NECRONOMIDOL(ネクロノマイドル)
『Aristocrazia』(イタリアのメタル・ウェブマガジン)
2015年9月14日掲載
インタビュー:Vlakorados
Band: Necronomidol
Line Up:
Risaki Kakizaki - Vocals
Sari - Vocals
Hotaru Tsukumo - Vocals
Hina Yotsuyu - Vocals
Karen Kusaka - Vocals
Ricky Wilson - Production
これまでも「アリストクラツツィア」は、いつも取り上げるバンドとは全く異なる存在を紹介してきた。Necronomidol(ネクロノマイドル、以下ネクロ魔)は、ダークでエクストリームな音楽から影響を受けたユニークなサウンドが際立つ日本のアイドルグループである。今回、彼女たちのことを知るためにプロデューサーのリッキー・ウィルソンに話を聞いた。
⇒記事原文
Q:Aristocraziaウェブマガジンへようこそ。
Ricky(以下R): 光栄です。ご連絡いただいてから、インタビューに回答するまで時間がかかりりましたが、お待ちいただきありがとうございました。
Q:最初に読者にあなたのグループとメンバーの紹介をお願いします。ネクロ魔とは何者で、どのように生まれたのですか?
R:2014年頭に計画を立て始めました。以前仕事で何組かのアイドルグループと仕事をしたことがあって、東京の地下アイドル・シーンに興味を持ちました。でも端から見ているだけでは嫌だったので、自分自身のグループを始める決意をしたのです。
まずはウェブサイトでの告知、最初の数曲の作曲、ステージ衣装のアイデア等を煮詰めて、その年の2月にメンバーのキャスティングを始めました。数か月かけて募集者の中からメンバーを選考し、2014年6月にデビュー・ライヴをしました。柿崎李咲(かきざきりさき)、瑳里(さり)、橘涙雨*(あおいるう)、逸見静羅(へんみせいら)の4人のメンバーでスタートしました。6か月間この4人で活動しましたが、2014年末に静羅が学業のために脱退し、九十九ほたる(つくもほたる)が加入しました。2015年1月頃にはだんだん忙しくなり、4月頃に涙雨*がネクロ魔のスケジュールと学業の両立が出来なくなり脱退せざるを得なくなりました。1カ月くらい3人で活動し、5月の終わりに夜露ひな(よつゆひな)と久坂華恋(くさかかれん)が加入して、現在の5人になったのです。
Q:音楽から外見まで、あなたが作るものすべては、明らかに典型的なアイドルユニットではありません。ネクロ魔のコンセプトは何でしょうか?
R:現在の日本の地下アイドル・シーンの最高の要素のひとつは、特定の美意識や音楽ジャンルに従う必要がないということです。私は伝統的なスタイルのアイドル・グループが嫌いではありません。本当にグレートなグループもいます。しかしネクロ魔に関しては、最初から何か異なることをしたかったのです。
ネクロ魔のテーマを一言で表すと「暗黒」です。そこからすべてが生まれました。私が好きな日本のホラーマンガやJホラー映画に多大な影響を受けており、子供の頃にVHSで観て育ったB級ホラー映画の影響もあります。初期のPVを観ればお分かりの通り、元々の衣装はJホラー映画の定番の日本の神社の巫女の正装をベースにしていました。それから大正時代の学生服に変わりました。末広丸尾のマンガや小説・映画・アニメの『帝都物語』からヒントを得たのです。ユニット名はもちろん、H.P.ラヴクラフトの『ネクロノミコン』と「アイドル」を融合した造語で、ラヴクラフトへのオマージュを散りばめています。でも実際には、まだ「クトゥルフ」という言葉は歌詞やグッズには使ってませんけどね(笑)。
Q:音楽のスタイルは、大部分がエクストリーム・メタルとダーク・エレクトロニック・ミュージックの間にあって、とても陰鬱な雰囲気を持っています。どのように作曲するのでしょうか?作曲のプロセスを教えていただけますか。
R:アイドルとバンドの大きな違いは、たいていの場合、アイドルは自分で曲を書かないということです。私たちは幸運なことに、Dan Terminus、Al-Kamar、箱庭の室内楽のハシダカズマ、岩永あずさ、SLF!!など才能ある作曲家と多数コラボすることが出来ました。
まず普通は、作曲者に対して、彼らに相応しい楽曲のテーマかラフアイデアを提示します。たいていは単なる雰囲気や大まかなコンセプトだけ。例えば「アコギを入れたシューゲっぽいポスト・ブラック」とか「アップテンポでダークなレトロシンセ」といった感じです。ヴォーカルのメロディラインを作ってくれる作曲家もいますが、そうじゃなければ自分たちでヴォーカルパートをすべて作ります。その場合、たいていは、柿崎と一緒にいいヴォーカルパートを作り上げます。彼女はいい耳をしていて、メロディが実際に歌いにくい場合には作り直す手伝いもしてくれます(ちなみに歌は全曲口パクではなく生歌です)。
それから私が歌詞の第一稿を書き、それを瑳里に託します。彼女は優れた言語センスを持っており、私の拙い日本語を直してくれることもあります。そしてメンバー全員で何度か通して歌ってみて、OKならすぐに振付に取りかかります。
Q:これまでに発表された何曲かを聴けば、ネクロ魔の多彩さは明らかです。完璧なブラックメタルあり、ダークウェーヴあり、両方の要素をブレンドした曲もあり、ヘヴィメタルのような別ジャンルの要素もあります。ネクロ魔の音楽をどう言い表せばいいでしょうか?
