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アカデミー賞受賞式 総集編

2013-03-18 01:05:00 | 政治
先日、NHKBSで総集編が放映されていたアカデミー賞授賞式 を楽しんだ。とりわけ印象に残ったのは、

身長150cm体重40kg以上あるとは思えず、誰に対してもスカイツリーを見上げる角度で、満面の笑顔と輝く瞳を仰向けるレッドカーペット・レポーターの超小柄女性。テンポのよいインタビューと切り返しはじつに見事だった。


左が彼女、その隣はヒュー・ジャックマン

それより感心したのは、スターの誰もが彼女に敬愛のこもったまなざしを送っているところ。<レッドカーペット・レポーター>で検索しても、「中野美奈子」ばかりが出てくるが、海外のメディアを検索したらわかった。ABCの<プレショーホスト>のクリスティン・チェノウェスという人らしい。

驚いたのは、司会のセス・マクファーレンが「あんたのおっぱい見たよ!」とくり返すミュージカル仕立てのショー。有名女優の名前とヌードになった映画名を次々にあげて歌っていく。カメラは客席に下りて、名前を出されたシャーリーズ・セロンやニコール・キッドマン、ヘレン・ハントたちが眉をひそめ、表情をこわばらせ、青ざめている顔を映していく。


下品にして辛辣なセス・マクファーレン

また、「リンカーン」に出演した、有名黒人演技派俳優を指して、「ドン・チードルも解放してもらえばよかったのに」とジョークしたときも、会場は明らかに引いていた。「セクハラ」や「ヘイトスピーチ」批判を怖れない勇敢なジョークに唸った。

最優秀主演女優賞を受けるために、ステージに上がろうとして階段で転んだジェニファー・ローレンス。初々しさを際立たせた白のロングドレスの裾長に足下を見失い、踏み外してのめるように膝をついた。すかさず、近くの席にいたヒュー・ジャックマンが助けに駆けよった。


つんのめったジェニファー・ローレンス

その格好が、小腰をかがめて部長の前をよこぎる課長のようで、ちょんちょんと手包丁までしそうな軽さがあり、ヒュー・ジャックマンの好人物さがよく出た、微笑ましいエピソードになった。なるほど、ジェントルマンには少し滑稽さも必要なのか。


作品賞はベン・アフレック監督主演の「アルゴ」だった

などではなく、もっとも印象深い場面は、『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』で最優秀監督賞をうけたアン・リー監督が、ステージ上から客席の妻に感謝の言葉を捧げたときだった。客席にいる受賞者の家族にスポットライトをあてて、ともに喜びあう姿を見せるお定まりの演出だ。

だが、アン・リー夫人の様子はかなり変わったものだった。注目を浴びた困惑から、照れ笑いと苦笑いのしわを目尻口許に寄せ、カメラと人々の拍手にいたたまれず、なんとか逃れられないかと身をよじらんばかりだった。おかしな表現だが、よい意味で彼女は場違いに見えた。

アン・リー監督の成功支えるクールな妻 ラブコールに「気持ち悪い」http://j.people.com.cn/206603/8168150.html

やっぱりそうだったのかと、この記事を微笑しながら読んだ。アン・リー(李安)監督やリン・フイジア(林恵嘉)夫人については、この取材ではじめて人となりを知ったのだが、「中共に未来はないが、中国にはある」という思いを深くした。

家庭を大切にするけれど、仕事が最優先の夫。家庭が大切というより、家族の支えとなる家庭そのものでありながら、研究者としての仕事に没頭する妻。ともに実直そのもの、ハリウッドの煌びやかさとは無縁な夫婦のようだ。政治や社交の手腕に長けた、押しの強い国際的中国人というイメージも裏切られる。

もちろん、台湾出身でいまは米国籍のアン・リー監督を中国人といえるかどうか。人民網日本語版の以前の記事でも、アン・リー監督のアカデミー受賞を「中国人の栄誉」と紹介しているが、海外同胞の著名人という控えめなあつかいだった。さすがに、「わが国の栄誉」にはできない。

当然、「中国には未来がある」という場合、アン・リー監督の栄光やリン・フイジア夫人の内助を例示するだけでは足りず、ひろがりをもたない。では、「未来」はどこに。アン・リー夫人に取材したこの記事こそ、それを満たしてひろがるものだと思う。

この記事が上出来な上に、静かに誇らしげなのは、平凡だが立派な人生を歩んできた、一人の妻、母、研究者であるリン・フイジアに最上の敬意を表すことで、「中共」の事大主義を完全に捨て去っているからだ。アン・リー家を通して、同時代を生きる同じ中国人という視野の広場を提示しているからだ。


迷惑げにキスを受けるアン・リー夫人 リン・フイジア(林恵嘉)

朝鮮日報と同様に「反日記事」が多い人民網日本語版だが、ときどき敬意がうかがえる「日本記事」を掲載することがあり、「反日記事」のなかにさえ、それを見つけることもある。そこに、国家権力とは一線を画した報道をめざす、報道言論機関の自律の兆しをみる。

丹念に読んでいるわけではないが、残念ながら朝鮮日報にそれをみた覚えはほとんどない。日本の新聞からも、中国(人)や韓国(人)へ敬意を感じる記事を読んだ覚えも、このところないのだが。

「中国に未来はある」と思わせてくれる人民網日本語版の記事だったが、次は、やっぱり「中共には未来はない」と思わせてくれるニュースだ。

中国高官「尖閣に測量隊派遣」 3月下旬に行動起こす可能性 2013/3/14 08:00 http://www.j-cast.com/2013/03/14169501.html?p=all

中国が尖閣に測量隊を派遣上陸させれば、必ず日本と「武力衝突」になる。それはごく「短時間」の「偶発的事件」になるかもしれないが、「戦争状態」に変わりはない。人死にや負傷が出なくても、実質的に国交は途絶え、その政治経済へのダメージは双方にとって計り知れぬ大きなものとなる。そして、いったんはじまった「戦争状態」はエスカレートこそすれ、沈静化させるにはきわめて困難な努力が必要になるだろう。

(敬称略)
コメント
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