<金曜は本の紹介>
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「植物はすごい」という本は、その書名の通り、植物の成長力や光合成、トゲ、渋み・辛み、防衛物質、香り、毒、紫外線防御、暑さ・乾燥・寒さ対策、タネなし等の植物のすごさについてまとめたものです。
植物は、動きまわることはできないし、声をあげることもできませんが、実はすごい機能を色々と持っていることを明らかにしていて、なかなか興味深く読めます。
「植物はすごい」という本はとてもオススメです!
以下はこの本で興味深かったポイント等です。
・キャベツの水分含量は、約95%なので、1200gのうち、1140gが水で、残りの60gが成長した量です。これでも、最初のタネの1万2000倍です。1000円が、約4ヶ月で、1200万円になるという増え方です。キャベツの成長力は、”すごい”のです。植物の生長力がすごいのは、キャベツだけではありません。レタスの一粒のタネは約1mgで、市販されるときの重さは、約500gです。乾燥させて含まれている水分を除いたときの重さは、約25gです。タネの重さの約2万5000倍です。1000円が、約4ヶ月で、2500万円にんおと同じ増え方なのです。大根の生長量もほぼ同じです。一粒のタネは約10mg、市販されるときの1本の大根の重さは、約1kgで、乾燥したときの重さは、50gです。タネの重さの約5000倍です。約4ヶ月で、1000円が500万円になるのと同じ増え方なのです。
・植物たちは、水と二酸化炭素からブドウ糖をつくりますが、そのとき、光のエネルギーを使います。その結果、ブドウ糖の中に、光のエネルギーが取り込まれ、蓄えられます。私たちは、摂取したブドウ糖をからだの中で分解します。その途上で、ブドウ糖の中に蓄えられていたエネルギーが放出されます。そのエネルギーはすぐに使われることもありますが、体の中に蓄えられることもあります。ブドウ糖から得られたエネルギーは、私たちが歩いたり走ったりするためのエネルギーに使われます。また、成長したり、体を維持したりするための物質をつくるのに役立ちます。ブドウ糖は、蓄えていたすべてのエネルギーが取り出されてしまうと、原料であったもとの水と二酸化炭素に戻って、体から出ていきます。植物たちは、エネルギーの源となるブドウ糖やデンプンを自分で作っているのですから、何も食べなくても、生きていけるのです。食べ物を探し求めて動き回らなければならない動物を見て、植物たちは、「ウロウロと動きまわらなければ生きていけない、かわいそうな生き物だ」と思っているでしょう。
・ナスやトマト、ピーマンなどは、連作を嫌がる代表的な野菜です。もし、連作すれば、生育は悪く、病気にかかることが多いのです。うまく収穫できるまでに成長したとしても、収穫量は少なくなります。「連作障害」といわれる現象です。その原因は、いろいろ考えられます。一つは、同じ場所で同じ種類の植物が栽培されていると、その種類の植物に感染する病原菌や害虫がそのあたりに集まってきて、病気になりやすくなることです。また、毎年、同じ養分を吸収するために、その種類の植物に必要な特定の養分が少なくなることです。さらに、植物が根から排泄物を出していることがあり、それらが蓄積して成長に害を与えることです。こんな理由で多くの野菜は、連作されるのを嫌がるのです。野菜以外の植物たちも、野菜と同じしくみで生きています。そのため、ほかの植物たちにとっても、同じ場所で続いて暮らしていくことはよくないことなのです。
・アセトアルデヒドによって、タンニンが不溶性のタンニンに変えられた姿が、柿の実の中にある「黒いゴマ」のように見えるものです。これは口の中で溶けないので、食べても渋みを感じることはありません。黒ゴマのような黒い斑点が多い柿の実ほど、渋みは消えているのです。こうして、渋い柿は自然に甘くなります。柿の実は、タネができる前の若いときには、虫や鳥に食べられないように渋みを含みます。タネができあがってくると、鳥などの動物に食べてもらえるように甘くなりタネを運んでもらいます。たいへん巧妙な”すごい”しくみを備えているのです。
・コアラが食べるので有名なユーカリの葉っぱには、殺人や自殺に使われる「青酸」が含まれています。しかし、コアラはユーカリの葉っぱを食べます。コアラは、ユーカリの葉っぱを食べても、青酸を無毒にするしくみをもっているからです。コアラ自身には、この毒を無毒化する力はありません。でも、腸の中に青酸を無毒にする細菌を住まわせています。しかし、生まれたばかりのコアラの腸内には、この細菌はいません。そのため、子どもが生まれると、「食い初め」に、親は自分の糞を食べさせます。親の糞の中には、青酸を無毒化する能力をもった腸内細菌が混じっています。生まれたばかりのコアラは、食い初めで親の糞を食べるだけでなく、親の肛門あたりをはげしくなめます。こうすることで、自分の腸に青酸を無毒化する細菌を住まわせ、子どもはユーカリを食べられるようになります。コアラは、このようなしくみを身につけ、親から子どもへ、この大切な腸内細菌を伝えています。そのおかげで、ほかの動物が食べない有毒なユーカリの葉っぱを、ほぼ独占的に食べていけるのです。
・ヒガンバナがお墓に植えられたのは、土葬だった時代、埋葬した遺体を食べに来るモグラやネズミを寄せ付けないためでした。畦に多いのは、モグラやネズミが畦を壊すことを防ぐためでした。また、「ヒガンバナの球根は、水にさらして毒を抜けば、食べられる」といわれます。そのため、「田や畑で栽培する作物が不作の年、畦に植えておいたこの植物の球根で飢えをしのぐ救荒植物の役割があった」ともいわれます。球根には、多くのデンプンが含まれているからです。だから、毒さえ抜けば、空腹を満たす食べ物になります。
