
村尾陸男著「ジャズ詩大全」(中央アート出版社刊)に、作曲家でポピュラー音楽批評家としても知られるアレック・ワイルダーの言葉が紹介されている。「これは音楽学者など冷笑するような曲だが、しかし若者が一度は夢み、踊り見つめあい、手をにぎりあうロマンティックな世界をやさしく率直に表現している。」毒舌のワイルダーにしては珍しく褒めているのでかなりのお気に入りだったのだろう。
その曲とは「The Nearness Of You」だ。「おそばにいさせて、それだけでいいの」という、それこそ音楽学者なら冷ややかな目で見そうな甘いラヴソングだが、ワイルダーが指摘するようにロマンティックな歌詞で、メロディも洗練されている。作詞は「When You Wish Upon A Star」や「Stella by Starlight」のネッド・ワシントン、作曲はホーギー・カーマイケルとなれば星空の下で抱き合う二人が浮かぶ。こういう絵を想像するとき、男女どちらかは自分であり、決まって恋人は憧れのアイドルである。現実には在り得ない世界に浸れるからこそこの曲が美しい。
同書によると230種のレコーディングがなされているそうだ。そのなかから飛び切り妖艶なヴィッキ・ベネで聴いてみよう。「Vicki Benet」という名前が示すとうりフランス系のシンガーだが、英語も達者で発音も明瞭だ。声質はというと見た目の印象からはクールなハスキーヴォイスを思わせるが、落ち着いた美しい声で、ややノスタルジックな面も持ち合わせている。アメリカには成功を夢見て世界各国からシンガーが集まるが、アルバムどころかシングル盤1枚も残せない人もいる。ヴィッキは本作以外にもデッカに2枚の作品があるので成功したといえるだろう。
ワイルダーの批評は続く。「歌詞は性的なものなどないのに官能的なものを感じさせてくれる。こういう歌が廃れてしまったことに私は残念でたまらない思いだ」と。奥ゆかしいのが美徳だとは言わないが、昨今の歌詞はまるで恥じらいを忘れた年増のような直接的表現が多い。官能的とは比喩とか暗喩から匂い立つ色気をいう。それを読み取るのがスタンダードを味わう楽しみというものだ。
その曲とは「The Nearness Of You」だ。「おそばにいさせて、それだけでいいの」という、それこそ音楽学者なら冷ややかな目で見そうな甘いラヴソングだが、ワイルダーが指摘するようにロマンティックな歌詞で、メロディも洗練されている。作詞は「When You Wish Upon A Star」や「Stella by Starlight」のネッド・ワシントン、作曲はホーギー・カーマイケルとなれば星空の下で抱き合う二人が浮かぶ。こういう絵を想像するとき、男女どちらかは自分であり、決まって恋人は憧れのアイドルである。現実には在り得ない世界に浸れるからこそこの曲が美しい。
同書によると230種のレコーディングがなされているそうだ。そのなかから飛び切り妖艶なヴィッキ・ベネで聴いてみよう。「Vicki Benet」という名前が示すとうりフランス系のシンガーだが、英語も達者で発音も明瞭だ。声質はというと見た目の印象からはクールなハスキーヴォイスを思わせるが、落ち着いた美しい声で、ややノスタルジックな面も持ち合わせている。アメリカには成功を夢見て世界各国からシンガーが集まるが、アルバムどころかシングル盤1枚も残せない人もいる。ヴィッキは本作以外にもデッカに2枚の作品があるので成功したといえるだろう。
ワイルダーの批評は続く。「歌詞は性的なものなどないのに官能的なものを感じさせてくれる。こういう歌が廃れてしまったことに私は残念でたまらない思いだ」と。奥ゆかしいのが美徳だとは言わないが、昨今の歌詞はまるで恥じらいを忘れた年増のような直接的表現が多い。官能的とは比喩とか暗喩から匂い立つ色気をいう。それを読み取るのがスタンダードを味わう楽しみというものだ。
「ザ・ニアネス・オブ・ユー」は、1940年にグレン・ミラー楽団がレイ・エバールの歌で吹き込んだものがヒットして以来、実に多くの録音があります。今週はヴォーカルでお気に入りをお寄せください。インストは機を改めて話題にします。
管理人 The Nearness Of You Vocal Best 3
Ella Fitzgerald - Louis Armstrong / Ella & Louis (Verve)
Helen Merrill / The Nearness Of You (EmArcy)
Norah Jones / Come Away With Me (Blue Note)
真っ先に浮かんだのがエラとルイでした。そしてアルバム・タイトルにしているヘレン・メリル、次は迷いましたが比較的新しいものからノラ・ジョーンズを選びました。
ほとんどのシンガーが歌っているようです。
今週も皆様のコメントをお待ちしております。
Sarah VAUGHAN " The Nearness Of You " !!!
