A Challenge To Fate

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「ジャズ非常階段」~非常階段 featuring 坂田明、豊住芳三郎@新宿ピットイン 2012.4.9 (mon)

2012年04月11日 01時04分03秒 | 素晴らしき変態音楽


非常階段が新宿ピットインに初出演、しかもゲストが坂田明さんと豊住芳三郎(SABU)さん、というニュースを知ったのは1月頃だった。坂田さんのライヴを観に行った時フライヤーかピットイン情報紙で知ったのである。2009年非常階段が難波ベアーズで坂田さんと共演したことは知っていたし(非常階段本に写真が載っている)、同年新大久保Earthdomで豊住さんと共演した映像はYouTubeに上がっている。しかし今回はジャズの殿堂ピットインである。非常階段のライヴを観た人ならお分かりの通り、それは"演奏を観る"だけのものではない。JOJO広重さんを中心にメンバーが観客を煽り、正に暴動寸前の混沌を巻き起こすひとつの"体験/儀式"である。私が一番最近彼らを観たのは2011年4月30日六本木Super Deluxe。広重さん自身が事前にTwitterで「渋谷HMV閉店イベントの時の混乱の再現を」と煽っていたそのライヴは文字通り演奏者と観客が入り混じってのカオスだった。メンバーと客の乱闘騒ぎも起きた。私は美川さんの真横という"安全地帯"に身を置きその一部始終をiPhoneで撮影した。YouTubeのアカウントが削除されたためその動画はYouTubeにはないが幸いにもPCにデータが残っており、時々観返しては混沌の美を反芻している。

そんな非常階段がピットインという伝統あるジャズ・クラブでどんなパフォーマンスを繰り広げるのか。ファンじゃなくても気になるところである。この日のピットインは普段のジャズ・ライヴでは見かけない今風のファッションの若者と坂田さんとSABUさんファンの年配客が半々、しかも90%が男性という異様な雰囲気。友人と「今日はコサカイさんはステージダイヴするかなぁ」「ステージが低いからダイヴは無理だけど客席乱入くらいはするかもね」という会話を交わす。自分が被害者になるとはつゆ知らず。このライヴのチケット発売日をしっかりメモっていたのだが当日すっかり忘れていて遅れて予約をしたので最前列は取れず3列目を確保。立ち見席も満員でトータル160人を超える動員だったそうだ。

広重さんが登場し「今日は真面目に演奏します」と宣言。1st Setはメンバーを入れ替えてのトリオ・セッションが4組。まずは広重+美川+SABUトリオ。広重の「おりゃー!」という気合いと共に炸裂するノイズ演奏。SABUさんもパワフルに叩きまくりJAZZ非常階段の"JAZZ"は単に"@ピットイン"という意味だったと理解する。トリオなので各メンバーの音がよく聴き取れる。広重さんも美川さんも単なるノイズではない表情豊かな音を出していることを思い知る。続いてJUNKO+コサカイ+SABUのトリオ。JUNKOさんの金切り声でスタート。コサカイ氏はアコギを使用。彼は自分のバンド宇宙エンジンではvo&g担当である。SABUさんとコサカイ氏のデュオだったら高柳昌行+富樫雅彦風のフリー・インプロに聴こえたかもしれないがそれをぶち壊しノイズ化するJUNKOさんの悲鳴の凄まじさ。座って落ち着いて聴いているのでそんな冷静な分析をしてしまう。3番目は美川+コサカイ+坂田というインキャパシタンツ+サックスのトリオ。以前菊地成孔氏と中原昌也氏の共演を聴いて、エレクトロ・ノイズとサックスの親和性に気付いたが、今回は坂田さんのアルトがノイズの音域に近いのでより破壊的な音響が耳を突き刺す。基本的に機械的な指先の演奏(インキャパのふたりは全身を使っているが)である電子音と肉体性の発露である管楽器という演奏方法の正反対の楽器が同じようなノイズを発しあうところが面白い。1st Setで個人的に一番面白かったのがこのトリオだった。最後は広重+JUNKO+坂田のトリオ。坂田さんはクラリネットを演奏。JUNKOさんの叫びが白石民夫さんのサックスのフリークトーンを思わせる。広重さんはいつものノイズ・ギターだが最初のトリオほど混沌としておらず、組み合わせが変わるとこうも印象が変わるものだ、と感心した。ここで15分の休憩。2nd setの集団演奏への期待が高まる。

照明が暗転しステージに全員が登場。広重氏の気合いの合図で一斉に全力の騒音を奏でる。先ほどのトリオとは異なり全ての音が団子状になって襲いかかる爆音大会。勿論会場が会場なだけにいつもの非常階段に比べれば耳に優しい音量であるが、テンションが非常に高くそれが一瞬ともだれることなく継続する。時にサックスが、時にJUNKOさんのシャウトが、時に電子音が、と立ち上がる音響が変化するのが面白い。それにしても凄いのがSABUさんのドラムだ。69歳という年齢を全く感じさせないパワフルなスネアの連打に客席から歓声が上がる。坂田さんもずっと全力で吹き続け、遂にはマイクを掴んで怒声でシャウト。観客席でも我慢できず立ちあがって激しく身体をくねらす人の姿がちらほら。この演奏を前に大人しく座っているのはある意味拷問かもしれない。ハイテンションな演奏が30分くらい過ぎたところでコサカイ氏が動いた。それまでも何度かエフェクターを並べたテーブルの前から移動しようという素振りを見せていたので「いよいよ来るな~」と身構えていたところだった。ステージ右手から通路に乱入。そしてよりによって私の上にいきなりダイヴ。来た!と思った時には目の前にコサカイ氏の巨体が降ってきた。座ったままでダイヴを受け止めるのは至難の業である。何が何だかわからないところへ興奮した客が便乗して折り重なる。ピットインの3列目がこんな危険地帯だとは思わなかった(w。しかしピットインで演奏者の肉体の下敷きになるという有り得ない体験が出来たことはちょっと誇らしくもある。コサカイ氏はステージへ戻ると自分のエフェクター・テーブルを投げ飛ばし破壊。こりゃ若干音量が小さくお客が座っているだけでいつもの非常階段の演奏と変わらない。40分の演奏が終わるとピットインとは思えない野太い大歓声。メンバーがステージを去って客電が点きBGMが流れても止まないアンコールの拍手は、ピットインの店長が「もう終わりです。アンコールはやりません」と叫ぶまで5分以上続いた。会場を後にするお客さんはみんな満足そうな笑顔に溢れていた。ピットイン史上間違いなく最も過激で最高の混沌だったに違いない。



楽屋に顔を出すと坂田さん、広重さん、JUNKOさんが楽しそうに談笑中。坂田さんに「吹き続けで大丈夫でしたか」と聴いたら、にこにこして「ずっと吹かしてくれるから気持ちいい。こんなバンドは非常階段だけだよ。他の人は大人だから途中で止めちゃうからね」と坂田さん。ということは非常階段も坂田さんもSABUさんもみんなガキってこと?いやはや参りました。

ジャンル超え
全て備えた
ノイズ帝王

この日の演奏はレコーディングされCDでリリースされる予定というから観れなかった人もお楽しみに。本当はDVDを出してほしいところだが。
コメント (8)
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