・花は、紫外線が当たって生み出される有害な活性酸素を消去しなければなりません。次の世代に健全な命をつなぐために、生まれてくるタネを守らねばなりません。そのためには、活性酸素を消し去る抗酸化物質が大量に必要です。ビタミンCやビタミンE以外にも、植物がつくる代表的な抗酸化物質があります。それは、アントシアニンとカロテンです。これらは、花びらの色を出すもと(素)になる物質なので、「色素」とよばれます。アントシアニンとカロテンちうのは、花びらを美しくきれいに装う二大色素です。植物たちは、これらの色素で、花を装い、花の中で生まれてくる子どもを守っているのです。二大色素は、紫外線の害に対する二大防御物質なのです。
・以前は、田植え前の田には、レンゲソウが育っていました。マメ科のレンゲソウは、根についている小さな粒々の中に住む「根粒菌」に空気中の窒素を材料にして窒素肥料をつくってもらいます。そのため、レンゲソウは葉っぱや茎に窒素をいっぱい含みます。その葉っぱや茎を田植えの前に田んぼにすき込むと、窒素がしみ出してきて、土地が肥えます。だから、長い間、レンゲソウは、「緑肥の代表」として使われてきました。ところが、近年は、田植えが機械化されて、小さいイネの苗を早くに植えるようになりました。そのため、すき込まれるレンゲソウが大きく成長するのを待っていられないのです。そこで、レンゲソウにかわって、より成長の早いナノハナが「緑肥の代表」になりつつあります。ナノハナは、根粒菌に窒素肥料をつくってもらう植物ではないのですが、田植えの前に大きく成長するので、その葉っぱや茎が緑肥として役立つのです。ナノハナは、観光資源や「緑肥」として役立つために栽培されるだけではありません。実を搾って「なたね油」が採れます。その搾りかすは、油かすとして肥料になります。また、飼料としても使われます。「なたね油」は、家庭や学校給食のためのてんぷらを揚げるのに使われたあとに、回収されます。そのあと、きれいにされて、バスやトラックのディーゼルエンジンを動かす燃料として使用されます。これは、「バイオディーゼル燃料」といわれます。この植物は、それにとどまらず、「土壌の放射能汚染を緩和する効果がある」といわれています。1986年、ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所で大事故がありました。そのとき、放出された放射性物質によって土壌が汚染されました。その土壌汚染の緩和に役立つことが示されています。その理由は、ナノハナは、放射性物質であるセシウムやストロンチウムを土壌から吸収するからです。ただ、これはナノハナだけの特別な性質ではありません。ふつうの植物も、土壌からカリウムやカルシウムを養分として吸収します。そのとき、セシウムやストロンチウムも一緒に吸収します。それなら、「なぜ、ナノハナだけに、土壌の放射能汚染を緩和する効果があるといわれるのか」との疑問が生まれます。これについては、納得のいく説明はなされていません。ナノハナは、成長が速いので、他の植物より多くの量を吸収するのかもしれません。ですから、成長の速いヒマワリにも同じはたらきがあるといわれています。しかし、現在では、ナノハナやヒマワリが特別の作用をもつことを裏付ける根拠は見つかっていません。
・アントシアニンは、赤ジソ、サニーレタス、ムラサキキャベツ、ムラサキタマネギなどにも含まれています。「葉っぱにアントシアニンが含まれているというが、ムラサキタマネギの食用部が葉っぱなのか」という疑問があるかもしれませんが、ムラサキタマネギやタマネギの食用部は葉っぱなのです。球形の食用部は、短い茎のまわりに、うろこ状のぶあつくなった葉っぱが集まったものです。カロテンも、花だけでなく、パセリ、ホウレンソウ、シュンギクなどの葉っぱに多く含まれています。アントシアニンやカロテンは抗酸化物質ですから、これらの野菜は、私たちの健康に良いということになります。特にカロテンを私たちに多くもたらしてくれるのは、緑黄色野菜です。緑黄色野菜とは、緑色や黄色の色素を多く含んだ野菜を指します。代表的な緑黄色野菜には、青ジソ、パセリ、シュンギク、コマツナ、ニラ、ホウレンソウ、ダイコンの葉っぱ、クレソンなどがあります。また、ノリやワカメなどの海藻類にもカロテンが多く含まれていることがわかっています。アントシアニンやカロテンは、花びらや葉っぱだけでなく、実の皮や果肉の中にも存在します。これは、実の中のタネを紫外線の害から守り続けているのです。タネが完全に成熟するまで、植物たちが自分の子どもを守っている姿と思えばいいでしょう。
・高山植物の花には、美しくきれいであざやかな色をしているものが数多く存在します。空気が澄んだ高い山の上には、紫外線が多く注ぐからです。また、太陽の強い光が当たる畑や花壇などの露地で栽培するカーネーションと紫外線を吸収するガラスで囲まれた温室で栽培するカーネーションを比べると、露地栽培のカーネーションの花の色はずっとあざやかです。紫外線を含んだ太陽の光を直接受けるからです。植物たちは、健康に生きるために、紫外線や太陽の強い光から体を守っています。紫外線や強い光という有害なものが多ければ多いほど、植物たちは色あざやかに魅力的になるのです。植物たちは、逆境に抗して美しくなるのです。逆境に出会えば、苦労しなければなりません。その苦労をすることが魅力を増すことにつながるのです。この理屈は、私たち人間の場合にも当てはまります。