R:アイドルが素晴らしいのは、グループらしさを決めるのは、音楽ジャンルではなく、常にアイドルとしての設定(テーマ)であることです。だから楽曲が設定にフィットする限り、どんなに幅広いスタイルやジャンルでも可能なのです。グループをスタートしたとき、何よりもやりたかったのは、日本の子守歌のブラックメタル・ヴァージョンです。それはこれからもやりたいです。しかし同時に、寒々とした重苦しいポップもやりたかったので、ダークウェーヴも自然にフィットしました。NWOBHMとD-Beatの大ファンなので、チャンスがあればその手の曲もやりたいし、ウィッチハウスにインスパイアされた曲もやりたいですね。
密着性のあるライヴセット、幅広いジャンルと影響を持つアルバムとシングルをひとつにまとめることが出来ることがアイドルの最も強力な要素なので、自分がカッコよくて未探査だと私自身が思うジャンルを無数に取り入れたいと思いました。正直に言えば、私はメタルコアやクロスオーヴァー・ブロステップには耐えられません。だから、他の多くのアイドル・グループがその方向に向かうのに対して、意識的にそれを避ける決断をしたのです。
Q:この種の音楽はたいていヴォーカルが耳障りで歪んでいるものですが、ネクロ魔メンバーの歌い方は、真逆の方向から音楽をかき乱します。アイドルとエクストリーム・ミュージックを一緒にしようというアイデアはどこから得たのですか?
R:一義的にはメンバー自身の素質と長所に起因することは間違いありません。日本には素晴らしい女性メインのハードコアバンドがたくさんいますが、ほとんどが不快なヴォーカルを売り物にしています。しかし、最初に集めたメンバーの内の誰もそんな歌い方の経験はなく、それを強制して安っぽいコピーにするよりも、メンバーの長所に合わせた曲つくりをすることにしました。一旦全体的なスタイルを確立したら、メンバー自身でその方向へ成長して、ネクロ魔の個性の一部になりました。不快で軋むバックミュージックとメンバーのクリアなヴォーカルを一緒にするやり方が気に入っています。サウンド全体にいいバランスと深みを生むことに成功していると思います。
Q:一般的に<アイドルとは「カワイイ」ものの象徴>だと信じられています。もちろんネクロ魔にもキュートな要素はありますが、音楽ジャンルがイメージに影響するのは確かです。アイドル界でのネクロ魔自身をどう考えますか?シーンの中での立場は?
R:現在「ラウド・アイドル」と呼ばれるスタイルがアイドル・シーンで育ってきています。基本的に、よりメタル寄りの楽曲とヴォーカルにフォーカスしたグループです。こういったグループと共演することは多いのですが、正直言って、ネクロ魔がそのカテゴリーにフィットするとは思いません。メタルの楽曲があり、伝統的なアイドルのイメージとはかけ離れてはいますが、我が道を行きたいと思っています。
いわばダークホースに近いかもしれません。現在のシーンや型に完全にはフィットしませんが、様々な異なるイベントで、種類の異なるバンドやアイドルと共演することが出来ます。パンク、ハードコア、メタル、EDM、前衛劇団等と共演してきました。ネクロ魔が、毎週同じグループと同じタイプのショーをするグループだ言われるようになったらお終いです。常に進入できる新たなシーンやショーに目配りして行きたいのです。
Q:<アイドルとはJ-ポップの歌手とダンサーに過ぎない>という別の一般論があります。ネクロ魔は、音楽やルックスだけでなく、インディペンデントでアンダーグラウンドなアーティストに共通する「DIY」の態度によって、そのルールを無視しています。あなた方のようなグループが、こういった音楽と態度を持ったままで、少なくとも日本でメインストリームになり得ると信じていますか?言い方を変えれば、いつかはメインストリームになるつもりですか?
