ポール・ウェラー兄貴の新作がリリースされた。マーキュリー音楽賞にノミネートされた前作「ウェイク・アップ・ネイション」から2年ぶり10作目のソロ・アルバム。現在53歳。70分を超える2008年の大作「22ドリームス」はTHE JAM時代の若さを取り戻しつつも円熟味も見事にブレンドされた名作だった。本作ではノエル・ギャラガー(オアシス)、グレアム・コクソン(ブラー)、アジズ・イブラヒム(シンプリー・レッド、ストーン・ローゼズ)、スティーヴ・クラドック(オーシャン・カラー・シーン)をゲストに迎え、さらに進化したウェラー・ワールドを聴かせてくれる。
手元にポール自身の書いた楽曲解説があるのだが、何度も名前が出て来るのがクラウトロック、そしてノイ!なのである。ちょうど昨日BBCの「クラウトロック特集」の紹介をしたばかりだから、この偶然に驚いてしまった。兄貴曰く「この曲は、躍動的な、ノイ!風のサウンドにしたかったんだ。」(track 1 "Green")、「ノイ!のアルバムは全作買ったんだ、多分お察しの通りね。」(track 3 "Kling I Klang")、「この曲にはゴシック的な雰囲気がある。それとクラウトロックのリズムがね。」(track 10 "Around The Lake")。所々に飛び交う電子音に兄貴のクラウトロックへの傾倒ぶりが滲み出ている。勿論クラウトロックはあくまで要素のひとつであり、アルバム全体を通して兄貴ならではのソウルやブリティッシュ・ビートの色が濃いから、別にクラウトロックを意識しなくても充分楽しめる作品である。何と言っても兄貴のヴォーカルの溌剌とした輝きといったら!50歳を過ぎてますます若返っているように思える。兄貴がTHE JAMでデビューした1977年にはエリック・クラプトンやピート・タウンゼンドはまだ30代だった訳で、その歳をとっくに超えてしまった兄貴が枯れることなしに走り続けていることには大いに勇気づけられる。
アルバムからの1stビデオ・クリップは90年代初頭の"ハシエンダ"時代を思わせる電脳ドラッグ色に溢れていて嬉しくなってくる。
キング・オブ・
モッズも今や
大ベテラン
私が入手したのはCDのみの通常盤だが、ハードブック仕様DVD付きのデラックス盤もリリースされているので、よりディープに兄貴の世界に浸りたい方にはそちらがおススメ。