・水の不足に困るのは、家の庭や畑、花壇で育つ植物たちです。だから、これらの植物たいには、たっぷりと水をやることが必要です。夏の猛暑の中では、昼間の暑さのために、夕方になると、庭や畑、花壇の土はカカラに乾きます。ですから、水をやるのは、夕方がいいのです。夕方、水不足のために、ぐったりと葉っぱを下に垂らしていた植物も、夜の間に水を吸って、朝にはピンと葉っぱを広げます。夜の間に水を吸い、朝の太陽の光を十分に水をもった状態で迎え、元気よく光合成をはじめます。
・カビやキノコの菌糸の繁殖は、とても速いのです。カビやキノコがじめじめとした湿った状態の暖かい中で繁殖することは、よく知られています。だから、夏の夕方にたっぷりの水が与えられると、栄養のある庭や畑、花壇ならば、夜の暖かさを利用して、菌糸は喜んで繁殖します。このような土地では、夕方に水をやってはいけません。カビやキノコの菌糸がはびこると、植物が枯れたり、生育が抑制されたりするからです。朝早くに水をやれば、カビやキノコの菌糸は、昼間の太陽の強い光やそれに含まれる紫外線に弱いですから、植物の生育に害を及ぼすほど繁殖することはありません。
・昼間には、水やりをしないほうがいいでしょう。昼間にまいた水は土の中にしみこむ前に、暑さのために乾いてしまい、まいた水の大半は無駄になります。たっぷりとやったつもりでも、土の中にしみこんだ水は意外と少ないのです。昼間、土の表面が濡れるだけの水やりは、水を吸収するための値を土中深くにのばしている植物たちには、役に立ちません。また、昼間にまいた水は、土中の水を吸い上げて蒸発させてしまうことがあります。暑いとき、土の表面から下にしみこんだ水は、土の中にある水と結びつくと、土の表面から蒸発するときに、土中の水を引き上げて、いっしょに蒸発させるのです。すると、土中の水までなくなってしまいます。何のために、水をやったのかがわからなくなります。
・「虫を捕らえて、それを食べて栄養としている」というと、ハエトリソウはいかにも動物のように生きているという印象があります。しかし、そうではありません。この植物はふつうの植物と同じように、クロロフィルという緑色の色素を持っています。クロロフィルは葉緑素ともいわれ、文字通り、葉っぱの緑色の素になる色素で、光合成のための光を吸収する色素です。ですから、この植物は光合成を行います。そのため、日当たりの良い場所を好んで生活します。ハエトリソウは、十分な光と水があれば、光合成をするのです。だから、光合成でつくることができるブドウ糖やデンプンをほしがってはいません。ハエトリソウがほしがっているのは、タンパク質などの窒素を含んだ物質です。私たちは、これらの物質を主に肉や魚から得ます。同じように、ハエトリソウも虫を消化して窒素を含んだ物質を吸収します。ふつうの植物は、窒素を含んだ養分を土の中から吸収します。だから、「なぜ、ハエトリソウは根から窒素を含んだ養分を吸収しないのか」という疑問が浮かぶでしょう。ハエトリソウは北アメリカの出身ですが、原産地となる土地は、窒素などの養分をあまり含まないやせた土地なのです。だから、これらの養分を根からは吸収できなかったのです。そのため、これらの養分を補うために、虫のからだから窒素を含んだ物質を摂取する能力を身につけたのです。「そんな生き方をしてまで、そんなやせた土地に生きる利点はあるのか」との疑問もあるでしょう。ふつうの植物は、養分が乏しいので、そんな土地には生きていけません。だから、こんな能力を身につけることで他の植物たちに邪魔されずに競争もせずに、やせた土地で生きていくことができるのです。
・ハエトリソウは、感覚毛に1回触れただけでは、葉っぱは閉じません。20~30秒間に連続して2回触れたときだけに、葉っぱは閉じるようになっています。これは、風で運ばれてきたゴミなどが触れても、無駄に葉を閉じないためです。葉っぱを閉じるということは、ハエトリソウにとって、エネルギーを消耗することなのです。だから、無駄には閉じないのです。栽培しているときに、面白がって何度も触っていると、葉は枯れてしまいます。植物そのものが枯れてしまうこともあります。
・果実というのは、本来、タネがなければ、肥大しません。植物にしてみれば、わざわざエネルギーを使っておいしい実をつくる意義は、「動物に食べてもらい、その果実を食べるときに一緒に体内に入ったタネを、糞といっしょに離れた場所に排出してもらう」ことです。あるいは、動物に実が食べられるときに、タネが飛び散ります。動物が実をくわえて移動し、別の場所で食べてくれれば、タネは離れた場所に散布されます。そうすれば、自分が動き回ることのできな植物も、生育地を広げたり、生育地を変えたりできます。だから、動物に果実を食べられるときにタネがないのなら、果実をつくる意味がありません。そのため、タネがなければ、おいしい果実は実りません。
