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親日派のための弁明

2010-03-03 04:14:00 | ブックオフ本
韓国の現在の反日派に対して、過去の親日派の弁明を買って出たものです。



親日派のための弁明 (金 完燮著 荒木和博・荒木信子訳 草思社)

具体的には、日韓併合を是とします。李王朝500年の専制のくびきを脱し、明治維新と同様に、「文明開化」から「近代化」をめざす朝鮮の改革派は、日韓併合を日本の支援と受けとめ、併合に積極的に賛成した。そして、たしかに日韓併合のおかげで、朝鮮は近代化に離陸することができ、今日の繁栄の基礎を築いた。したがって著者は、昭和20年以前の「日本帝国主義」の「植民地獲得」や「侵略戦争」についても全面的に見直し、日本の正当性を主張している。先に紹介した、加藤陽子『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』も、日本の「侵略」は、欧米のような植民地経営をめざしたものではなく、軍事的な拠点づくりを目的としていたとあり、小熊英二『「日本人」の境界――沖縄・アイヌ・台湾・朝鮮:植民地支配から復帰運動まで』でも、日本の植民地に対する「同化主義」を論じているから、金完燮の主張を、いわゆる「歴史修正主義」とだけ断ずることはできない。

ただ、本書を一読すれば、誰でも、韓国ではなくほかならぬ日本について、よく似た言説を聞いてきたことを思い出すだろう。戦後、日本共産党がマッカーサーが率いる日本占領軍を「解放軍」と規定したことがある。残虐非道な日本軍国主義から、日本人民を解放するためにマッカーサー将軍がやってきたと歓迎したわけだ。もちろん、周知のように、その後の東西冷戦構造によって、日本共産党からは「米帝」と呼ばれることになるのだが、アメリカに対する日本の従属関係は、植民地と宗主国と揶揄されることはあっても、実質的には同盟的な属国に近いものとなった。アメリカは、日本に自由と民主をもたらす諸改革を促し、つまりは日本に対しアメリカへの同化政策を採った。そして、日本は、アメリカの軍事力を背景とする、「軽武装・経済優先」の吉田ドクトリンを続けて、世界第2位の経済大国という敗戦前以上の地位を得た。

どうです、日韓併合と日本の敗戦は、韓日と日米の関係は、ほとんど変わりないじゃないですか。つまり、先進国となった韓国、経済大国となった日本、そこから歴史を遡っていくという視線です。しかし、それは歴史観というより、自慢話ではないでしょうか。その視点とは、何のことはない国益にほかなりません。自国のみの、現在の国益です。ならば、敗戦も併合も、「結果的」には正しく、間違いどころか失敗ですらない、ことになります。戦争によるあらゆる死者は、「貴い犠牲者」ですか。

私の知人に、もう亡くなった人ですが、先の戦争でお父さんがインドネシアで戦死した女性がいました。遺された彼女とお母さんは、遺骨も帰らぬ夫と父の戦死を認めようとはしませんでした。高校を出た彼女は、母娘二人の苦しい暮らしを立てるため、バーのホステスとなり、その後バーのママになりました。58歳でガン死するまで、ついに彼女は父親の遺族年金を受け取ることはありませんでした。国益からみれば、戦争によるあらゆる死者は、「貴い犠牲者」となります。彼女からみれば、どうでしょうか。

(敬称略)