デューク・アドリブ帖

超絶変態ジャズマニア『デューク・M』の独断と偏見と毒舌のアドリブ帖です。縦横無尽、天衣無縫、支離滅裂な展開です。

ジョニー・グリフィン、パリに死す

2008-08-03 08:12:15 | Weblog
 先日の新聞広告に村上春樹訳の「グレート・ギャツビー」が20万部突破とあった。ヘミングウェイ、フォークナーと並び20年代を代表する作家スコット・フィッツジェラルドの作品で、20世紀のアメリカ文学を代表する小説として知られている。80年前の作品とはいえ色褪せることもなく、夢の実現と崩壊を描いた小説は、いつの時代も共感を呼ぶのだろう。フィッツジェラルドは44年と短い人生ながら多くの優れた短編を残しており、そのひとつに映画化された「雨の朝パリに死す」がある。

 2008年7月25日のパリの朝に雨が降っていたのかは不明だが、ジョニー・グリフィンがパリの自宅で亡くなった。80歳という。ハード・バップという言葉に懐かしさを覚える世代にとって、やはりハード・バッパーの死は一抹の寂しさがある。全盛期である50年代はレコードでしか聴くことができないが、70年代、或いは今聴いてもその50年代の音は過去に刻まれたものではなく、リアルタイムの音と錯覚させるのがグリフィンだった。ジャズのスタイルが変ると多くのプレイヤーはその流れに乗り、時代毎のカラーを持つものだが、自分のスタイルを貫き通したグリフィンだからこそいつもリアルタイムなのである。

 どのアルバムも水準以上の安定した内容で甲乙付け難いが、「ザ・リトル・ジャイアント」を一番に挙げたい。身長は170センチと小柄にもかかわらず、大きな音でブロウすることから付いた愛称をそのままタイトルにしたリバーサイドの代表作である。ファンキーな曲作りに定評のあるノーマン・シモンズの曲を、テナーサックス最大の音で縦横無尽に吹き、ファンキー指数最高でブロウするグレート・グリフィンは、小さな巨人の名に相応しい。リバーサイドはもとより、ブルーノート、エディ・ロックジョウ・デイヴィスと活動を共にしたプレスティッジと、三大レーベルに吹き込んだのはグリフィンだけだろう。変幻自在にブロウし、繊細にバラードを奏で、パッセージを世界最速で吹く小さな巨人にレコード会社が白羽の矢を立てたのは当然のことといえる。

 1920年代という時代を「ジャズ・エイジ」と名付けたのはフィッツジェラルドだった。そのジャズ・エイジに生まれて、ライオネル・ハンプトン楽団を皮切りに、ジャズ・メッセンジャーズ、モンク・バンド、コルトレーンとの共演、そしてヨーロッパへ活動拠点を移しての数々のセッション、真っ直ぐにジャズの時代を生きた生粋のハード・バッパー、ジョニー・グリフィンは確かな手応えを感じて人生の幕を閉じたに違いない。
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19 コメント

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ジョニー・グリフィン・ベスト3 (duke)
2008-08-03 08:16:01
皆さん、いつもご覧いただきありがとうございます。

グリフィンが亡くなりジャズ界も寂しくなりました。髭とサングラスが似合うグリフィンは、サイド作品を含めますと130枚ほどあります。お気に入りのアルバムをお寄せください。

管理人 Johnny Griffin Best 3

Little Giant (Riverside)
Blowing Session (Blue Note)
The Man I Love (Polydor)

村上春樹訳の「グレート・ギャツビー」をお読みになった方は是非ご感想をお寄せください。私は野崎孝訳は読んでおりますが、こちらは未読です。「キャッチャー・イン・ザ・ライ」同様、村上流現代訳なのでしょうか。

今週もたくさんのコメントをお待ちしております。
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J.G (25-25)
2008-08-03 10:25:14
ジョニー・グリフィンは嫌いじゃないけど、特別
熱心に追っかけてるというわけでもなかったので、
以前私の板でやっていたジャズメン・ベスト3の100人にも
結局取り上げずに終わりました。
(カル・ジェイダーやロジャー・ケラウェイを取り扱って、
ホレスやグリフィンを外すのは、まさに独断と偏見ですね^^;)

