東大版「白熱教室」
サンデル先生が来日して、安田講堂で東大生に「講義」した、とNHKBSニュースが特集していた。広島長崎への原爆投下をオバマ大統領は謝罪すべきかどうか、という質問をサンデル先生は東大生に投げかけていた。
当然、『これからの「正義」の話をしよう』を東大生は読んできているから、自分が生まれてもいない過去の過ちについても、共同体の一員として責任を負うべき、というテキスト通りのオバマ謝罪賛成の発言が映されていた。
「講義」のほんの一部を紹介した番組だから、実際は学生からどんな発言が出たのかわからないが、この問いかけは政治的なバイアスがかかっていると東大生なら批判すべきだろう。彼らは、ハーバードの学生ではないのだから。
広島長崎への原爆投下は、アメリカの戦争犯罪ではないかと逆に問い返さなければならないはずだ。オバマ大統領の道徳的な謝罪以前に、原爆投下が、東京大空襲が、道徳問題以前、道徳問題以下の戦争犯罪ではないかという疑問が、まず発せられるべきだろう。
サンデル先生は、オバマ大統領の謝罪を「正義(道徳的に正しい行い)」の課題として尋ねた。今年、駐日アメリカ大使が、大使としては初めて広島の原爆慰霊祭に出席したように、近い将来、オバマ大統領が原爆投下について公式に謝罪する可能性はある。
そのとき、オバマ大統領とアメリカは、道徳的に正しい行いをした、とされるだろう。「本土決戦」による日本人とアメリカ軍人の多大な犠牲を回避できたのだから、結果的に原爆投下は正しかった、しかし道徳的には問題が残るから謝罪する。
謝罪したアメリカは正しいという、その理路は世界を貫く原理的なものではなく、アメリカの正義をアピールする政治的なものとしか思えない。いや、サンデル先生を批判するつもりはない。そうした批判はお門違いだ。
むしろ、とても感心している。日本の大学教授が、北京大学やソウル大学の学生千人を前にして、日中、日韓の「過去の不幸な歴史」について、日本は謝罪したのかどうか、と質問できる人は皆無だろうと思うからだ。
あるいは、原爆投下や東京大空襲、その他の被害について、日本はどのような道徳的な立場を取りうるのか、日本人自身が「講義」できないかぎり、サンデル先生の予測どおり、アメリカに「正義」は傾くだろう。
番組にはさまれたインタビューで、サンデル先生は、NHKの記者に対し、「日本には原爆を投下された責任がある」といい、「(原爆投下について)日米が謝罪し合う」という将来を期待していた。
まさよし、しっかりしなさい。お父さんやお母さんは、あなたをそんな子に育てた覚えはありません。
(敬称略)