UFO CLUB 16周年記念 “不失者 ワンマン”。
昨年の1月は大阪まで不失者を観に行ったんだっけ。真夜中東名を飛ばして大阪へ行き、ライヴ終了後そのまま東京帰りという強行軍だったがそれだけの価値のあるライヴだった。その時はベースは工藤冬里さんだったが、昨年7月AKRON/FAMILYのサポートを務めた時にはナスノミツル氏に変わっていた。今回は灰野さん+ナスノ氏+高橋幾郎氏からなる不失者の初のワンマン。早くも私の2012年ライヴ観戦における最大の山場を迎えた。
開場の30分前に行ったらまだ5,6人しか並んでいなかった。ほぼ定刻に開場。中に入ると最前列だけ椅子が並べてある。運良く中央の椅子を確保出来た。ワンマンならではのお香とヴァイオリンのBGMにこれから始まる素晴らしき時間への期待が高まる。
50分押しでステージの幕が開くと楽器がセットしてあるだけで誰もいない。左からベース、ドラムス、ギターの極めてシンプルなセッティング。灰野さん側にはギブソンSGとグヤトーンのフレットレス・ギターが置いてある。おもむろにナスノ氏と幾郎氏が現れ、ふたりだけで演奏を始める。ベースは単音、ドラムは力強いスネアだけ。これが10分近く続き緊張感を高める。そこへ灰野さんがフルート片手に登場。アンプのスイッチを入れSGを構えるがじっとそのまま音を出さないで立ち尽くす。無音の存在感とでも呼ぼうか、そこに立っているだけで場の空気が張りつめていくのがわかる。マイクに近づき「ここからまだありえなかった"いみくずし"という何かを起こします」とひと言、不失者ワールドのスタートを宣言する。音数の少ない演奏が続き、灰野さんは譜面台のファイルをめくりながら深遠な内容の詩を歌う。ギターは時折ぐにゃりと空間を歪ませるノイズを発する以外はノンエフェクトでアブストラクトなフレーズを奏でる。時々リズム隊のふたりに向けて両腕を広げてサインを出す。かつて小沢靖さんにステッキを振って指示を出していたことを思い出す。リズム隊といっても定型のビートではなく呼吸をするように脈動し歌うような演奏である。相当丹念にリハーサル(鍛錬)を重ねたのだろう、無駄が全くない削ぎ落とされた音の破片が弾け飛ぶ。歌詞のひとつひとつが”曲”でありその連なりが意識の中に重層的に沈殿してゆく。気が付くと8ビートを完全に崩したとあとに産み出されるグルーヴに身を任せて身体を前後に揺り動かしていた。灰野さんの動きに逐一身体が反応する。3者3様のリズムがモアレのようにさざ波を立てて空間に拡散していく。いつの間にか会場は満員になっている。聴き手も灰野さんの操り人形のように揺れ続ける。次第に演奏が激しさを増し「あっち」「暗号」「お前」などの不失者往年のレパートリーが予想外のアレンジで演じられ意識を覚醒していく。まるで夢遊病者になったようなエクスタシーがずっと続く。3時間が長すぎるか短すぎるか、その判断も出来なくなるほどの緊迫した時間だった。この場所での時間の流れは他の場所の時間とは明らかに進み方が違っていた。最後は再び冒頭に歌われた「いみくずし」の歌に戻る。余りに見事に完結したステージだったからだろう、終わってもアンコールを求める拍手は起こらなかった。もの凄いものを観てしまったという畏怖に似た感情が心の中の暗闇に刻み込まれた。
観ているうちにこれこそ本当のハードコアだ、という確信が芽生えた。ジャンルやスタイルではない真のハードコア。灰野さんにそれを伝えたら、そう、これがロックだ、とのお言葉をいただいた。
亀川千代氏も観に来ていて帰りの電車が一緒だったので色々話をさせてもらった。昔吉祥寺ぎゃていでバイトしていたこととか、対バンをした思い出とか、いちろう氏のCDのこととか。いちろう氏の40分の曲「Fly Electric」の内容を話すと、ああ、やっちゃいましたか、との感想。短い時間だったがとても楽しかった。
これ以上
何を求める
音楽に
灰野さんの次のライヴは1/30(月)六本木Super Deluxeでジム・オルーク、オーレン・アンバーチとのトリオである。このトリオは3年連続のスーデラ出演。この日は昨年のスーデラでのライヴLP/CDの発売記念でもある。タイトルは何と「いみくずし」。当日スーデラの物販でも購入出来るが、灰野さん曰く「発売より後の、別の僕のライヴの時に、僕の物販から買ってもらえると嬉しいな」とのこと。その場合はサインもしてもらえるかも!
その先の灰野さんの予定は2/3(金)下北沢Shelter w/milkcow, AS MEIAS、3/24(土)秋葉原Club Goodman T.美川氏、ドラびでお氏とのトリオ、3/27(火)入谷なってるハウス 外山明氏とのデュオ。
PS.タイミング良くアメリカのAn Unofficial Keiji Haino Websiteの管理人Dave Keffer氏が自作のデレク・ベイリー&灰野さんのビデオを送ってきたので紹介します。いやー最高によく出来た面白いビデオ。でも灰野さんが観たらどう思うんだろ?