R:私たちはすべてに於いてDIYの美学を絶対に保ち続けます。私はパンク・ミュージックで育ったので、未だにCDを沢山売ったり大きな会場で演奏しようとすることに違和感を感じます。正直なところ、私がネクロ魔を始めたときには、売れることなど全く気にかけませんでした。最初は面白いグループと共演したり、クールなアーティストと一緒に仕事をして、新しい音楽を創ることができればいい、と考えていました。
しかし、やっていくうちにアイドルは一箇所に留まっていてはダメだ、ということを学びました。常に前へ進まなければいけません。だから、私たちがメインストリームにはなれない(というよりなりたくないのが本音です)と思う一方で、もっと面白いプロジェクトをやって、もっと多くのクリエイターと仕事が出来るようにする為に、前へ進んでいきたいのです。アルバム・ジャケットやグッズで仕事をしたいアーティストは沢山いますし、新曲などで仕事をしたい作曲家や作詞家も沢山いますし、共演したいバンドやアイドルも沢山います。メインストリームにアピールする為にネクロ魔の要素を少しでも薄めるつもりは全くありませんが、一方では、ネクロ魔を定義するものをもっと蒸留して、将来もっと強力になるものにしたいのです。
Q:最近一周年記念ライヴを開催しましたね(2015年6月新宿ロフト)。コンサートはネクロ魔の重要な一面だと思います。読者の多くは日本でネクロ魔のライヴを観る幸運は殆ど望めないので、コンサートをどう企画しどうやっているのか教えて下さい。
R:日本のアイドルは沢山ライヴをします。もの凄くたくさん。一周年記念ライヴに先駆けて暫くの間は月間20本のライヴをしました(その倍のショーをするグループもいます!)。一周年の後、新曲と新振付け等の為に、ライヴの数を減らす決意をしました。しかしそれでも7月は13本ものライヴをやる結果になったのです。多くのライヴは、イベントプロデューサーか他のアイドルグループやバンドのプロデューサーが企画したものです。私たちが一周年記念ライヴをした新宿ロフトは、親切なことにCocobatやVampilliaといった素晴らしいバンドの出演依頼をしてくれました。また、普段はハードコアやスラッシュコアのライヴが催される新大久保アースダムで毎月自主企画ライヴを開催しています。どん百姓やSAIGAN TERRORといった普通は決してアイドルと同じステージで観ることがないバンドと共演することが出来るのが嬉しいです。
Q:いくつかの曲で、ブラックメタル/シューゲイズのプロジェクトで有名なAl-Kamarと仕事をしています。将来ネクロ魔は他のアーティストと仕事をしていくつもりですか?
R:もちろんです。ちょうど今、素晴らしいDJであり「レディ・スペード」のトラック制作者でもあるSLFによる新曲「Sarnath」が出来たばかりですし、謎めいたHyakunengyoによる新曲ももうすぐ出来る予定なので興奮しています。他のアーティストともコラボ予定ですが、今はまだ詳細はお話しできません。
Q:他のアイドルグループに友人はいますか?他のアイドルとの関係はどうですか?
R:はい、もちろん。定期的に共演して、とてもいい関係のアイドルはたくさんいます。個人的には細胞彼女とパラレル・ジャパンと共演するのが好きです。楽曲は凄いしパフォーマンスは傑出してして、スタッフを含め人間的にも最高です。音楽ジャンルやスタイルはかなり異なりますが、ライムベリーともいい友達です。ネクロ魔のメンバーはオフの日には他のグループのメンバーと遊んだり、仲のいいグループのメンバーがお互いの生誕イベント(アイドル界では重要な行事)に出演したりしています。
Q:支持者(ファン)との関係はどうですか?自分たちのオーディエンスをどう思いますか?
R:ファンの方々はとにかく素晴らしいです。ちょっとくらい風変わりで常識はずれのライヴを企画しても、不平を言うことはなく、新しいことを見たり経験したりすることを喜んでくれるのが素晴らしいです。本当に正直に申し上げますが、グループの美感や音楽的な方向性を決めるときには、直感に従います。何が人気か否かを気にすることはありません。それより最も面白そうで、独自性のある方向へ行くのです。それを支持してくれるファンには感謝しかありません。
Q:アイドル・シーン全体を見てみましょう。常にシーンは変化していて、最近は「歌って踊るキュートな少女」だけではない新しいアイドル像が確立されてきました。BiSやBABYMETALといった有名なグループがこの点で重要な役割を果たしましたが、面白いアイデアを持つアンダーグラウンドなアイドルは他にも沢山います。これはアイドルの世界ではポジティヴなことでしょうか?それともネガティヴなことでしょうか?あなたはアイドル界の何を変えたいのですか?そして実際にネクロ魔で何を変えたと思いますか?