http://www.youtube.com/watch?v=pV61GrA8PME
若いころから上手いですね。歳とともにサラに磨きがかかります。
> 歳とともにサラに磨きがかかります。
あやうく見のがすところでした・・汗。「皿、盆」ならスグ判りますのに。そういえば南信州阿南町新野ではお盆に「盆に恋」(略して「盆恋」!?)なる婚活イベントをやるのだとか。「運命の人を見つけたければ新野の盆に行きなさい」ってホンマかいなですが「500年続く三日間徹夜で踊られる盆踊り」って・・呆。田舎の嫁不足は深刻と聞いておりますので「浴衣姿の 気になる人と 朝を迎える まつり婚」で幻惑しようとゆ~のか・・笑。
> こういう歌が廃れてしまったことに私は残念でたまらない思いだ」と。
> 昨今の歌詞はまるで恥じらいを忘れた年増のような直接的表現が多い。
まったくですね。今のアメリカなんてセレブなんて名ばかりの品のない女性ばかりですし。そういうのに影響されるのか日本女性も変わってしまいました。優しさ誠実さ奥ゆかしさ・・日本人が備えうるせっかくの美徳も一旦死滅したらもう元には戻りません。さて、お題ですが御紹介のヴィッキ・ベネ。マリリン・モンローみたいなお色気ジャケですが、おフランスらしい上品な歌声が好きです。ヘレン・メリルの芝生に横たわり花を愛でるジャケにも愛着が。この歌てっきり、モテない中年男の叶わぬ片想いを唄った歌かと思っておりましたので、ちょっとくたびれたジョニー・ハートマンさんにもご登場願いましょう、伴奏も最高ですよね。独り身確定の寂しいオッサンの胸に染みることだけは確かです。
Johnny Hartman - The Nearness Of You(1972-YouTubeですが凄い再生回数)
http://www.youtube.com/watch?v=w1T3s5QY-WI
1. Vicki Benet『Sing To Me Of Love』(Liberty)
2. Helen Merrill 『The Nearness Of You』 (EmArcy)
3. Johnny Hartman『For Trane』(Capitol-日野皓正との日本録音編集盤)
>あやうく見のがすところでした
ススキノで受けないオヤジギャグはサラっと流してください。
村尾陸男氏が引用しているのはアレック・ワイルダーの著書「American Popular Song The Great Innovators 1900–1950」ですので、この曲について論評したのは60年代と思われます。その時代でこういう歌が廃れてしまったと嘆いておりますので、もしワイルダーが今の曲を聴いたら卒倒するかもしれません。1940年にヒットしたこの曲が今でも歌われているのは、奥深い歌詞にあるのでしょう。
記事で話題にしたヴィッキ・ベネがトップにきましたか。私の所有は東芝から再発されたレコードですが、ジャケットを眺めているだけで満足します。
そして、メリル。ビル・エヴァンスがバックですので格調が高いですね。
ジョニー・ハートマンの音源のご紹介をありがとうございます。
日野皓正が組んだ作品ですね。ハートマンの名刺には「actor」と書かれているそうですが、まさにです。日野皓正といえばライブではオヤジギャグの連発です。けっこう寒い。(笑)
僕が書きこむと目に見えてコメントが減ってしまうので誠に申し訳なく思います。自分は発言しないのが最良と存じておりますが、発言が誤解を招いたのではないかと感じられたときには、つい書きこんでしまうのもわるいクセです。人間どうしのやりとりなど誤解に満ちているのが常ですから黙っていればいいのです。上の「盆に恋」もさりげに宣伝したかったのでした。さて、ジャズと関係ない話で恐縮ですが、先程こんなことがありました。
帰路、駅のエレベーター前に来ましたら、お婆さんが傘をたたみながら待っていて、僕の後から若いOLらしき女性がやってきたのですが、お婆さんはその女性に気づかず僕が乗り込んだところでドアの閉ボタンを押してしまいました。そしたらその女性、「ちょっとぉ~!閉めないでよ~おっ!」とお婆さんを睨みつけながら怒ったんです、嫌な口調で。お婆さんビックリして「すみません、気づかなかったもので・・・」と頭を下げたんですが、二人の間に立つ僕は気まずくて下を向いていました、内心“年長の方に対してその口のききかたはないだろう・・”と思いながら。エレベーターを出る時マジマジとその女性を見たのですが、案の定というかケバい女でした。手足の爪にはネイルアート。自分の発言がもたらした気まずい空気など意にも介さぬかのようにツカツカと歩いてゆきました。その後ろ姿には周りへの配慮などまるで窺えませんでした。日本の女性は変わってしまったのではないかと思うのは、こういうときです。
これとは反対のケースもあります。レジの女性が気を利かせてニコやかに「荷物を二つの袋にお分けしましょうか」と言ったら、婆さんに「それ、おカネかかるんじゃないの?」みたいなことを言われたみたいで、女性は否定しつつも優しい表情が瞬時にこわばるのを見たことがあります。女性は“そんなつもりで言ったんじゃないのに・・”と思っていたことでしょう。でも総じて、小奇麗で品のない今どきの若い女性よりも、むしろお歳を召した女性に礼を弁えたチャーミングな方が多いというのが実感です。奇妙な話ですが、若い女性よりも老夫人のほうが少女に見えるのです。もう十年以上前になりますが天真爛漫とした老夫人に、そのことを褒めたらすっかり喜んでしまわれて、それ以来ことあるごとによくして下さいます。いつものように正直に思ったところを口にしたまでなのですが、気持ちが伝わるというのは嬉しいものです。