・トマトの温室には、セイヨウオオマルハナバチというハチが人為的に放たれます。このハチは、ミツバチと比べ、温度が低くても活動が活発で、花粉をつけてまわる能力が高いのです。だから、トマトの実をならせるのに役に立ちます。ところが、「セイヨウ」という言葉が名前につくことから想像される通り、ヨーロッパ原産の外来種のハチです。そのため、温室から逃げ出すと、日本の生態系を荒らすことが危惧され、「特定外来生物」に指定されており、取り扱いには注意が必要です。トマトが栽培されるビニールハウスでは、外へ逃げ出すことがないように、万全の対策を講じることが義務づけられています。だから、セイヨウオオマルハナバチは利用しづらいのです。温室栽培でトマトの実をならせるもう一つの方法は、「オーキシン」を使うことです。イチゴの実を大きくするはたらきのあるオーキシンを花にかけると、花粉がつかなくても、実が肥大します。オーキシンは、イチゴだけでなく、トマトの実も肥大させる作用をもっているのです。ただ、オーキシンで実を肥大させると、花粉がメシベについて実ができるわけではないので、実が肥大してもタネはできません。そのため、季節はずれに売られているトマトには、「タネなし」のトマトがあります。
・温州ミカンの祖先は、江戸時代初期に、中国から渡来しました。そのときのミカンにいは、タネがありました。ところが、約400年前の江戸時代前期、当時の薩摩で栽培されていたときに、このミカンに突然変異がおこり、「温州ミカン」が生まれました。「オシベのやくがしなびて、花粉がメシベについてタネをつくる能力をなくす」性質と、「タネができなくても、子房が肥大する」性質を併せもつミカンが生まれたのです。子房とは、ミカンの場合、私たちが食べる部分です。花粉が能力をなくし、タネができなくても、本来ならタネがつくられる場所であるメシベの基部が肥大するのです。これが、タネなしの「温州ミカン」です。タネなしの果物の場合、多くの人に「タネがないのに、どうやって増やすのか」という疑問がもたれます。このミカンは、私たち人間が、主に接ぎ木で増やします。もし、人間が接ぎ木をしなければ、温州ミカンは絶滅してしまう運命にあります。
・バナナにも、昔、タネがありました。でも、突然変異がおこって、タネができなくなったのです。バナナを輪切りにして注意深く観察すると、中心部に小さな黒色の点々があります。それが、タネのなごりです。突然変異がおこる前のバナナには、タネがありました。バナナのタネはけっこう大きくてアズキの豆くらいの大きさでした。そえが、一本のバナナにたくさん詰まっていました。現在でも、タネのあるバナナは残っており、沖縄県などで見ることができます。突然変異をおこしてタネをなくしたバナナは、食べやすくて都合がいいので、人間が大切に栽培して、タネなしフルーツの代表にしたのえす。「タネのないバナナをどうして増やすのだろうか」という疑問があるでしょう。タネをつくる能力をなくしたバナナも、根もとから新しい植物体を生やす能力をもっているのです。バナナを育てていると、親の株の根もとのあたりから、新しい芽生えが出てきます。その芽生えを育てると、バナナの実がなります。タネなし果物の代表であるバナナも、次の世代へ命をつないでいくという”すごい”能力をもっているのです。
<目次>
はじめに
第1章 自分のからだは、自分でまもる
(1)「少しぐらいなら、食べられてもいい」
植物たちの成長力は、”すごい”
何も食べなくても生きている植物たちは”すごい”
必要な栄養を自分でつくり出せる植物たちは”すごい”
すべての動物の食糧を賄う植物たちは”すごい”
親離れ、子離れのよさは”すごい”
何も語らない植物たちの思いは”すごい”
(2)食べられたくない!
トゲはからだを守る”すごさ”の象徴
トゲでからだを守る植物たちは”すごい”
「刺さると、痛い」だけでないトゲは、”すごい”
ないタネをトゲで守る植物は、”すごい”
病気の原因にもなるトゲは、”すごい”
ライオンを殺すトゲの”すごい”
第2章 味は、防衛手段!
(1)渋みと辛みでからだを守る
クリの実の堅い守りは、”すごい”
渋柿の巧妙さは、”すごい”
「痛み」で感じる味は、”すごい”
ストレスで辛みを変える”すごさ”
(2)苦みと酸みでからだを守る
「苦み」の成分は?
「えぐい」って、どんな味?
酸みの力は”すごい”
ミラクル・フルーツの思いは?
第3章 病気になりたくない!
(1)野菜と果汁に含まれる防衛物質
「ネバネバ」の液でからだを守る”すごさ”
タンパク質を分解する果汁の”すごさ”
(2)病気にならないために
かさぶたをつくって実を守る植物たちの”すごさ”
かさぶたをつくるしくみ
(3)香りはただものではない!
カビや病原菌を退治する”すごさ”
枯れ葉になっても親を守る”すごさ”
第4章 食べつくされたくない!
(1)毒をもつ植物は、特別ではない!
有毒物質でからだを守る”すごさ”
身近にある”すごい”有毒植物
有毒物質で食害を逃れる”すごさ”
毒をもって共存してき”すごさ”
地獄を生み出す”すごさ”
(2)食べられる植物も、毒をもつ!
”吟持”を保つ”すごさ”
”擬態”でからだを守る植物たち
食べ方を戒める”すごい”果物
第5章 やさしくない太陽に抗して、生きる
(1)太陽の光は、植物にとって有害!
紫外線と闘う植物たちの”すごさ”
まぶしい太陽の光と闘う”すごさ”
(2)なぜ、花々は美しく装うのか
花の色素は、防御物質
葉っぱや根や果実にも、防御物質
逆境に抗して、美しくなる”すごさ”
”皮”は実を守る
第6章 逆境に生きるしくみ
(1)暑さと乾燥に負けない!
植物は熱中症にならない!
暑さと闘う”すごさ”
夜に光合成の準備をする”すごい”植物たち
(2)寒さをしのぐ
熱力学の原理を知る”すごさ”
地面を這って生きる”すごさ”
(3)巧みなしくみで生きる
”すごい”生き方をする植物
「肉食系植物」とは?
「根も葉もない植物」の”すごさ”
ピーナッツの”すごい”かしこい生き方
第7章 次の世代へ命をつなぐしくみ
(1)タネなしの樹でも、子どもをつくる
タネがなくても肥大する”すごさ”
温州ミカンは、子どもをつくる
パイナップルもタネをつくる!