だからあんまりJGの音源持ってないよなあ、と
手持ちを探してみると、意外に出てきて、
リーダー作はLPが3枚、CDが6枚ありました。
これに、JM、モンク、ウェスのコンボなどで
やったサイド音源を加えると、15~6というところか。
ベスト3を語れるかどうか、微妙な数ですね。

ベスト1は、なんといっても「リトル・ジャイアント」で、
これには異論なし。
これぞハードバップと言いますか、ジャズが右肩上がりに
隆盛を極めていた時代の、情熱の迸りを感じる名盤ですね。

2番目には、グリフィンが78年に15年ぶりに帰米して
ギャラクシー・レーベルから出した、
「Return of Johnny Griffin」を挙げたいと思います。
Somethin Else やエバンスの枯葉を聴きなれていた、
当時の私にとって、このアルバムのオープニングの
枯葉はある意味衝撃的でした。
当時これを聴いた友人の一人も、
「うん!これは、吹いとる!!」と、舌を巻いていました。

残る1枚は手持ちの他の少ない音源を聴きなおして、
選びたいと思います。
演奏内容にそれほど差がない人のように思いますので、
いきおい選曲とサイドの人選がポイントになりそうです。

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ハードバップ・ベスト盤 (duke)
2008-08-03 18:39:06
25-25 さん、グリフィンを取り上げていませんでしたか。カル・ジェイダーやロジャー・ケラウェイとなるとこれはもう独断と偏見というより病気ですね。医者の不養生といいますからご注意を。(笑)

私が挙げたベスト1に異論なしは、1年に1回あるかないかでしょうね。「リトル・ジャイアント」はハードバップのベスト盤ともいえるアルバムで、演奏内容は勿論のこと、ジャケに至るまで完璧な作品です。

「Return of Johnny Griffin」はおっしゃるように枯葉が素晴らしく、攻撃的なジャケとワンホーンで攻めまくるフレーズが凄いですね。ロニー・マシューズが好演でして、ギャラクシーではこの後セダー・ウォルトンやスタンリー・カウエルとも組んでおりますが、マシューズとの相性はいいようです。

私はこの1週間グリフィンを聴きなおしましたが、アルバム全体の好みでは20年前でも、おそらく20年後でも変らない選択でした。ただ曲となるとハッシャバイやグッドベイト等、気に入っているものもあります。
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リトル・ジャイアントの名のごとく豪快 (miyuki)
2008-08-03 20:22:51
グリフィンは、好きなテナー・マンです。
でも、意外と「グリフィンが好き」と言う人は少ないような気がします。(気のせい?)

パワフルで、くねくねしたような感じのテナーだと思います。モンクとやっている盤がありますが、私としてはチャーリー・ラウズより、グリフィンのほうが好みです。自信の盤でも、よくモンクの曲をやっていますね。

Blowing Sessionを聴いて、グリフィンを好きになったのですが、その後Little Giantを聴いたら、更にいいと思いました。

1.Little Giant
2.Blowing Session
3.Studio Jazz Party
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お詫びと訂正 (miyuki)
2008-08-03 20:24:25
上の書き込みで変換を間違えました。

「自信の盤」と書いてしまいましたが、正しくは「自身の盤」です。

すみません。
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自信と自身 (duke)
2008-08-03 20:42:55
miyuki さん、こんばんは。

「グリフィンが好き」と言う人は少ないかも知れませんが、「グリフィンが嫌い」と言う人も少ないテナーです。同時代のコルトレーンは時代毎に好みが分かれますが、安定したプレイヤーにみられる傾向かもしれませんね。

ワンツーと同じでしたか。私同様確かな耳を持った証です。(笑)

Studio Jazz Party は今となってはグリフィン自身の声と自信あるプレイが聴ける貴重なものになりました。笑い声も豪快で愉快なアルバムです。グッドベイトは私もよく聴きますよ。
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Unknown (bassclef)
2008-08-03 20:54:17
みなさん、こんばんわ。
ジョニー・グリフィン・・・軽くプオ~ッと吹くだけで「ジャズ」を感じさせるいいテナー吹きですよね。

