寒くて家に閉じこもっているときに、地図を前に妄想の旅をしていた。
例えば、舞鶴港23時30分発カーフェリーで行くと小樽には翌日の20時45分に着く。雪の小樽だ。丸1日は船の中だが、冬の荒れた日本海の気候で船は少し揺れるかもしれないが、設備は整っているので快適だろう。
であれば撮影機材は、こだわりたい。さしあたりメインは、トライXのモノクローム・フィルムを詰めたコンタックスT3がはずせない。それにデジタル機材の、オリンパスEM-1Mark2にZUIKO DG12mmとPanasonic Leica Elmarit45mmのシステムだ。フルサイズ換算だと焦点距離は、24mm、35mm、90mmとなり大変使いやすくバランスがとれたシステムだ。実は、このシステムは2018年4月22日のブログでとりあげていた。こんな機材で雪の街が撮れると面白いか・・・。
そう思って冬の小樽のWEBサイトをみると、運河沿いの風景ばかりじゃないか。これは俗っぽくて撮影したいとは思われない。
そうなると小樽の生活に深く入りこむほかない。ならば、昔の恋人の翠の家に泊まろうか。あいつは小樽の駅前あたりで小さなカフェ&ランチの店を地味にやっているはずだ。たしか古い木造のアパートで一人暮らしだ。ならば翠の家に長逗留しながら、冬の街の普段の生活でも撮影しよう。
翠の部屋の二重窓から見える向かいの古い家や雪の街並み、雪かきがされず足跡が目立つアパートの路地裏、吹雪いている街中に微かに見える黄色い明かりは近所のミニ市場、冷たい台所の窓先にはつららが見えている、温泉という名の銭湯の行き帰りに垣間みえる夜の街の風景も面白いか。湯冷めしそうになったら布団に潜り込み翠の体で暖めてもらおう。昔の恋人だからそこそこには、大切にしてくれるだろう。
朝眼が覚めると翠は、布団に体の跡を残したまま店の支度があるので出かけていた。さて俺は坂を下りた珈琲屋で暖を取り、今日はバスで積丹半島の海岸線を走ってみようか。吹雪いているので、積丹余別までしかゆかれないが。それでも吹雪いている雪の集落は魅力的な風景だから、ポケットで暖めていたコンタックスで撮ろう、雪の中を歩いてくる雪をかぶった村人はElmaritで、だるまストーブがある雑貨屋は12mmの超広角レンズだ。そんな風に雪の集落を徘徊し、夜家に帰ってから撮影画像の整理をしていると、翠が帰ってきた。駅前の三角市場で蟹を買ってきたって。今日は海鮮鍋か。冬の小樽は魚が旨いから。明日は翠の店が休みなので路線バスを使って一緒に朝里川温泉へゆこうか・・・。そんな普段の生活こそ、まさに冬の小樽の風景だ。
うん!、小樽の翠って誰!!?・・・。これは私の妄想した生活シーンだから架空の存在。まあ実現したきゃフーテンの寅さんみたいに小樽に恋人でもつくるんだろうな。つまり旅は、訪れる街と私との間に何がしかの個人的な関係性がないと、出かける動機として成立しないということだ。
さてこの画像、寒々しくて冬の旅機材風なのだが、今この機材は全て売却した。それとともに冬の旅の妄想も記憶の狭間に消えていった。
SONYα6000
Carl Zeiss Vario-Tessar E 4/16-70mm
ISO2000,焦点距離36mm,露出補正0,f/4,1/60