(2)花粉はなくても、子どもをつくる
「無花粉スギ」でも、タネをつくる
イネがもたらした”すごい”発見
(3)仲間とのつながりは、強い絆
地下に隠れて、からだを守る”すごさ”
イギリスで嫌われる”すごさ”
子どもを産む葉っぱの”すごさ”
おわりに
参考文献
面白かった本まとめ(2013年上半期)
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「植物はすごい」という本は、その書名の通り、植物の成長力や光合成、トゲ、渋み・辛み、防衛物質、香り、毒、紫外線防御、暑さ・乾燥・寒さ対策、タネなし等の植物のすごさについてまとめたものです。
植物は、動きまわることはできないし、声をあげることもできませんが、実はすごい機能を色々と持っていることを明らかにしていて、なかなか興味深く読めます。
「植物はすごい」という本はとてもオススメです!
以下はこの本で興味深かったポイント等です。
・キャベツの水分含量は、約95%なので、1200gのうち、1140gが水で、残りの60gが成長した量です。これでも、最初のタネの1万2000倍です。1000円が、約4ヶ月で、1200万円になるという増え方です。キャベツの成長力は、”すごい”のです。植物の生長力がすごいのは、キャベツだけではありません。レタスの一粒のタネは約1mgで、市販されるときの重さは、約500gです。乾燥させて含まれている水分を除いたときの重さは、約25gです。タネの重さの約2万5000倍です。1000円が、約4ヶ月で、2500万円にんおと同じ増え方なのです。大根の生長量もほぼ同じです。一粒のタネは約10mg、市販されるときの1本の大根の重さは、約1kgで、乾燥したときの重さは、50gです。タネの重さの約5000倍です。約4ヶ月で、1000円が500万円になるのと同じ増え方なのです。
・植物たちは、水と二酸化炭素からブドウ糖をつくりますが、そのとき、光のエネルギーを使います。その結果、ブドウ糖の中に、光のエネルギーが取り込まれ、蓄えられます。私たちは、摂取したブドウ糖をからだの中で分解します。その途上で、ブドウ糖の中に蓄えられていたエネルギーが放出されます。そのエネルギーはすぐに使われることもありますが、体の中に蓄えられることもあります。ブドウ糖から得られたエネルギーは、私たちが歩いたり走ったりするためのエネルギーに使われます。また、成長したり、体を維持したりするための物質をつくるのに役立ちます。ブドウ糖は、蓄えていたすべてのエネルギーが取り出されてしまうと、原料であったもとの水と二酸化炭素に戻って、体から出ていきます。植物たちは、エネルギーの源となるブドウ糖やデンプンを自分で作っているのですから、何も食べなくても、生きていけるのです。食べ物を探し求めて動き回らなければならない動物を見て、植物たちは、「ウロウロと動きまわらなければ生きていけない、かわいそうな生き物だ」と思っているでしょう。
・ナスやトマト、ピーマンなどは、連作を嫌がる代表的な野菜です。もし、連作すれば、生育は悪く、病気にかかることが多いのです。うまく収穫できるまでに成長したとしても、収穫量は少なくなります。「連作障害」といわれる現象です。その原因は、いろいろ考えられます。一つは、同じ場所で同じ種類の植物が栽培されていると、その種類の植物に感染する病原菌や害虫がそのあたりに集まってきて、病気になりやすくなることです。また、毎年、同じ養分を吸収するために、その種類の植物に必要な特定の養分が少なくなることです。さらに、植物が根から排泄物を出していることがあり、それらが蓄積して成長に害を与えることです。こんな理由で多くの野菜は、連作されるのを嫌がるのです。野菜以外の植物たちも、野菜と同じしくみで生きています。そのため、ほかの植物たちにとっても、同じ場所で続いて暮らしていくことはよくないことなのです。
・アセトアルデヒドによって、タンニンが不溶性のタンニンに変えられた姿が、柿の実の中にある「黒いゴマ」のように見えるものです。これは口の中で溶けないので、食べても渋みを感じることはありません。黒ゴマのような黒い斑点が多い柿の実ほど、渋みは消えているのです。こうして、渋い柿は自然に甘くなります。柿の実は、タネができる前の若いときには、虫や鳥に食べられないように渋みを含みます。タネができあがってくると、鳥などの動物に食べてもらえるように甘くなりタネを運んでもらいます。たいへん巧妙な”すごい”しくみを備えているのです。
・コアラが食べるので有名なユーカリの葉っぱには、殺人や自殺に使われる「青酸」が含まれています。しかし、コアラはユーカリの葉っぱを食べます。コアラは、ユーカリの葉っぱを食べても、青酸を無毒にするしくみをもっているからです。コアラ自身には、この毒を無毒化する力はありません。でも、腸の中に青酸を無毒にする細菌を住まわせています。しかし、生まれたばかりのコアラの腸内には、この細菌はいません。そのため、子どもが生まれると、「食い初め」に、親は自分の糞を食べさせます。親の糞の中には、青酸を無毒化する能力をもった腸内細菌が混じっています。生まれたばかりのコアラは、食い初めで親の糞を食べるだけでなく、親の肛門あたりをはげしくなめます。こうすることで、自分の腸に青酸を無毒化する細菌を住まわせ、子どもはユーカリを食べられるようになります。コアラは、このようなしくみを身につけ、親から子どもへ、この大切な腸内細菌を伝えています。そのおかげで、ほかの動物が食べない有毒なユーカリの葉っぱを、ほぼ独占的に食べていけるのです。