いやあ・・・dukeさん、「1年に1回」が出てしまいました(笑)すみません・・・dukeさん、みなさんが一押しのLittle Giant~なぜかあまり好きじゃないのです。グリフィンのヴァイタルな感じ自体は嫌いじゃないはずなんでsが、なぜかな・・・ワンホーンのグリフィンが好みであることと、たぶん、ノーマン・シモンズという人の曲が苦手なのかもしれません。
それで僕の好みのグリフィンのベスト3は以下。

1.Way Out~どの曲も自然にハードバップしてて、ベースのウイルバー・ウエアも最高!超高速テンポのチェロキーにはホントにぶっ飛びます。

2.(サイドメンですが)
  モンクのファイブ・スポット2枚~モンクの絶妙なプッシュとブレイク(ピアノ弾くのを止めてしまうところ)で、グリフィンが乗りの乗る。グリフィンは吹きすぎてクドクなることもあるが、このモンクとのライブセッション(1958年)は、「モンク曲」という枠の中で、いい具合に抑制が効いている・・・ような気がする。

3.Kelly Dancers~これ・・・やっぱりいい(笑)
  dukeさんが「好きな1曲」として挙げられた「ハッシャ・バイ」もこのLPだったか。
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巨○なのにリトル・・・・とは・・・ (KAMI)
2008-08-03 21:28:48
duke様、皆様、こんばんは。
今晩は仕事の帰りに地元の祭りにチョット顔を出しました。
祭りって良いですね。

巨○グリフィンとはいったい誰が言い出したのでしょうか?
格調高いブログが下ネタブログになってしまうのではと危惧しております。(笑)

1位と2位はduke様に賛成です。
「ザ・リトル・ジャイアント」
ハード・バッパー、グリフィンの実力を示す一枚!!

「ア・ブローイング・セッション」
バトルに強いグリフィンが、巨○パワー発揮!!
トレーンもモブレイもやや劣勢!!

「ミステリオーソ」モンク
モンク・ワールドの中でもグリフィン節を発揮!!
モンクがバッキングを止めてもお構いなし!!

今回は上品にまとめてみました。(笑)
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3枚目 (25-25)
2008-08-03 22:49:50
>Kelly Dancers~これ・・・やっぱりいい(笑)
  dukeさんが「好きな1曲」として挙げられた「ハッシャ・バイ」

Kelly Dancers じゃなくて、Kerry Dancers ですね。

ハッシャ・バイや、4曲のトラディショナル入りという
選曲はなかなか魅力的ですし、「遅れてきたバッパー」の
バリー・ハリスの好サポートも光っていますので、
3枚目はこれにしたいと思います。

次点に、オルガン入りでジョー・パスg参加の
「Grab This!」あたりを。
しかし、ここでのジョー・パス・・・
あんまり上手くないような?

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ハッシャ・バイ (duke)
2008-08-04 18:50:56
bassclef さん、「1年に1回」が出るとこれはもうウイルバー・ウエアを予想しておりました。(笑)

Way Out のチェロキーはブラウニーと速さを競う神がかった演奏ですね。ワンホーンも勿論聴き所が多く豪快なラインを楽しめますが、Little Giant やドナルド・バード、ペッパー・アダムスと組んだWay Out の前作等の管の絡みは何ともいえないスリルがあります。Little Giant が人気あるのは協調性のなかにある強い主張でしょうか。

モンクのファイブ・スポットが出たましたね。モンクが目の前にいる緊張もあるのでしょうが、おっしゃるように「モンク曲」は一方的な攻めではなくコントロールが実に上手い。これがノーマン・シモンズの曲となればガンガン攻めるという変幻自在です。

Kerry Dancers は挙げられる1枚と思っておりました。このアルバムはタイトルより「ハッシャ・バイ」で呼ばれることが多い名演ですね。ジャズ喫茶ではたいていこれで通じますが、札幌のジャズ喫茶で「ハッシャ・バイ」とリクエストしたら、「ハイ」と答えて森山威男がかかりました。(笑)
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