☆浮草(1959年 日本 119分)
監督 小津安二郎
原作 ジェームス槇(小津安二郎)
出演 中村鴈治郎、京マチ子、杉村春子、若尾文子
☆杉村春子「あゝそう」でNG70回
とにかく気合いの入った映画だった。
小津安二郎の中では初めてづくしなんじゃないかってくらいに珍しいものがいっぱい出てきた。愛人、雨、夜汽車、操車場、旅芸人、そりゃもう枚挙にいとまがないくらいだけど、特に凄いのが雨だ。黒澤映画みたいな豪雨で、その雨を隔てて愛人と大喧嘩する。その「どあほ」「くそったれ」「死にさらせ」みたいな口汚さも小津とはおもえない凄さだ。いやもう、びっくらこいた。前半がなんとなく退屈だったものだから、当時の伊勢の風物をなんとなく眺めながら、ぼくのふるさととよく似た景色だな~くらいにおもってあくびをしてたんだけど、後半、すごいから。
けど、どうやら、原案があるみたいで、それも小津とはおもえないハリウッド映画で、ジョージ・フィッツモーリスの『煩悩』だそうで、それを昭和9年に『浮草物語』として映画化して、それをみずから原作を作ってリメイクしたのがこの作品なんだとかで、これもまた「へ~」て感じだ。
ともかく、なんていうか、時代を感じさせるね。旅芸人の悲哀もさることながら、鴈治郎が実の子の川口浩に出生を秘密にしてたのは「の子として世間に出したくない」という劣等感から来てるっていうのがまさにそうで、なるほど、時世時節は変わってゆくね。けど、凄味はこの時代の方が明らかにあるな。