・ヒガンバナがお墓に植えられたのは、土葬だった時代、埋葬した遺体を食べに来るモグラやネズミを寄せ付けないためでした。畦に多いのは、モグラやネズミが畦を壊すことを防ぐためでした。また、「ヒガンバナの球根は、水にさらして毒を抜けば、食べられる」といわれます。そのため、「田や畑で栽培する作物が不作の年、畦に植えておいたこの植物の球根で飢えをしのぐ救荒植物の役割があった」ともいわれます。球根には、多くのデンプンが含まれているからです。だから、毒さえ抜けば、空腹を満たす食べ物になります。
・花は、紫外線が当たって生み出される有害な活性酸素を消去しなければなりません。次の世代に健全な命をつなぐために、生まれてくるタネを守らねばなりません。そのためには、活性酸素を消し去る抗酸化物質が大量に必要です。ビタミンCやビタミンE以外にも、植物がつくる代表的な抗酸化物質があります。それは、アントシアニンとカロテンです。これらは、花びらの色を出すもと(素)になる物質なので、「色素」とよばれます。アントシアニンとカロテンちうのは、花びらを美しくきれいに装う二大色素です。植物たちは、これらの色素で、花を装い、花の中で生まれてくる子どもを守っているのです。二大色素は、紫外線の害に対する二大防御物質なのです。
・以前は、田植え前の田には、レンゲソウが育っていました。マメ科のレンゲソウは、根についている小さな粒々の中に住む「根粒菌」に空気中の窒素を材料にして窒素肥料をつくってもらいます。そのため、レンゲソウは葉っぱや茎に窒素をいっぱい含みます。その葉っぱや茎を田植えの前に田んぼにすき込むと、窒素がしみ出してきて、土地が肥えます。だから、長い間、レンゲソウは、「緑肥の代表」として使われてきました。ところが、近年は、田植えが機械化されて、小さいイネの苗を早くに植えるようになりました。そのため、すき込まれるレンゲソウが大きく成長するのを待っていられないのです。そこで、レンゲソウにかわって、より成長の早いナノハナが「緑肥の代表」になりつつあります。ナノハナは、根粒菌に窒素肥料をつくってもらう植物ではないのですが、田植えの前に大きく成長するので、その葉っぱや茎が緑肥として役立つのです。ナノハナは、観光資源や「緑肥」として役立つために栽培されるだけではありません。実を搾って「なたね油」が採れます。その搾りかすは、油かすとして肥料になります。また、飼料としても使われます。「なたね油」は、家庭や学校給食のためのてんぷらを揚げるのに使われたあとに、回収されます。そのあと、きれいにされて、バスやトラックのディーゼルエンジンを動かす燃料として使用されます。これは、「バイオディーゼル燃料」といわれます。この植物は、それにとどまらず、「土壌の放射能汚染を緩和する効果がある」といわれています。1986年、ウクライナのチェルノブイリ原子力発電所で大事故がありました。そのとき、放出された放射性物質によって土壌が汚染されました。その土壌汚染の緩和に役立つことが示されています。その理由は、ナノハナは、放射性物質であるセシウムやストロンチウムを土壌から吸収するからです。ただ、これはナノハナだけの特別な性質ではありません。ふつうの植物も、土壌からカリウムやカルシウムを養分として吸収します。そのとき、セシウムやストロンチウムも一緒に吸収します。それなら、「なぜ、ナノハナだけに、土壌の放射能汚染を緩和する効果があるといわれるのか」との疑問が生まれます。これについては、納得のいく説明はなされていません。ナノハナは、成長が速いので、他の植物より多くの量を吸収するのかもしれません。ですから、成長の速いヒマワリにも同じはたらきがあるといわれています。しかし、現在では、ナノハナやヒマワリが特別の作用をもつことを裏付ける根拠は見つかっていません。
・アントシアニンは、赤ジソ、サニーレタス、ムラサキキャベツ、ムラサキタマネギなどにも含まれています。「葉っぱにアントシアニンが含まれているというが、ムラサキタマネギの食用部が葉っぱなのか」という疑問があるかもしれませんが、ムラサキタマネギやタマネギの食用部は葉っぱなのです。球形の食用部は、短い茎のまわりに、うろこ状のぶあつくなった葉っぱが集まったものです。カロテンも、花だけでなく、パセリ、ホウレンソウ、シュンギクなどの葉っぱに多く含まれています。アントシアニンやカロテンは抗酸化物質ですから、これらの野菜は、私たちの健康に良いということになります。特にカロテンを私たちに多くもたらしてくれるのは、緑黄色野菜です。緑黄色野菜とは、緑色や黄色の色素を多く含んだ野菜を指します。代表的な緑黄色野菜には、青ジソ、パセリ、シュンギク、コマツナ、ニラ、ホウレンソウ、ダイコンの葉っぱ、クレソンなどがあります。また、ノリやワカメなどの海藻類にもカロテンが多く含まれていることがわかっています。アントシアニンやカロテンは、花びらや葉っぱだけでなく、実の皮や果肉の中にも存在します。これは、実の中のタネを紫外線の害から守り続けているのです。タネが完全に成熟するまで、植物たちが自分の子どもを守っている姿と思えばいいでしょう。
・高山植物の花には、美しくきれいであざやかな色をしているものが数多く存在します。空気が澄んだ高い山の上には、紫外線が多く注ぐからです。また、太陽の強い光が当たる畑や花壇などの露地で栽培するカーネーションと紫外線を吸収するガラスで囲まれた温室で栽培するカーネーションを比べると、露地栽培のカーネーションの花の色はずっとあざやかです。紫外線を含んだ太陽の光を直接受けるからです。植物たちは、健康に生きるために、紫外線や太陽の強い光から体を守っています。紫外線や強い光という有害なものが多ければ多いほど、植物たちは色あざやかに魅力的になるのです。植物たちは、逆境に抗して美しくなるのです。逆境に出会えば、苦労しなければなりません。その苦労をすることが魅力を増すことにつながるのです。この理屈は、私たち人間の場合にも当てはまります。
