デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

勤勉なベン・タッカー

2013-07-14 09:09:21 | Weblog
 ジャズ誌で懐かしい名前を見つけた。久しくその名前を見ることもなく、忘れかけていたプレイヤーだ。大抵こういう場合、悲しいかな訃報記事だが、やはりそれである。その名前から反射的に、田舎のジャズ喫茶もどきに通い出した高校生の頃を思い出す。そのレコードはベースの長いソロから始まるのだが、単調なラインが少しずつ膨らむベース音は緊張や興奮時の心臓の鼓動に似ていた。

 ベン・タッカーである。自身が作曲した「カミン・ホーム・ベイビー」は、ジャズを聴き始めの耳にもすんなり入り込むラテンリズムだった。このハービー・マンのヴィレッジ・ゲイト盤は大ヒットしたというが、タッカーのあのソロがなければただのライブ盤だったかもしれない。そして、ようやくジャズが解り出した頃にタッカーを聴いたのは、アート・ペッパーの「モダン・アート」である。オリジナルのイントロ盤を聴く機会はなく、ようやく聴けたのは70年代に再発されたときだったが、冒頭の「ブルース・イン」のアルトとベースのデュオで、何故このアルバムが幻の名盤と騒がれていたのかという謎が解けた。

 タッカーの経歴を振り返ってみよう。デビューは、1956年のウォーン・マーシュの名盤として名高い「Jazz of Two Cities」だ。西海岸で働いたあと、59年にニューヨークに出て、さまざまなコンボで活動しながらクリス・コナーの伴奏も務め、62年にはクリスと共に来日している。帰国後、発表したのが「カミン・ホーム・ベイビー」で、マンのコンボでも活躍している。71年に引退後は楽譜出版業に携わり、ジャズクラブも開業し、マイペースで演奏もしていたという。半世紀にも亘る経歴を数行で語るには無理があるが、横道にもそれず、ただ直向にジャズの場に身を置いていたのがわかる。勤勉なジャズ人生である。

 先般の記事には近影どころか第一線で活躍していた頃の写真も載っていなかった。記憶ではリーダー作は60年代に「Ava」レーベルから1枚出ているだけで、多くのサイド作品にも写真はほとんど載っていないので、このような編集だったのだろう。一瞬顔を思い出せなかったが、あの張のあるベース音だけは鮮明に甦った。顔を忘れられても音を記憶されるベーシストはざらにいない。享年82歳。合掌。
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16 コメント

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ベン・タッカー・ベスト3 (duke)
2013-07-14 09:13:50
皆さん、今週もご覧いただきありがとうございます。

ベン・タッカーは同じベーシストのジョージ・タッカーと混同されますが、録音数が圧倒的に多いのはベン・タッカーです。今週はベン・タッカー参加のお気に入りのアルバムをお寄せください。

管理人 Ben Tucker Best 3

Art Pepper / Modern Art (Intro)
Herbie Mann / At The Village Gate (Atlantic)
Dave Bailey / Two Feet in the Gutter (Epic)

他にも盟友のビリー・テイラーをはじめ多くのセッションに名を連ねております。

今週も皆様のコメントをお待ちしております。

Ben Tucker on Bobby Hebb
http://www.youtube.com/watch?v=2JxH0vb-uaw

アニタ・オデイやアン・バートンが取り上げている「サニー」のオリジナルはボビー・ヘブですが、何とヘブのバックはベン・タッカーでした。
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ユニフォーム (ドーム親爺)
2013-07-14 13:51:59
dukeさんご無沙汰です
今ドームです。今日は勝ちたいですね。
ところで、昨夜ドームで「DUKE」とネームが入ったユニフォームを着た人を見かけたのですが、こちらのdukeさんですか。
ハービーマンに1票です。
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タッカー (M54)
2013-07-14 20:04:39
dukeさん、こんばんは。 

