湯浅湾ミニ・アルバム『砂潮(さごしお)』発売記念春のツアー 陸の飛び魚
評論家の湯浅学氏率いるロック・バンド湯浅湾のレコ発イベント。彼らはHair Stylisticsと同じく爆音映画祭で知られる企画事務所boidに所属していることもあり、何度かライヴを観たことがある。ご存知の方も多いと思うが湯浅氏は幻の名盤解放同盟としてユニークな音源の発掘/紹介をする音楽評論家として知られる。バンド・メンバーは湯浅氏(vo,g)、牧野琢磨氏(g/New Residential Quarters:略称NRQ)、松村正人氏(b/『スタジオ・ボイス』編集長・奄美出身)、山口元輝氏(ds/Shing02バンド)の4人。1997年にデビューし今まで3作のアルバムをリリース。今回は4曲入ミニ・アルバム「砂潮」の発売記念ツアーで、大阪、名古屋、四日市と周りこの日が最終日。ゲストにHair Stylisticsが出演することもあり興味を惹かれる。
開場と同時に入場するとステージで中原氏がセッティング中。シンセのACアダプターを忘れた、と焦っている様子。中原氏はいつもこの調子だ。会場には15脚ほど椅子が並べてあり、ステージ下手の椅子を確保。最初はパラパラだった観客も開演時間が近づくと6割ほどの入りでいい感じになった。男女半々サブカル好きそうな客層。ヘアスタがオープニングだと思っていたら、湯浅湾のメンバーがぞろぞろとステージに登場。「あとで中原君が出てきたりしますから」との湯浅氏のMCで共演するんだな、と理解。湯浅氏はブラック・ミュージックから歌謡曲、コリアン音楽、裸のラリーズまで幅広い音楽に精通しているが、バンドのサウンドは基本的にはっぴぃえんどの流れを汲むフォーキーなメロディに牧野氏の流麗なギターが加わるというスタイル。「歯の生えたケツの穴」「猿に似たおばさん」「豚は悪くない」などの曲名や独特な歌詞の世界は正直言ってあまり理解できないが、好きな人には堪らないのだろう、かなり大きな歓声が上がる。曲間の飾り気の全くない湯浅氏のMCやステージ上でメンバー同士で次の曲なんだっけと確認しあうユルさがなんだかアレだが、曲調や目指す世界は悪くない。特にジェファーソン・エアプレインのヨーマ・コーコネンやクイックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィスのジョン・シポリーナを髣髴させる牧野氏のサイケデリックなギター・プレイにはいつも惚れ惚れしてしまう。50分ほどして中原氏が加わりバンド・サウンドに奇怪な電子音を加える。スプーキー・トゥースとピエール・アンリの共演を思わせる演奏が20分に亘り続いた。
これで第1部が終わりバンドはそこで退場するが中原氏はそのままステージに残りHair Stylisticsとしてのソロ演奏に突入。最近は狭いギャラリーでの演奏だけだったから立派な音響システムで奏でられる大音響に陶酔。新規購入したシンセも大活躍でジャーマン・トランス的なドローンから激しいハーシュ・ノイズへと表情が変わるサウンドが気持ち良かった。約20分の演奏。
休みなく湯浅湾のメンバーが登場し、第2部が始まる。今度も1時間ほどのバンド演奏に続きリボン・シンセを片手に中原氏が参加、共演を繰り広げる。アンコールも含め2時間半ノン・ストップの長尺ライヴだった。演奏後中原氏は「あまり上手くいかなかった」と嘆いていたが、彼の嘆きはいつものこと、なかなか楽しいライヴだった。
ヘアスタと
サイケ・ギターの
果たしあい
湯浅湾は6月までライヴがないそうだ。ヘアスタは4/28六本木Super Deluxeでの「dEnOISE 4」に狂うクルーとの共演で出演する。