こんな話をさせて頂きましたのは、僕もひとのことは言えないなと思ったからです。先ほど僕が若い女に対して抱いたのと似たような感情を、こちらをご覧の皆様も感じておられるのかもしれないなと。僕は思ったことを口ださずにはいられない人間で、皆様からすれば子供のようなものでしょう。周囲への配慮に欠けた若造というのが大方の印象かと思います。もちろんその度に反省するのですがどうにも改まりません。やはり僕のような人間は、黙っているのが一番いいようです。
寅さんの口上でも有名な、「信州信濃の新蕎麦よりも わたしゃあなたのそばがいい」という句を反射的に思いつく、「The Nearness Of You」です。信州そばのPRをちょっとだけ(笑)。たくさんヴァージョンがあり、全く聴ききれませんので、好みも入れて。
①Helen Merrill / The Nearness Of You (EmArcy)
②Jo Stafford / Sky Trail (Columbia)
③Monica Borrfors / Your Touch (Caprice)
他にも、例えば、モーリン・オハラ、バディ・グレコなどたくさんありました。③は、スウェーデンの歌手ですが、一時よく聴きました。
Breakin' Bossaさまもazuminoさまもこんにちは!
The Nearness of Youは、TVを見る時間が会った頃に覚えた歌です。
歌っていた人は弘田三枝子さん、というわけで、弘田三枝子/イージー・リスニング・ジャズに女性票一票です。
懐かしい~
ここ札幌でも似たようなケースがありますが、結局公共マナーを身に着けているか否かですね。それは老若男女誰にでもいえることです。紳士然としていても無礼な輩もいますし、ケバい女性でも礼儀正しい人もおります。
>二人の間に立つ僕は気まずくて下を向いていました
私もその場に居合わせたらBreakN’Bossa さん同様、下を向くでしょう。小さな親切が大きな誤解を生むことがありますので。
信州そばは食べたことがありませんが、さぞ美味しいことでしょう。札幌の蕎麦屋の有名処はほとんど回りましたが、釧路の竹老園東家総本店を超える味に出会っておりません。昭和天皇がお替わりした蕎麦です。
トップにメリル、そしてジョー・スタッフォードがきましたか。レコードが見つからないのでユーチューブで聴きましたが、ゆったりしたテンポでいいですね。バックは旦那のポール・ウェストンということもありリラックスした様子が伝わってきます。
モニカ・ボーフォースのこのアルバムは聴いておりません。ビリー・ホリデイに捧げた作品はよくできておりましたので、こちらも期待できそうです。
モーリン・オハラもいいですね。この方、シンガーでも成功したかもしれません。
弘田三枝子さんも歌っておりましたか。数枚持っておりますが、このレコードはありません。イージー・リスニング・ジャズというタイトルは売るためのタイトルでしょうが、内容は本格的なジャズでしょう。このレコード、けっこな高値が付いているようです。
Jo Stafford - Ski Trails(Columbia,1956)
Ella Fitzgerald and Louis Armstrong - Ella and Louis (Verve, 1956)
Norah Jones -Come Away With Me(Blue Note, 2002)
ついでにライブを中心に動画検索
Norah Jones - A Celebration of Steve's Life
http://www.youtube.com/watch?v=MXWUtfVEy2Y#t=120
Judy Garland
http://www.youtube.com/watch?v=NqdaS0EOBHk
Nicole Henry -The Nearness of You- Nango Jazz Festival 2006
http://www.youtube.com/watch?v=fxSqja6DD9s
Winterplay (KOR)
http://www.youtube.com/watch?v=WL6Rzvwu4Gc
Rebecca Parris (USA)
http://www.youtube.com/watch?v=ufMV4wRaz-A
Denise Jannah (NLD)
http://www.youtube.com/watch?v=WVYtXjjO7YA
EARTHA KITT
http://www.youtube.com/watch?v=J9lyR3Fw6UY
弘田三枝子 地井武男の音楽夜話 東京ユニオン
http://www.youtube.com/watch?v=0d5SIEX3XZA
Keith Richards
http://www.youtube.com/watch?v=cXyBxftcWVQ