時間遅れの 深夜1時だった
3日目
五郎さんと旅した四万十川沿いを走る
残りは400km
この時点でTSSは700を超えていた
膝の痛みはなんとか誤魔化せているが
スタンディングを封じられた時に痛めたお尻が
限界を迎えていた
四万十川近くにあった謎の自転車店
立ち寄りたかったが 寄ると絶対に1時間以上かかるのでパスした
お尻の痛みをどうにかするには
何かクッションを考えれば良い
すると
忘却の彼方から あるパイセンの言葉を思い出した
「お尻とか痛くならないんですか?」
「ならないですね」
「どうしてですか?」
「お尻に絆創膏を貼るんですよ」
ゲットした(笑)
しかし改めて見ると 絆創膏とはペラペラなものだ
こんなので本当に効果あるのだろうか?
店のトイレで お尻の左右に貼って
走り出してみるが
「言われてみれば効果があるような気がする」ぐらいのものだぞ
こんな具合なら貼らない方がマシかもしれないと
お尻をまさぐってみたら
サドルに当たっていなかった(笑)
コンビニのトイレで 再度貼ってみる
買ったのは5枚入りなので これがラストチャンスだ
シッティングに近いポーズをして 慎重に骨の位置を確認
思ったよりはるかに内側だった
あまりに2枚が近くて これは穴を塞いでしまったのではないか
走ってみると かなり良い感じ
だが穴を塞いでいるので お腹を壊したら大変だ
「お腹!壊れるなよ」と言い聞かせながら走るが
気にすると逆にグルグル言い出すものである
一瞬油断した
おならが出てしまったのだ
だが心配をよそに おならは抵抗なく出ていった
塞がれていなかったようだ(笑)
ちなみに
街でオナラをしたとき 多くの人が後ろを確認するが
あれは絶対にやってはいけない
「私がオナラをしました」と言っているようなものだ
徹底的に知らん顔をするのがベターである
雨雲が現れたので
お遍路さん用の休憩所で
マッサージボールしながらやり過ごす
パワーは出ないが
お尻も膝も腰も 耐えられないほどの痛みはない
食欲は落ちなかった
前回の失敗を分析して 補給の間隔を長くした
具体的には1時間に1回から2〜3時間に1回に変更
胃を休ませる時間を長くした
スタートから62時間
880km地点の室戸岬を通過
ここで次なる敵が現れた
睡魔である
眠くて眠くて 目を開けていられない
これはキツい
すると…
道路の真ん中に 犬が座っている
近づくと 犬がこちらを振り向いて
首を伸ばした
なんとその首が どんどんどんどん伸びていくではないか
なんだあれは? 犬じゃないぞ
イタチか? カワウソか?
あまりに首が伸びていくのでギョッとしたが
よく見るとそれは 道路の中央線だった(笑)
美しく大好きな高知県と別れを告げ
徳島へと戻ってきた
眠気が襲ってくるたびに 自販機で「阿波ライズ」を飲んでやり過ごす
そして素敵な参加者をたくさん撮影した
980km地点
ついに最後の難所がやってきた
距離2.5km
平均勾配12%の激坂「鶴峠」である
ここに来て この激坂は
主催者の愛を感じる(笑)
今のパワーだと 乗って上れる気がしない
だが降りて歩くと1時間近くかかる
そんなのはまっぴらゴメンだ
私はこの坂の攻略のために
ある計画を進行させてきていた
これだ
題して「バンテリン効果最大化作戦」
バンテリンの効き目を最大にするために
24時間前から使用を控えてきたのだ
このために
塗りたい気持ちを何度ガマンしたことか
この坂で バンテリンを思い切り塗りたくって
一気に坂を攻略するのだ
坂の手前の細道で
念じるようにバンテリンを塗る
どうか痛みよ引いてくれ
そして自転車に乗って上れるだけのパワーを出させてくれ…
しかし
塗った瞬間 信じられないことが起きた
塗った場所が モーレツに痛くなったのである(笑)
なんだそりゃ!
なぜ痛くなる?
お前はパルプンテか!
塗った場所は 動かさなくても痛むようになってしまった(笑)
バンテリンとは ただの麻酔ではなく
神経に作用する何かなのだろう
そんなことはどうでもいい
坂は目の前に迫ってきた
もはや覚悟を決めるしかない
痛かろうがぶっ壊れようが 全力で上るしかない
「20分頑張る」
そう決めて 激坂に突っ込んだ
体感的には 20分300Wで走ったつもりだが
あとでデータを見たら 184Wだった(笑)
でも 今の自分には奇跡的な数値だった
歩いて上る参加者を6人抜いた
驚くことに アドレナリンのせいか
痛みはゼロだった
人間とは不思議なものだ
設計図で決められているとしても
まだまだ不思議に満ちている
そしてついにゴールに辿り着いた
72時間34分
距離1020km
TSS 1134
スタート地点で見かけた サンダルばきの人は
私よりも先にゴールしていた
聞けば このスタイルはウケ狙いではなく
さんざん走った末に辿り着いた 究極の装備なのだという
長距離ライドは奥が深い…
こうして 2年間の長距離チャレンジが終わった
これから先 なにを目指して走るのか
それはゆっくりと考えようと思う
そして実はこのあと 一番辛いものが待っていた
お尻に貼った絆創膏を 絶叫しながら
毛と一緒に剥がしたのだった(笑)
ブログを拝見すると当時の出来事が早送りで思い出されるのですが、一番の思い出は人との出会いと走行のマネジメント力ですね。
雨には降られなかったようで何よりです。
私は高知県3日間で1日半雨に降られました・・・。
(「サンダル」の方、達人ですね笑)
7日間ですと、結構ハードな旅でしたね。
ネタが多すぎたので書きませんでしたが、雨には降られたんですよ、高知県で。3時間ほどですが、豪雨でした(笑)
今回ばかりは完走できないと思いましたが、なんとかなるもんですね…
おっしゃるように、次のことはオフを楽しんでから考えますね★
1000kmは何事もなく走り切れると思っていたのですが、甘かったです(笑)。ハプニングだらけでした。
絆創膏の通気とバンテリンパルプンテのくだり最高でした(笑
ロングライドを克服できなかったかどうかは林さんの内面的な事なのでそうなのかもしれませんが、1000はそうそう走れる距離じゃないですしすごいですよ。私の記憶の中では林さんはすごいロングライダーとして記憶されてます!
いつか気が向いたらまた200のブルベでもぜひ
ご無沙汰しております!
パイセンにロングライダーと言ってもらえるなんて、嬉しいです。
200kmならぜひ!
またどこかでお会いできますように★