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インフレ目標2%は達成不可能 2

2013-03-06 01:50:00 | 経済
野口悠紀雄氏:インフレ目標2%は達成不可能」文字起こし
公開日: 2013/01/26 http://www.videonews.com/
話し手:野口悠紀雄 聞き手:神保哲生


文字起こし後半部は、動画の16:20~




神保: なるほど、で、先生ね、なかなかアベノミクスとか金融緩和とか、われわれには本当の意味で正確には理解しにくいんですが、たとえば野口先生もそのお一人だし、ほかにもいろいろ懸念を表明されている方は多いわけですよね。とはいえ、日銀も2%だとか、規制緩和については政府の路線を踏襲するとか、そういう共同声明を出しているのをみてね、これもし、ほんとうにジャブジャブお金を刷り、国債をどんどん買いということをなっちゃって、先生がおっしゃるように、実際にはインフレターゲットにも行かない、いまの状態だと行かない間もずっと刷り続けるというようになりそうですよね、これはどういうリスクというか、それを実際にやった場合に、一般市民としては何を懸念してなきゃいけないということになりますか、何を心配しなきゃいけないか

野口: いまの方針を続ける場合、危険はないんです。なんで金融緩和をやっているかというと、2%物価上昇率を上げるとか、活性化するとかいっていますが、あれはまやかしに過ぎない。で、本当の目的は国債を買うことなんです。たとえば、いま大型補正をつくりますね。で、国債を5兆円増発することになります。で、ほっぽっとくと金利が上がっちゃうんです。それを抑えるために、日銀が買う必要があるんです。国債の発行額は、この数年急増してるんです。で、それによる金利上昇を抑えるために日銀が買ってるんです。それが金融緩和です。金融緩和の本当の目的は、物価上昇率を高めることではありません。国債を買うことなんです。このことを国債の貨幣化といいますが、国債が増発されて金利が上がるのを防ぐためですね。それはいまも行われています。ただし、それはいつまでもできるかっていうと、できなくなりつつあるんです。つまり、さっき、いちばん最初に金融緩和は何をやっているかというと、銀行が持っている国債を日銀が買うんだといいましたね。銀行はイヤだということができるんですね。つまり、日銀が買いたいだけ買えないということなんです。で、こういう状態を札割れといってるんですが、札割れはじつは去年の9月から頻発しています。ということは、いまのまんまの金融緩和は進められなくなる。無制限の金融緩和やるっていうんですが、無制限にできるとは限らないんです、無制限にできなくなりつつあるんです。これを突破する方法は、日銀に直接買ってもらうことです、市場を通じながら。国債の日銀引き受けですね、国債の日銀引き受けをやると、この問題はぜんぶ解決します

神保: そこまでいきますか?

野口: わかりませんけれど、いまの法律が行き詰まりつつあるんですから、そうなる可能性はありますね。ただし、そういったことを政府が求めてきた場合に、日銀はNOっていうんです。いまの日銀法ならNOといえる。これが日銀の独立性ですね。ただ、政府の一部には、この独立性を破って、日銀法を改正しようって考えを持っている人もいる。で、そうすると、政府は日銀に命令できるんですね。こうなれば事態は一変しますね。で、じつはいまの日銀法といいますのは、これは1989年にできた法律で、その前の法律、これは戦時立法で昭和17年にできた法律ですが、この法律では政府が日銀に命令できることになっているんです。で、それがいろいろな問題を生んだためにですね、戦後のインフレーションとか、そんな問題を生んだために、いまの日銀法になったわけです。それを踏みにじろうというのですから、これはひじょうに問題です

神保: いまの問題でもあれですね、日銀法の改正論議というのは、よく聞くのは手段の独立とか、目的の独立みたいなことで、手段は自分たちで自由にやっていいけれど、目的は政府と共有しなければいけないから、改正が必要だと。ほんとうにウォッチしなければいけないのは、手段も命令するような

野口: 目的を共有すれば手段も共有することになります。目的が決まれば手段は束縛されますね。だから、目的と手段を分離するなんて、それは詭弁だと思いますよ。とにかく、いまの法律では、目的についても手段についても、政府は命令できないんです。それを命令できるようにしよう、戦時立法に戻そうってのが、日銀の独立性を破ろうって考え方です

神保: で、先生いまハッとしたんですが、金融緩和の目的は国債を買うことだと

野口: もちろん

神保: で、金融緩和の方は実際は仮面をかぶっていて

野口: 仮面というのは2%物価上昇率を上げるとかですね、できもしない2%という目的を上げるのはなぜかというと、本当の目的を隠すためです

神保: 隠すため

野口: 2%といえば、いつになっても実現できませんから、いつまでも金融緩和政策をとり続けることができます

神保: 国債をどんどん買い続けることになると

野口: そうです

神保: そうすると金利が上がらないと。そうすると、これはものすごい高等手段ですよね

野口: 高等手段ではないです。歴史が示しているのは、財政赤字が積み上がった政府は常にそういうことをやっているということです

神保: この話はどこに首謀者がいるんでしょうか
 
野口: どこに首謀者がいるかわかりませんけれど、少なくとも巨額の財政赤字から抜け出せない政府は、インフレを求めていますね、あるいはこういう状況の中で、赤字が増えるから財政ができない、政治家は財政を増やして人気取りをしたいですから、その制約はぜひとも外したいですね。で、インフレを求めている人は世の中に大勢いますね。負担を負うのは国民です