・水の不足に困るのは、家の庭や畑、花壇で育つ植物たちです。だから、これらの植物たいには、たっぷりと水をやることが必要です。夏の猛暑の中では、昼間の暑さのために、夕方になると、庭や畑、花壇の土はカカラに乾きます。ですから、水をやるのは、夕方がいいのです。夕方、水不足のために、ぐったりと葉っぱを下に垂らしていた植物も、夜の間に水を吸って、朝にはピンと葉っぱを広げます。夜の間に水を吸い、朝の太陽の光を十分に水をもった状態で迎え、元気よく光合成をはじめます。
・カビやキノコの菌糸の繁殖は、とても速いのです。カビやキノコがじめじめとした湿った状態の暖かい中で繁殖することは、よく知られています。だから、夏の夕方にたっぷりの水が与えられると、栄養のある庭や畑、花壇ならば、夜の暖かさを利用して、菌糸は喜んで繁殖します。このような土地では、夕方に水をやってはいけません。カビやキノコの菌糸がはびこると、植物が枯れたり、生育が抑制されたりするからです。朝早くに水をやれば、カビやキノコの菌糸は、昼間の太陽の強い光やそれに含まれる紫外線に弱いですから、植物の生育に害を及ぼすほど繁殖することはありません。
・昼間には、水やりをしないほうがいいでしょう。昼間にまいた水は土の中にしみこむ前に、暑さのために乾いてしまい、まいた水の大半は無駄になります。たっぷりとやったつもりでも、土の中にしみこんだ水は意外と少ないのです。昼間、土の表面が濡れるだけの水やりは、水を吸収するための値を土中深くにのばしている植物たちには、役に立ちません。また、昼間にまいた水は、土中の水を吸い上げて蒸発させてしまうことがあります。暑いとき、土の表面から下にしみこんだ水は、土の中にある水と結びつくと、土の表面から蒸発するときに、土中の水を引き上げて、いっしょに蒸発させるのです。すると、土中の水までなくなってしまいます。何のために、水をやったのかがわからなくなります。
・「虫を捕らえて、それを食べて栄養としている」というと、ハエトリソウはいかにも動物のように生きているという印象があります。しかし、そうではありません。この植物はふつうの植物と同じように、クロロフィルという緑色の色素を持っています。クロロフィルは葉緑素ともいわれ、文字通り、葉っぱの緑色の素になる色素で、光合成のための光を吸収する色素です。ですから、この植物は光合成を行います。そのため、日当たりの良い場所を好んで生活します。ハエトリソウは、十分な光と水があれば、光合成をするのです。だから、光合成でつくることができるブドウ糖やデンプンをほしがってはいません。ハエトリソウがほしがっているのは、タンパク質などの窒素を含んだ物質です。私たちは、これらの物質を主に肉や魚から得ます。同じように、ハエトリソウも虫を消化して窒素を含んだ物質を吸収します。ふつうの植物は、窒素を含んだ養分を土の中から吸収します。だから、「なぜ、ハエトリソウは根から窒素を含んだ養分を吸収しないのか」という疑問が浮かぶでしょう。ハエトリソウは北アメリカの出身ですが、原産地となる土地は、窒素などの養分をあまり含まないやせた土地なのです。だから、これらの養分を根からは吸収できなかったのです。そのため、これらの養分を補うために、虫のからだから窒素を含んだ物質を摂取する能力を身につけたのです。「そんな生き方をしてまで、そんなやせた土地に生きる利点はあるのか」との疑問もあるでしょう。ふつうの植物は、養分が乏しいので、そんな土地には生きていけません。だから、こんな能力を身につけることで他の植物たちに邪魔されずに競争もせずに、やせた土地で生きていくことができるのです。
・ハエトリソウは、感覚毛に1回触れただけでは、葉っぱは閉じません。20~30秒間に連続して2回触れたときだけに、葉っぱは閉じるようになっています。これは、風で運ばれてきたゴミなどが触れても、無駄に葉を閉じないためです。葉っぱを閉じるということは、ハエトリソウにとって、エネルギーを消耗することなのです。だから、無駄には閉じないのです。栽培しているときに、面白がって何度も触っていると、葉は枯れてしまいます。植物そのものが枯れてしまうこともあります。
・果実というのは、本来、タネがなければ、肥大しません。植物にしてみれば、わざわざエネルギーを使っておいしい実をつくる意義は、「動物に食べてもらい、その果実を食べるときに一緒に体内に入ったタネを、糞といっしょに離れた場所に排出してもらう」ことです。あるいは、動物に実が食べられるときに、タネが飛び散ります。動物が実をくわえて移動し、別の場所で食べてくれれば、タネは離れた場所に散布されます。そうすれば、自分が動き回ることのできな植物も、生育地を広げたり、生育地を変えたりできます。だから、動物に果実を食べられるときにタネがないのなら、果実をつくる意味がありません。そのため、タネがなければ、おいしい果実は実りません。
・トマトの温室には、セイヨウオオマルハナバチというハチが人為的に放たれます。このハチは、ミツバチと比べ、温度が低くても活動が活発で、花粉をつけてまわる能力が高いのです。だから、トマトの実をならせるのに役に立ちます。ところが、「セイヨウ」という言葉が名前につくことから想像される通り、ヨーロッパ原産の外来種のハチです。そのため、温室から逃げ出すと、日本の生態系を荒らすことが危惧され、「特定外来生物」に指定されており、取り扱いには注意が必要です。トマトが栽培されるビニールハウスでは、外へ逃げ出すことがないように、万全の対策を講じることが義務づけられています。だから、セイヨウオオマルハナバチは利用しづらいのです。温室栽培でトマトの実をならせるもう一つの方法は、「オーキシン」を使うことです。イチゴの実を大きくするはたらきのあるオーキシンを花にかけると、花粉がつかなくても、実が肥大します。オーキシンは、イチゴだけでなく、トマトの実も肥大させる作用をもっているのです。ただ、オーキシンで実を肥大させると、花粉がメシベについて実ができるわけではないので、実が肥大してもタネはできません。そのため、季節はずれに売られているトマトには、「タネなし」のトマトがあります。
