小樽の駅で積丹行きのバスを待っていたら、マサヒロ君が美術研究所に向かって歩いて行くのがみえた。どうしようかなと思っていると、向こうも私に気がついた。
「ああっ、あのときのオジサンで・す・か!」
特に返す言葉もなく、オッス!、と挨拶した。ふと、もう少し話をしてみようかなと思った。私にしては珍しい衝動だ。時間があったらお茶してく?、と呼びかけた。
「ママの喫茶店ですか?」
いやいや違うところでと返事をしたら、いいですよとついてきた。
ビルの2階の静かな喫茶店だった。ありきたりの質問からしてみようか・・・。印刷会社じゃどんな仕事をしているの。
「マックを使って編集ですよ、僕、編集が旨いんです。だって小さいときから絵を描いていたから、バランス感覚とか色彩なんて簡単にできちゃうわけです。岡本太郎という画家をご存じですか?、当時沖縄の写真を撮っていて、すごい写真なんです、でも社会では、画家なのに何処でそんな技術を学んだのかとか、新聞社のカメラマンが撮ったんだろうとか、議論が沸騰していた。でもデッサンを勉強してくれば、そんな写真を撮るなんて簡単なんですよ。それと一緒です」。
その話は、俺も同感。時々外れるけど、多分なにをやらせても旨いんだろうな。意地悪な質問をしてみようか?。おとうさんって、どんな人?
「普通のサラリーマンです。事務の仕事をしているです」
ありっ!、翆は教えてないといったのに、こいつなんで知ってるんだ・・・。
「ママは教えてくれなかったけど、僕はちゃんと調べたんです」
抜け目のない奴だな。
「調度、茉莉が妊娠したとき、僕のお父さんってどんな人だろうと興味をもったんです。そこで会社関係の興信所で調べてもらったんです。すぐにわかりました。」
茉莉さんて、まだ高校生だろ。
「僕が高校3年のとき美術部に入ってきたときは彼女が、まだ高校1年生だったんです。出会ったときにピンと来たんです、直感かな。だからつきあってもう3年たちます。世間でいえば長い春ですよ。相手が高校生というのは学校制度の話ですから、でも女としては適齢期でしょう。昔は12で嫁に行ったという話も小樽ではあります」
こいつ大人じゃん・・・。話題変えよう。お父さんからデッサンの手ほどきでも受けたの?
「手ほどきは受けていないですけど父の絵をみていたら、なんとなくわかっちゃって、ああっ、立体的に描けばいいんだということが、あとは絵具との遊びですよ」
どんな絵を描くの?
「なんでも、つまりアニメや油絵から最近はコンピュータグラフィックスが多いかな。」
・・・・・・
話題がつまったなぁー。
「あのー、ママはオジサンさんのことが好きですよ、大切にしてあげてください!。僕に彼女がいても、ママは一人だったでしょ。そんなときママのアパートに行ったら、入り口で偶然見たんです。奥でママがオナニーしているところを。寂しかったんだと思います。」
うぅっー!、若いのに、そうハッキリいわなくても・・・・こちらはトホホ!!、じゃないか。もうじきマサヒロ君の彼女に子供が生まれるし・・・。早熟!というよりは、大人になるから必要な知識は身につけている。でも、昔はそれが普通だったな。俺たちの時代が万事遅すぎるんだろう。
「そろそろ、時間なので僕は行きます・・・」
そういってマサヒロ君は、街の風景の中に消えていった。