☆影武者(1980年 日本 国内版180分 海外版159分)
英題/Kagemusha
監督/黒澤明 音楽/池辺晋一郎
出演/仲代達矢 山崎努 萩原健一 大滝秀治 室田日出男 根津甚八 隆大介
☆動乱の戦国を巨大なる幻がゆく
上記は初めて「影武者」の広告が掲載された時の物。
浪人していたときだったか、
「黒澤が復活するのか」
という驚きと興奮に身が震えた。
撮影に入ったのは、ぼくが大学に入ってからだった。当時所属していた学生サークルもその興奮は蔓延していて、先輩たちは、みんな、前年にオーデションを受けていた。そりゃあ、黒澤の映画に出られるんだから、受けるだろう。
知り合いの中でいちばんだったのは同級生の女子で、彼女は浪人していたにもかかわらず、果敢にオーデションを受けていたらしい。このときほど、東京の浪人生を羨ましくおもったことはなかった。まあそれは余談だが、彼女は凄かった。最終審査の10人まで行き、桃井かおりと倍賞美津子に敗れた。この最終審査はぼくらが入学してまもない頃、たしか5月くらいだったろうか。ともかく、黒澤に直に面接してもらい、受け答えをしたんだとか。たいしたもんだ、とおもった。
ぼくはといえば、田舎から身ひとつで上京し、6畳ひと間のアパートで生活し始めたばかりの右も左もわからない若造だった。東京と地方は、あまりにも懸け離れすぎてた。
映画が公開されてから、ぼくはこの映画の話題になると孤立した。誰もが『影武者』は認めなかった。実は、社会に出てからも『影武者』の話題になると孤立した。なぜって、ぼくひとりがおもしろかったと断言して憚らなかったからだ。
当時『影武者』は散々だった。
酷評だった。さっきの最終審査まで行った同級生の女子だけはまあ認めてたけど、この彼女の高校時代の同級生などは「歴史に詳しい人が見たら、史実とまるで違うんだって。それに黒澤の映画って昔は凄かったけど、今はつまんないらしいし、だから、うちのおじさんとか、そんなのは見ても仕方がないっていってる」とかいう始末で、こういう意見にぼくは猛烈に腹を立ててた。
(映画なんだから、史実と違って当たり前だろ)
とか、
(だいたい史実なんてものがどこにあるんだ。歴史の真実なんか誰も知らないんだぞ)
とか、
(こういうとんちんかんな連中がいるから日本はまともに映画が評されないんだ)
とか、
(誰だって年をとれば趣向が変わる。赤い映画を撮ってた人間が青い映画も撮るさ)
とかおもい、いろんなやつと毎回のように論戦し、持論を展開させてた。
ま、そんな思い出はさておき、やはり、銀幕で見ると良えわ~。
ただ、前に見た時より、演出の古さと力みすぎが目立ってきたのが悲しいね。