ニッカウィスキーの創業者、竹鶴政孝は本格的なウィスキー作りを学ぶため、1918年に単身スコットランドに渡りました。今ではほとんど行われていませんが、かつてはウィスキー作りが盛んだったキャンベルタウンで修行したかと記憶しています。上の写真は竹鶴が学んだことを克明にメモした、いわゆる「竹鶴メモ」("Whisky Magazine Live! 2010"で展示されていたもの)です。
さて、竹鶴の本物に対するこだわりを如実に示すのが、この連続式蒸留棟と言えるでしょう。ウィスキーには、これまで述べた大麦だけで作るモルトウィスキーと、大麦以外の穀物(主にとうもろこし)で作ったグレーンウィスキーをブレンドして作るブレンディッドウィスキーがありますが、このグレーンウィスキーは連続式蒸留器という先ほどの単式蒸留器よりもよりアルコール純度の高い原酒を作る蒸留器で作ります。このため、一般的に単式蒸留のモルトウィスキーに比べ、個性に乏しいといわれていますが、グレーンウィスキーはブレンディッドウィスキーの滑らかさや飲みやすさ、ロックで割ったときのバランスの良さなどに重要な役割を果たしていると思います。
宮城峡蒸留所では、この連続式蒸留器に、世界でも数少ないカフェ式蒸留器を使用しているのが大きな特徴です。カフェ式は扱いが難しく、生産効率も劣るといわれていますが、一方で香気成分を適度に含んだ、個性的なウィスキーを作ることができるそうです。これも理想的なウィスキーにこだわった竹鶴の職人気質でしょう。なお、上の写真はカフェ式連続蒸留器の10分の一模型です。
貯蔵庫。ここでウィスキー原酒は樽の中で何年間も熟成されます。写真の手前に、大きさの違う樽がいくつか置いてありますが、樽の大きさ、使用している木材の種類、ウィスキーをつめる前にその樽を何に使っていたか、など様々な条件がウィスキーの個性に大きな影響を与えます。また、貯蔵庫の気温や湿度、貯蔵の位置、下か上か、壁に近いか遠いかなどもウィスキーに影響します。
樽の内側は、チャーといって真っ黒に焦がしてあります。これによりウィスキーが樽に触れる表面積が大きくなり、樽材に含まれるエキスが抽出されやすくなります。余談になりますが、今回仙台で拝聴したバイオエタノールの講演によれば、樹木を樹木たらしめているリグニンというフェノール化合物を分解するとバニリンというバニラ成分が抽出されるそうです。ウィスキーのバニラ香もこれと関係があるのかもしれません。
蒸留段階では透明だったウィスキー原酒は、樽の中で樽に含まれる様々な成分が時間をかけて溶け出すことにより、次第にわれわれのイメージするウィスキー色に変化していきます。上の写真は左から、樽詰めしたばかりの原酒、5年熟成、10年熟成の変化の様子です。3年以上の熟成を経て、晴れて正式にウィスキーとなります。
さて、いよいよお楽しみの試飲です。左からシングルモルト宮城峡10年、ブレンディッドの鶴17年、それからアップルワインです。順番としては、先に鶴17年を試すべきでした。シングルモルトは個性が強いため、宮城峡10年を先にしてしまうと鶴17年のよさが損なわれてしまうからです。これは失敗したと思いました。それでも、宮城峡10年はほのかなピート香とモルト由来の甘みのバランスが良く、なめらかで若さを感じさせない良いウィスキーでした。個人的にも好きなタイプのウィスキーです。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
よろしければクリックおねがいします!
↓