あるバス停に、サングラスをかけたオッサンが携帯電話をしながら立っていた。私はバスを止めて扉を開けた。オッサンはそのまま乗ってきたが、席に座るとすぐに電話を切った。私はバスを発車させて、すぐに左折… と思ったら、オッサンが席を移動しようとしてフラついた。驚いた私は、少しハンドルを戻しつつアクセルを緩めた。思わず「危ないじゃないですか!」と言いそうになったが… 私は黙っていた。「ムッ」とした気持ちを抑えるように… 私は黙っていた。しばらくすると、そのオッサンが再び電話を始めてしまったのである。その時の私は、いつものような猶予を与えることなく、すぐに「バスの中で電話をしないでください」と言った。オッサンは二言三言話すと電話を切ったのだが、何かブツブツと言いながら勢いよく降車ボタンを押した。私の耳に「カチッ」というプラスチック音が聞こえるほどの勢いであった。私は「こりゃあ… オッサンが降りる時に何か一悶着ありそうだな」と期待して… 否、心の準備をしていた。すると予想通り、オッサンが私に向かって言った。ただし、怒鳴るのではなく呟くように言ったので、ハッキリとは聞き取れなかったのだが…「さっき… ●●所の奴が… 電話… 俺が… あんたみたいな運ちゃんがいるんだな」と言ったのである。私は「はぁ…」と答えただけで、頭の中は「???」であった。てっきり文句を言われるのかと思ったら、けっして怒ったような口調ではなく… もちろん、逆に感謝されたわけでもなく… 勝手に推測するならば【別のバスに乗った時には“●●所の奴”が電話をしていたけれど、その運転士は黙っていた。そこで今回、自分も少しくらい電話をしてもいいかと思ったら、私に注意されてしまった…】そんなところでしょうかねぇ…??? それから約1時間後、●●所から乗ってきたスーツ姿の男性が車内で電話を始めたのだが、私が間髪入れずに注意したのは言うまでもない。実は、●●所から乗る客の携帯電話使用率はかなり高い… 少なくとも私はそう思っている。