スザンヌ・ヴェガちゃん(3歳年上なんだけど何故かちゃん付けで呼んでしまう)のデビューは鮮烈だった。1980年代半ばエレポップ全盛の時代に突然フォーク・ギター片手に洗練に登場した彼女の存在は、イギリスのエヴリシング・バット・ザ・ガール、同じくアメリカのトレイシー・チャップマンなどと共に新世代アコースティック・サウンドの旗手としてミュージック・シーンに爽やかな風を送り込んだ。それと共に児童虐待を描いた「ルカ」の社会的なメッセージがセンセーショナルに取り上げられもした。「街角の詩」「孤独(ひとり)」「夢紡ぎ」「微熱」「欲望の9つの対象」という彼女の世界のイメージを膨らませる邦題も印象的だった。
私がヴェガちゃんのライヴを初めて観たのは1993年「微熱」ツアーで、オープンしたばかりの横浜ランドマーク・タワーのコンサート・ホールの杮落しだった。プロデュース&エンジニアにミッチェル・フルーム&チャド・ブレイクを迎えエレクトロかつインダストリアルなサウンドで聴き手を驚かせたこのアルバムの曲をバンド編成で披露。彼女の清々しいイメージと斬新なサウンドが同居した素晴らしいライヴだった。フルーム&ブレイクはその後ロン・セクスミスやロス・ロボスの仕事で売れっ子になるが、その最初の記念碑が「微熱」だった。1997年には「欲望の9つの対象」ツアーで来日。ちょうど来日中だったリサ・ローブがステージに飛び入り出演したことを覚えている。
その後暫く彼女の音楽を聴かなくなってしまったのだが、最後に観てから15年後の今年来日公演があることを知り懐かしさも手伝って無性に観たくなり参戦した次第。ビルボードライヴ東京は何度か行ったことがあるが、こじんまりとしていてステージが観やすく音もいい。私はカジュアル席という一番上階の座席だったが、武道館やホールよりもずっとアーティストとの距離が近くチケット代も外タレにしては高くないのでおススメである。お客さんは20代~50代と年齢層が広く満員だった。
私が観たのは9:30PMからのセカンド・ステージ。時間通りにヴェガちゃんとサポート・ギタリストがステージに上がる。デビュー当時を想わせるショートカットに黒のスーツ。変わっていないのは外見だけでなく歌声も昔と全く同じだった。ホッと心が弛緩する。大半が80~90年代のアルバムの曲だが、最近手がけた60年代アメリカの女流作家カーソン・マッカラーズの伝記の劇中音楽から3曲ハンド・マイクで振り付きで披露したのは面白かった。サポート・ギタリストがサンプラーを使った多彩なプレイでバックアップする。個人的に大好きな「キャラメル」やインダストリアル・サウンドが衝撃的だった「ブラッド・メイクス・ノイズ」のアコギ・ヴァージョンが聴けたのが嬉しかった。現在彼女は自分の過去の作品をアコースティック弾き語りで再録音した「Close Up」というシリーズを自己のレーベルからリリースしている。Vol.1がLove Song、Vol.2がPeople, Places & Things、最新のVol.3がStates of Being、今春リリース予定のVol.4がSongs of Familyとテーマが分かれている。チャンスがあったらぜひ聴いてみてほしい。デビュー後25年たっても彼女の感性が時代を先取りしていることがわかるだろう。
1時間半のステージが終わると外は大雪。東京ミッドタウンから青山一丁目まで15分ほど歩いたのだが凍える寒さと雪で滑る路面にも拘わらず私の心は幸せと安らぎに満ちていた。
ヴェガちゃんの
笑顔に青春
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ビルボードライヴ東京では2~3月にかけてハワード・ジョーンズ、ヨーマ・コーコネン、ドクター・ジョン、カーラ・ボノフ&J.D.サウザー、レオン・ラッセルなど私の世代には応えられない来日が続く。要チェック!