年末を締めくくるライヴは2005年以来毎年灰野さんのオールナイトだ。夜1時開場だから昔はShowBoatの近くの居酒屋で一杯やってから向かっていたが、歳のせいかめっきりお酒に弱くなったのと近年人気で早くからお客さんが列を作って待つようになり、ここ2,3年はお酒抜きで早く行って最前列を確保するようにしていた。
今年は家で仮眠をとってから出掛けることにしたが思いの外グッスリ眠ってしまいスタート・ダッシュに出遅れてしまった。12時半にShowBoatに着くと今までないほどの長蛇の列。ShowBoatは地下なので前の方はそれほどでもないが吹きっ晒しの通りで待つととても寒い。例年通り灰野さんからホッカイロの差し入れがあった。30分押しで入場開始。私はマル秘の方法で最前列を確保(Kさんどうもありがとう)。動員は100人を超えオールナイトとしては異例の満員御礼。最近徐々にアヴァンギャルド系のライヴの動員が増えてきている。若い観客がどんどん育っているのだ。誠にいい兆候だ。
恒例の哀しげなヴァイオリンのSEとお香の煙に包まれてこれから繰り広げられる灰野ワールドへの期待が高まる。灰野さんのライヴ自体1ヶ月ぶりだからなおさらだ。脳髄の深い部分で灰野さんの音世界への渇望が増殖していた。
2時15分客電が落ち灰野さんが登場。ステージは二つのスポットライトが壁を照らしているだけで目を凝らさなければ見えないほどの暗さ。手前右側のテーブルに発振器、ドラムマシーン、エアシンセがセットしてあり、中央にマイクが数本立っている。ギター・アンプが4台、ベース・アンプが2台。壁際にはパーカッションや民俗楽器が並べてある。
発振器の静かな電子音でスタート。「10分にひと目盛りずつ」とインタビューで語っていたようにゆっくりゆっくり音が変化していく。それに乗せて賛美歌を思わせる静かなヴォーカル。この時間にこのサウンドが30分間。敢て冒頭で客の眠気を誘うよう意図したそうだ。お客さんの目蓋が閉じくらくらしてきたところでギターを持ち轟音ノイズ。ここからはもう灰野さんの思いのまま。様々な楽器を駆使して創造される世界に眠くなったり目覚めたりを繰り返す。幻覚も幾度となく目にした。隣の青年が眠気に抵抗できず身体を傾けているのに、演奏が静かになったとたんにぱっちり目を覚まし、轟音になるとまた眠りに落ちていくのが面白かった。
2部構成になっており第1部は3時間。第2部は6時過ぎからで体内時計が朝を示していたので眠気は感じない。ドラムがセットされパーカッション演奏から。後半はギターの轟音に乗せソロ~不失者~静寂のレパートリーをたっぷり聴かせる。「ここ」「暗号」「おまえ」「悲愴」「なったんじゃない」「すでに用意されていた想い」「あっち側からこっちを見ろ」など聴き覚えのある曲が次々演奏されていく。まさしく灰野敬二ベスト・ヒット。懐かしくもエキサイティングな演奏だった。アンコールを含め第2部は2時間半。のべ5時間半灰野さんにもてあそばれた観客は疲れつつも満足し切った表情ですっかり明るくなった外気の中帰っていった。
機材の撤収を待ってお汁粉で簡単な打ち上げ。5時間半の熱演で灰野さんの手はボロボロになっていたが本人はすっかり元気で色んな話をしてくれた。またしてもここには書けない裏話が多かったが、ひとつだけ心温まるエピソードを紹介しよう。
フランスでリリースされた最新作「Un autre chemin vers l'Ultime」は教会や洞窟で一発録りされたヴォイス・ソロ作品だったが、実はこの録音には第2弾があったという。人里離れた森の中で録音したのだが、録音中灰野さんの声に呼応して遠くから鹿が鳴き返してきたという。世界初の人と鹿のセッション。しかも歌う灰野さんの側にたぬきとフクロウが寄ってきて黙って聴いていたというメルヘンの世界。残念ながら録音に車の走る音が入ってしまったためNGになってしまったらしいが。
来年還暦を迎える灰野さん、特別なイベントは予定してないと言うがひとつの締めくくりとして思うところはあるに違いない。2012年も灰野さんから目を離せない。
動物も
虜にするよ
灰野さん
2011年を締めくくるライヴとしてはこれ以上ない幸せな夜だった。足取りも軽く家へ戻り、年賀状を作らなきゃと思いながらも前日買った裸のラリーズのCDを聴き浸る私であった。
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