・温州ミカンの祖先は、江戸時代初期に、中国から渡来しました。そのときのミカンにいは、タネがありました。ところが、約400年前の江戸時代前期、当時の薩摩で栽培されていたときに、このミカンに突然変異がおこり、「温州ミカン」が生まれました。「オシベのやくがしなびて、花粉がメシベについてタネをつくる能力をなくす」性質と、「タネができなくても、子房が肥大する」性質を併せもつミカンが生まれたのです。子房とは、ミカンの場合、私たちが食べる部分です。花粉が能力をなくし、タネができなくても、本来ならタネがつくられる場所であるメシベの基部が肥大するのです。これが、タネなしの「温州ミカン」です。タネなしの果物の場合、多くの人に「タネがないのに、どうやって増やすのか」という疑問がもたれます。このミカンは、私たち人間が、主に接ぎ木で増やします。もし、人間が接ぎ木をしなければ、温州ミカンは絶滅してしまう運命にあります。
・バナナにも、昔、タネがありました。でも、突然変異がおこって、タネができなくなったのです。バナナを輪切りにして注意深く観察すると、中心部に小さな黒色の点々があります。それが、タネのなごりです。突然変異がおこる前のバナナには、タネがありました。バナナのタネはけっこう大きくてアズキの豆くらいの大きさでした。そえが、一本のバナナにたくさん詰まっていました。現在でも、タネのあるバナナは残っており、沖縄県などで見ることができます。突然変異をおこしてタネをなくしたバナナは、食べやすくて都合がいいので、人間が大切に栽培して、タネなしフルーツの代表にしたのえす。「タネのないバナナをどうして増やすのだろうか」という疑問があるでしょう。タネをつくる能力をなくしたバナナも、根もとから新しい植物体を生やす能力をもっているのです。バナナを育てていると、親の株の根もとのあたりから、新しい芽生えが出てきます。その芽生えを育てると、バナナの実がなります。タネなし果物の代表であるバナナも、次の世代へ命をつないでいくという”すごい”能力をもっているのです。
<目次>
はじめに
第1章 自分のからだは、自分でまもる
(1)「少しぐらいなら、食べられてもいい」
植物たちの成長力は、”すごい”
何も食べなくても生きている植物たちは”すごい”
必要な栄養を自分でつくり出せる植物たちは”すごい”
すべての動物の食糧を賄う植物たちは”すごい”
親離れ、子離れのよさは”すごい”
何も語らない植物たちの思いは”すごい”
(2)食べられたくない!
トゲはからだを守る”すごさ”の象徴
トゲでからだを守る植物たちは”すごい”
「刺さると、痛い」だけでないトゲは、”すごい”
ないタネをトゲで守る植物は、”すごい”
病気の原因にもなるトゲは、”すごい”
ライオンを殺すトゲの”すごい”
第2章 味は、防衛手段!
(1)渋みと辛みでからだを守る
クリの実の堅い守りは、”すごい”
渋柿の巧妙さは、”すごい”
「痛み」で感じる味は、”すごい”
ストレスで辛みを変える”すごさ”
(2)苦みと酸みでからだを守る
「苦み」の成分は?
「えぐい」って、どんな味?
酸みの力は”すごい”
ミラクル・フルーツの思いは?
第3章 病気になりたくない!
(1)野菜と果汁に含まれる防衛物質
「ネバネバ」の液でからだを守る”すごさ”
タンパク質を分解する果汁の”すごさ”
(2)病気にならないために
かさぶたをつくって実を守る植物たちの”すごさ”
かさぶたをつくるしくみ
(3)香りはただものではない!
カビや病原菌を退治する”すごさ”
枯れ葉になっても親を守る”すごさ”
第4章 食べつくされたくない!
(1)毒をもつ植物は、特別ではない!
有毒物質でからだを守る”すごさ”
身近にある”すごい”有毒植物
有毒物質で食害を逃れる”すごさ”
毒をもって共存してき”すごさ”
地獄を生み出す”すごさ”
(2)食べられる植物も、毒をもつ!
”吟持”を保つ”すごさ”
”擬態”でからだを守る植物たち
食べ方を戒める”すごい”果物
第5章 やさしくない太陽に抗して、生きる
(1)太陽の光は、植物にとって有害!
紫外線と闘う植物たちの”すごさ”
まぶしい太陽の光と闘う”すごさ”
(2)なぜ、花々は美しく装うのか
花の色素は、防御物質
葉っぱや根や果実にも、防御物質
逆境に抗して、美しくなる”すごさ”
”皮”は実を守る
第6章 逆境に生きるしくみ
(1)暑さと乾燥に負けない!
植物は熱中症にならない!
暑さと闘う”すごさ”
夜に光合成の準備をする”すごい”植物たち
(2)寒さをしのぐ
熱力学の原理を知る”すごさ”
地面を這って生きる”すごさ”
(3)巧みなしくみで生きる
”すごい”生き方をする植物
「肉食系植物」とは?
「根も葉もない植物」の”すごさ”
ピーナッツの”すごい”かしこい生き方
第7章 次の世代へ命をつなぐしくみ
(1)タネなしの樹でも、子どもをつくる
タネがなくても肥大する”すごさ”
温州ミカンは、子どもをつくる
パイナップルもタネをつくる!
(2)花粉はなくても、子どもをつくる
「無花粉スギ」でも、タネをつくる
イネがもたらした”すごい”発見
(3)仲間とのつながりは、強い絆
地下に隠れて、からだを守る”すごさ”
イギリスで嫌われる”すごさ”
子どもを産む葉っぱの”すごさ”
おわりに
参考文献
面白かった本まとめ(2013年上半期)
<今日の独り言>
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