NHK交響楽団 「モーツァルト:ハ短調ミサ曲」他 2/4

NHK交響楽団 第1560回定期公演Cプログラム2日目

モーツァルト:交響曲第34番
モーツァルト:ハ短調ミサ曲(大ミサ曲)

指揮 ヘルベルト・ブロムシュテット
ソプラノ1 幸田浩子
ソプラノ2 半田美和子
テノール 福井敬
バリトン 河野克典
合唱 国立音楽大学
演奏 NHK交響楽団

2006/2/4 15:00 NHKホール3階

ザルツブルク時代の最後の交響曲と、ウィーン時代の幕開けを告げたハ短調ミサ曲の組み合わせ。共に不思議とあまり取り上げられない名曲ですが、モーツァルトファンにとってはたまらないプログラムです。指揮はブロムシュテットでした。

交響曲第34番では、この日コンサートマスターを務めたペーター・ミリング(客員)と、まるで別人のように生き生きと演奏を続けたヴァイオリン群の存在感が際立ちます。挙手によるブロムシュテットのリズミカルな指揮によって生み出された、アクセントの明快で、小気味良くまとまった精緻な弦楽合奏。いつになく腰が低く据わっていながらも、愉悦感を決して損なわせることなく、伸びやかに音楽を進めます。こうなってくるとモーツァルトの音楽は、俄然生気を帯びてきます。見事な求心力です。

平板な演奏では、それこそ「癒し効果」のように睡魔に襲われるアンダンテ楽章も、実にニュアンスに富んだ演奏でした。また、オーケストラから浮き上がってくるようにやや強めだった木管群と、それに反して控えめだった金管やティンパニとの呼吸感も抜群です。秒代わりで表情が変化していくこの曲を、オーソドックスな演奏法にてしっかりと味わうことが出来る。これまでに在京オーケストラの演奏でいくつかモーツァルトの交響曲を聴いてきましたが、少なくともその中では最上と思わえるほどでした。遊び心と茶目っ気のあるフレーズを聴いていたかと思うと、時に一音にて天上的(?)な美しさへと変化させる。このようなどこか浮気心もあるモーツァルトの音楽を、奇を衒わない実直な演奏で表現していきます。客席の反応は今ひとつでしたが、私としては後半の大ミサよりも、この第34番に軍配を挙げたいと思います。これは名演です。

メインの大ミサでもオーケストラは好調でした。レンジは広く、ミサ曲と言うよりもオペラのように華々しいこの曲を、堅牢な構成感を失うことなく、それでいながら時にダイナミックに演奏して行きます。また、ブロムシュテットは声楽陣への配慮も忘れません。全体的に控えめに、声へ合わせるかのようにオーケストラを操ります。キリエとグローリアの対比。サンクトゥスの力強いフーガ。どれも見事でした。

大ミサで残念だったのは、声楽陣、特にソプラノの二名です。もちろんこのホールで歌うということ自体が、ソリストへ一定のハンディキャップになるのかもしれませんが、それにしても音程が不安定で、やや危なっかしい個所が目立ちます。(どことなく声質に違和感もありました。)また、まさにコンスタンツェのために書かれた、この曲の花形スターでもあるソプラノ1の幸田浩子による独唱は、殆ど華が感じられません。テノールの福井とバリトンの河野は比較的手堅かった上、国立音大の学生さんによる合唱も健闘していただけあって、少し粗が目立ちました。

モーツァルトをこのホールにて聴くことは出来るだけ避けたいのですが、それでも前半の第34番は優れた演奏で楽しめました。今後もブロムシュテットとN響のコンビが長く続くことを願いたいです。
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