「須田国太郎展」 東京国立近代美術館 1/21

東京国立近代美術館(千代田区北の丸公園3-1)
「須田国太郎展」
1/12-3/5


竹橋の近代美術館で開催中の「須田国太郎展」を拝見してきました。「日本近代洋画家を代表する」(美術館より。)という須田(1891-1961)の回顧展は、同美術館では何と42年ぶりです。主に油彩画を中心とした、約150点の作品がズラリと並んでいます。非常に見応えのある展覧会です。

須田が画壇へデビューしたのは遅く、初めて個展を開いたのも41歳(1932年)になってからのことです。そしてその「初個展」を再現した展示(1、第一回個展)が、今回の展覧会の導入部に当たります。日本で美術を学んだ後に渡欧し、プラド美術館にてヴェネツィア派の絵画を精力的に模写したという彼の制作は、「エル・グレコ『復活』」(1921)などでも概観出来ますが、この時期の作品で惹かれたのは、もっと素朴に描かれた「自画像」(1929)でした。白みがかったどす黒いワイン色ともピンクを帯びた黒とも言える、まさに「須田の色」を随所に散りばめて、丸めがねを掛けた須田の姿が丁寧に描かれています。絵具の豊かな質感をも感じることの出来る、とても重みのある作品です。

戦前期の作品(2、戦前)ではまず、否応無しに「水浴」(1935)が目に飛び込んできました。キャプションによれば「セザンヌを意識した。」作品とのことですが、大勢の女性の裸体は、まるでアングルの絵画を思わせるように魅惑的です。また興味深いのは、画面へ目を近づけた時に初めて感じられた表面の質感でした。どこか青木繁をもイメージさせる、ややザラッとした硬質なタッチです。まるで女性が石像のようにも見えてきます。水辺にくすんだピンク色からは、光とも水の揺らめきとも付かない奇妙な気配を感じることが出来ました。

1930年代から1940年代にかけてが、須田の最も優れた、また力感の漲った黄金期です。この時期の作品には、静物画から風景画までの多種多様な画題に、万遍なく「須田の色」が配されています。盆地を鳥瞰的に捉えた「夏の朝」(1933)や「夏の午後」(1933)は、異常なほど狭い空が窮屈な印象を与えていますが、色の厚みにて面を構成する、どこか幾何学的な画風(ここでもセザンヌのイメージを感じます。)が魅力的です。またワイン色と白とを、黒にて織り交ぜた「野バラ」(1934)の艶やかな美しさや、獰猛な豹が対となった描かれた「黄豹」(1944)と「黒豹」(1937)にも惹かれました。その大胆で危うさすら感じさせる構図感と、独特な「須田の色」の組み合わせには目を奪われます。見れば見るほどに魅力を増す作品とはまさにこれらのことかもしれません。

戦後に入ると(3、戦後)「須田の色」が幾分変質してきました。黒はさらに黒く、またピンクはより鮮やかにと言うように、全体的にそれまでよりももっとハッキリした、メリハリのある表現が生み出されていきます。そしてその中でも一際目立つのは、やはり「須田の色」をたたえた「脱衣」(1948)のような、鬼気迫る表情のある、色の奥深さをぶつけてくる作品でした。何故これほど黒みを帯びているのか。決してペシミズム的ではないものの、おおよそ脱衣という行為には似つかないような暗鬱さを感じることが出来ます。まるでラ・トゥールにおける闇のような、思わずそこへと吸い込まれそうな黒です。

会場は閑散としていましたが、作品の一点一点はどれも非常に魅力的です。来月5日までの開催されています。おすすめしたいです。
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