窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

クリスマスキャロル

2010年12月23日 | レビュー(本・映画等)


「私は、過去、現在、未来を生きる」

  もうすぐクリスマスですね。最近、子供と一緒にディズニーのDVD「クリスマスキャロル」を繰り返し観ています。言うまでもなく、チャールズ・ディケンズの同名小説のアニメです。

  1843年のロンドン。クリスマスイブの夜、無慈悲で守銭奴の老商人、エベネーザ・スクルージのもとに、かつての共同経営者で7年前に死んだ、ジェイコブ・マーレイの幽霊が現れます。マーレイの幽霊は、強欲な人間が死んだ後いかに悲惨な運命を辿るかを、自分の姿を例に説き、スクルージが自分と同じ運命になるのを避けられるよう、過去・現在・未来の三人の精霊を彼の元に出現させることを約束します。

  まず初めに、過去の精霊が現れます。過去の精霊はスクルージを孤独な少年時代、そして貧乏だがまだ純粋だった青年時代に連れ戻し、スクルージに過去の自分の姿を思い出させます。そして、貧しさから抜け出そうとするあまり守銭奴となった彼のもとから、愛する人が去っていったという、恐らくスクルージがその後長く眼を背けていたであろう事実を直視するよう迫ります。

  次に現れた現在の精霊は、スクルージをロンドンの様々な場所に連れて行きます。中でも、貧しいながらも愛情で結ばれた事務員ボブ・クラチットの家庭を見せます。そこで、スクルージは自分が薄給で雇っているクラチットの息子、足が不自由でも優しさに溢れたティムの命が長くはないことを知ります。

  最後に、未来の精霊が現れます。未来でスクルージは、皆から忌み嫌われたある男が死んだという話を聞きます。彼の死を悼む者は誰もおらず、シーツに包まれ、寂しく横たわる死体が映ります。剰え、スクルージはその男の衣服や金目の物を盗んで、古物商に売りに来た家政婦の女とその商人との、耳を覆いたくなるような浅ましい会話を目の当たりにします。

  また、未来ではあのクラチットの息子ティムが世を去ったことを知ります。最後に、墓場において自分の墓標を見たスクルージは、周りから見捨てられて寂しく死んだあの男が、自分であったことを知るのです。

  ここに及んで、目を覚ましたスクルージは、まだ自分には未来の運命を変えられる可能性があることを悟ります。彼は改心し、やがて「クリスマスの祝い方を誰よりも知っている人」とまで呼ばれる善人となりました。

  冒頭の、「私は、過去、現在、未来を生きる」というのは小説の中で改心したスクルージが言った、非常に印象的な台詞です。マーレイの幽霊はなぜわざわざ過去・現在・未来の精霊を出現させたのでしょうか。スクルージを改心させるためだけであれば、未来の精霊だけを登場させ、陰惨な未来の姿を見せれば事足りそうなものです。しかし、未来を見せる前にまず過去を、次に現在を直視させたのです。これはすなわち、過去も未来も全ては現在の中にある、逆に言えば現在は過去や未来からの影響を受けて存在していると言うことではないでしょうか。過去から眼を背けたままで現在を変えることはできず、現在から眼を背けていて未来を変えることはできません。心の底から行いを改めるには、逃避してきた過去も、眼を向けようとしない現在も受入れ、なおかつ未来をもすでに起こっていることとして受け止める必要があるということではないかと思います。

  クリスマスの夜に、ちょっと考えさせられる一本です。

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  繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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