神保: ひじょうに初歩的な質問で、どういう形で国民に負担という形で返ってくるんですか

野口: 定期預金がチャラになるんです。これは日本国民は終戦直後に経験したことですよ。終戦直後に、基本的にいまと同じようなことが起きて、インフレが起きたんです。物価が120倍くらいになったんですね。で、戦時中に戦時国債をたくさん買わされましたね。この国債が紙切れになったわけですね。そのことがまた起こるということです

神保: それはハイパーインフレ

野口: ハイパーではないですね、ハイパーってのは一兆倍とかそういうことですからね。日本の場合、100倍くらいですからね、100倍でもね、100円が1円に、100万円が1万円になるのは、大変なことですよ

神保: いまの100倍なんていう可能性とか危険性はどれくらい現実的なものとして、われわれが考えなきゃいけないんでしょうか

野口: それはどの程度の国債を発行するか、どの程度財政支出を増やすかによりますね、どの程度というのはいえません。何をやるかによります。ただし、終戦直後と違うところは何かといいますと、いまは資本取引、国際的な資本取引が自由になっているということですよ。その結果、何が起こるかというと、日本でインフレが起こると予想したら、日本の資本は海外に逃げ出すということです。これをキャピタル・フライトといいますが、キャピタル・フライトをするとなるとそれは円を売るということですから、円安になりますね。円安になって輸入物価が上がりますね。ですから、国内のインフレが加速されますね。そういうことになって、コントロールできなくなる可能性がひじょうに強いですね。つまり、日銀引き受けを認める、日銀の独立性を破るってのは、そういう危険に日本を晒すってことです。だから、それゆえにひじょうに重大な問題なんです

神保: で、いまの話は、自民党の三本の矢といっているけれども、実際は三本めの矢は実際はほとんどまだ出てきていない感じで、成長戦略とか規制緩和とか出ていうないので、じつは財政出動だということなんですか、これは

野口: 財政出動はすでに決めたわけですね、で、財政出動をやると国債は増えますね、金利が上がりますね、金利が上がると問題なので日銀が買うと

神保: すると結局は、財政出動を中心に据えた、でまあそれをちょっと金融緩和という

野口: それをスムーズに行うために金融緩和をやるわけですね。だけど、財政出動のために国債を買うのが目的だというと批判が集まるから、だから物価を上げるんだといってるんですね。だからそれはまやかしの目的です

神保: だから変な話、物価は上がらない方がいいんですね、そのまま買い続けることができちゃうから

野口: 物価は上がらないんです。影響はないです。でも、金利上昇は抑えるって効果は明らかにあるんですよ、国債を買っているわけですから

神保: 危険な兆候を見破るために、どのあたりをわれわれはウォッチしなければならないですか

野口: 円がある程度の水準になったら危険ですね。ですから資産をドルに換えることを真剣に考えないと危なくなりますね

神保: ある程度といいますと、いったん90円くらいまでいったのが、いま88、87円まで少し円高に戻していますが、どのくらいを

野口: 簡単な計算を申しますとね、2%に上がるっていっているわけでしょ、消費者物価を2%上げるためにはですね、輸入物価が4割上がる必要があるんですよ、過去のデータからみると。ていうことは、円が4割り安くなれば、そうなるんですね。ていうことは、いま仮に90円だとしますね。4割ということは120~130円くらい。そのくらいになりそうだったら危険ですね。つまり日本人はですよ、自国の通貨である円を安心して持てなくなるってこです。ひじょうに悲劇的なことですね。円の価値を守るってことこそ、政治的なもっとも基本的な責任じゃないですか。それが果たせなくなるってことです。どこでウォッチしたらよいかというひとつの答えがそれです

神保: 為替をみると。先生どうですか、ずっと経済をみてきて、ここにきて来て日本がついに、自民党政権に戻って、インフレターゲットとか、金融緩和でデフレ脱却とか、どうも国の政策で出てきたと、一方で20年、何をやってもなかなか日本の経済の活性化ははかれなかったというのも事実で、多くの人はなんだかよくわからないけれど、こんどはこっちにやらしてみてもいいんじゃないかと

野口: 違います。それはさっきいったように20年間金融緩和をやり続けたんです。さっきいいましたように。で、効果がなかったんです。つまり、ほんとうは経済の構造を変えなくてはいけないんですね。世界の状況の変化に対して。それは手術みたいなもんですよ。でも、手術は痛いからいやだと言い続けてきたんです

神保: それは規制緩和とか既得権益を切るとかのことですね

野口: それは嫌だから、金融緩和という麻薬を飲みましょうと、それを20年間飲み続けてきたんです。いまになって起こったことではありません。20年続けてきたんです。それをさらに続けようということです

神保: なるほど

野口: だからまだ麻薬を飲み続けていきたい、末期的症状ですね。だから、真剣に考えなくてはいけないです。日本ていう国を捨てざるを得なくなっていますね、いまや

神保: 先生、僕の方でほんとうは先生に聞くべきことを聞きそびれていて、ということはほかにありますか

野口: だいたいカバーしたと思いますが

神保: わかりました。どうもありがとうございました

(敬称略)





















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