R:アイドルの最も有利な面のひとつは、特定のジャンルに縛られる必要がないことです。グループの全体的な設定が強力である限り、基本的にやりたいことは何でも出来るのです。それがBiSの偉大さのひとつです。パンクからデジタルハードコアからポップからメタルに近いことまでやりましたが、ユニット全体の構造の強力さを保ち続けました。
他のどのジャンルと同じように、アイデアを固定して同じ古風な水準に頼って売り出すことはアイドル界でも珍しくありません。グループをより大きくより人気を高めようとすることはとても重要です。が、アイドルが現状維持に走ることはカッコいいとは看做されません。だから音楽的・審美的に必ずしも面白みや独自性がなくても、人気を得るために短絡的に便乗するアイドルもいるのです。ネクロ魔がスタートして以来、現在までに大きく変化させることは出来ていませんが、アイドルの枠組みをもっと開放して、将来的に奇妙でダークなアイドルユニットが登場する道を切り開きたいと思っています。
Q:BABYNETALがメタルファンの間で人気を博したときには、彼らの音楽を楽む人たちがいる一方で、ジョークに過ぎないと考えた人たちもいます。ネクロ魔はそれとは異なりますね。メタルのファンにはネクロ魔はどう捉えられると思いますか?
R:ブラックメタルをやるときはブラックメタルファンがカッコいいと思い、プログレメタルやデスメタルやスラッシュメタル等の曲をやれば、それらのファンは気に入るでしょう。私はメタルは好きですが、メタルとは、本当にいいサウンドが出来たときにこそ上手く機能するジャンルだと思います。つまり間違い易く、バカげたものになってしまう危険があるジャンルなのです。だからメタルソングを制作する時には、確実に正しいものにする為に、スタジオで演奏に時間をかけて、歌詞に時間をかけて、あらゆることすべてに時間をかけます。例えばニュー・シングルの『Lamina Maledictum』の最初のテイクは、完全に廃棄して再録音しました。ヴォーカルを聴いてみて、十分なパワーがないと気づいたからです。
Q:主にメタルとオルタナティヴ・ミュージックのWEBZINEとしては、あなたがどんなバンドに影響を受けてきたのかを知りたいです。あなたの好きなバンドは何ですか?そしてネクロ魔のサウンドに影響を与えたのは誰ですか?
R:メタルに限って言えば、最も良く聴くのは昔のMotörheadとManowar、Emperor、Bal-Sagoth、Gamma Ray、Disfear、Kvelertak、Darkspaceなど多様です。最近はSisters Of MercyとClan Of Xymoxを良く聴いています。私たちがネクロ魔でやっていること(ダーク、ダンサブル、80'sシンセ、など)にとても近いから。Balzacは10代の頃から好きなので、間違いなく何らかの影響があると思います。同時にThe Damnedや45 Graveといったゴシックパンクのクロスオーバーも好きですね。
Q:これからの予定は?新作リリース、ライヴショーなど何でも結構です。
R:まず4thシングル『EXITIUM』を9月30日にリリースし、6月のセカンドワンマン公演のライヴDVDを11月にリリースしたいと思います。その後2度目の大きなワンマン公演を12月14日に渋谷WWWで開催します。それが本年のゴールです。そうそう、来週初の海外公演で台湾に行くんですよ!
Q:メンバーはネクロ魔の一員であることをどう感じているのでしょうか?
R:彼女たちが加入する時の基本的な合意事項は、プレイするのが好き、ということでした。ライヴが最も楽しいのです。また、どん百姓、ストロベリー・ソング・オーケストラ、Foxpill Cult、惑星アブノーマルなど、アイドルユニットが滅多に共演する機会のないバンドと一緒にプレイすることも気に入っています。
Q:アイドルとしてのメンバーの夢は何でしょうか?このグループであなたは何を成し遂げたいのですか?
R:もうひとつの一般的な合意事項は、ワールドツアー、またはもっと海外でライヴをしたい、ということです。もうすぐ台湾公演ですが、西洋(アメリカやヨーロッパ)でもライヴをしたいと考えています。
Q:以上でインタビューは終わりです。どうもありがとうございました。最後に読者へメッセージを下さい。
R:ネクロノマイドルは、2015年末に向けて沢山のことが待っていますが、2016年こそ本当に面白いことが始まります。近い将来、皆さんと直接お会いできるチャンスがあるよう祈っています。
アイドルを
作る気持ちと
やる気持ち
一つになれば
美しい
NECRONOMIDOL 12/07 下北沢 Shelter
1. LAMINA MALEDICTUM
2. puella tenebrarum
3. SARNATH
4. SKULLS IN THE STARS
5. 童歌