今週の週刊少年マガジンに掲載された「聲の形」が評判らしい。近所の「ヤマザキデイリーストア」に、むかし懐かしい給食の「揚げパン」を買うついでに、立ち読みしてきた。耳の聴こえない女児が転校してきたことから、クラスが経験するいじめの生成・発展・和解(いじめ側男児の一人とだが)の物語だ。たしかに佳品である。登場人物それぞれの距離感や抑制の効いた感情描写など、きわめて上質な作品であることはわかる。ただし、障害者(注1)の取り扱いやいじめ側や傍観者たちのふるまいにも、とりたてて新味はない。
週刊少年マガジン12号掲載の読み切り『聲の形』に広がる反響 「とにかく凄い」「必読」http://getnews.jp/archives/291724
それより、この作品をめぐる有為転変のほうに驚いた。新人賞コンテストで入賞したにもかかわらず、クレームをおそれて掲載が見送られた「幻の受賞作」であったこと。後に別冊に掲載されたときは、異例にも読み切りが連載をおさえて読者人気投票で1位になったこと。多くの読者に読んでほしいという編集者の熱意から、講談社法務部や聾唖団体にはたらきかけ、執筆から5年、ようやく少年マガジン本誌への掲載が実現したこと。
ハレモノのように扱われるほどの問題作どころか、どこにも政治的な、あるいは過激な描写などはない。上記のような予備知識がまったくなければ、「いじめと和解」がテーマというより、障害を持つ少女といじめをする少年の出会いと成長、そして恋のはじまり。ちょっとひねりをくわえてはいるがハッピーエンドのラブストーリーという読後感が占めるはずだ。甘くはないが、苦すぎてもいない、ほどのよさ。だからこそ、入賞したともいえる。
ろうあという身体の障害、いじめという学校の現実、ただ自然と社会を人間の内面から描いただけで(ほとんどの表現行為はそこに尽きるのだが)、これほどの騒動や話題になるということに、むしろ後味のわるさが残る。つまり、わたしたちはそれほどに、自然を忌避し、社会に跪いているのかと。わたしたちこそがわたしたち自身を縛り上げているのかという考えにいたる。
掲載までのすったもんだまで情報提供する広報宣伝に借りて、そこまで問題提起をするのが編集者の狙いだったとすれば、してやられたということか。
注1: 障碍という表記はあえてしませんでした。「碍」がわかりにくいからです。
追記: とても完成度が高い作品と思いましたが、机の落書きの場面には首をかしげました。自分の机と他人の机を間違えることはほとんどありえないので。
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