ベン・タッカーが亡くなったんですね。 
ジョージ・タッカーが大好きですが、ベンも好きでした。

Baby,You Should Know It/Ben Tucker And His Quintet(Ava)
これが唯一のリーダー作だったのですね。
これは廃盤屋で見つけて持っていました。
このレコードは日本盤もないのではないでしょうかね、
ましてやCD化もされていないでしょうからねー残念ですね。
1メンツが面白いので、少し、フェルドマンのピアノ、ラリーバンカーがドラムではなくって、ヴァイブを演っています。63年ですから、ボサノバありの、聴きやすいレコードだと思います。 録音も優秀だと感じます。
バンカーはヴァイブとだけクレジットされていますが、僕が聴くところ、マリンバも演ってるように思います。B面の3曲目『Capricious』です。 
重厚で堅実な、素晴らしいベースでしたねー。
ケニー・バレルのBN盤『5スポットカフェ』も印象に残っています。
82歳でしたが、事故だったのが、惜しまれますね。
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Ben Tucher (25-25)
2013-07-14 20:39:08
「Mico In New York」と
「Modern Art / Art Pepper」ですかね。

ミコさんには、ヴォーカルのレッスンを
2か月ぐらい特訓したんだそうですね。
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背番号 (duke)
2013-07-14 20:49:29
ドーム親爺さん、こんばんは。

今日は急用でドームに行けませんでしたが、いい試合でしたね。勝ってホッとしました。

いやはや昨夜は目撃されたようですね。「DUKE」ネームは多分私です。背番号が3桁ですので、今度見かけましたら、是非お声がけください。

ハービー・マンに1票いただきました。
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縁の下の力持ち (duke)
2013-07-14 21:00:34
M54 さん、こんばんは。

私もジャズジャパン誌を見るまで知りませんでした。いいベースでしたね。

Ava盤は私も持っておりますが、おそらくリーダー作はこれだけでしょう。長いキャリアでリーダー作1枚というのは寂しい気もしますが、縁の下の力持ち的存在こそベンの本領なのかもしれません。

ケニー・バレルのBN盤もありましたね。じっくりベースラインを追うとメリハリがあります。

残念な事故でした。ご冥福をお祈りしましょう。
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一流の指導者 (duke)
2013-07-14 21:10:00
25-25 さん、こんばんは。

やはりミコさんが挙がりましたね。このレッスンで大きく成長したのは間違いないでしょう。野球と同じで、一流のプレイヤーが必ずしも一流の指導者とは限りませんが、ベンはどちらも一流でしたね。
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Ben Tucker (KAMI)
2013-07-14 23:09:50
dukeさん、こんばんは。
強靭で堅実なベースワークが好きです。

お気に入りは
Modern Art/Art Pepper
ブルース・インとブルース・アウトのウォーキングベースは凄いと思います。
At The Five Spot Café/Kenny Burrell
バークス・ワークスのタッカーは素晴らしいと感じています。
Easy To Love/Roland Hanna
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タイトル通りの芸術 (duke)
2013-07-15 20:14:00
KAMI さん、こんばんは。

モダン・アートのオープニングとエンディングにデュオとはまさにタイトル通りの芸術といえるトラックですね。

バレルの5スポットはバレルの作品中でもベストに入る内容ですが、ベンの参加が功を奏したといっていいでしょう。バークス・ワークスではいい仕事をしています。

そして、アトコのハナにも参加していましたね。全体が引き締まった演奏です。
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Jazz Line / Jazz Time (moto)
2013-07-17 09:28:31
 Duke さんこんにちは.

1.Bash! / Dave Bailey
 Jazz Line からボクの好きなアルバムを.
 この "Grand Street" の演奏聴くたびに元気になります.

2. Reaching Out / Dave Bailey
 "Baby You Should Know It" もいいんですが、ボクは "A Flick of a Trick" のほうが好き.
 "Comin' Home Baby" もそうですが、いい曲書いてますねぇ.

3. Gravy Train / Lou Donaldson
 すみません、これはもう単純に "Polka Dots And Moonbeams" の演奏が好きだから ・・・・・

ということで、少ない持ち球の中から選んでみました.
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