「ニューヨーク・バーク・コレクション展」 東京都美術館 2/5

東京都美術館(台東区上野公園8-35)
「ニューヨーク・バーク・コレクション展 -日本の美 三千年の輝き- 」
1/24-3/5

「世界有数の日本美術収集家」(パンフレットより。)というメアリー・バーク氏の、膨大な日本美術コレクションにて構成された展覧会です。縄文土器から琳派・若冲まで、個人コレクションとは到底思えないほどに名品が揃います。見応え十分です。

まずは最も楽しみにしていた伊藤若冲の二点です。(展示順では一番最後に当たります。)二羽の鶴が合体して描かれた「双鶴図」(1795年)のユーモラスでかつ幽玄な味わいも良いのですが、ここではやはりあまりにも美しい「月下白梅図」(1755年)が一押しです。この作品を見てまず気になったのは、満月が大きく描かれているにも関わらず、思いがけないほどに暗い画面全体の雰囲気です。蛍光灯などもないこの時代の月夜の様子をストレートに表現したのか、それとも、白梅の淡い白色を、まるで蛍の灯火のように照らし出させて美しく表現するためなのか、ともかくも想像以上の暗がりの中にて梅が描かれています。そしてその暗がりにいっぱい散りばめられた、まるで牡丹雪のような白梅の数々。よく見ると、花は咲いているものよりもまだ蕾みの方が多く、その膨らみによる白さが際立っていることが分かります。縦横無尽にクネクネと横たわる木の枝に、絵具の重みすら感じさせる瑞々しい白梅。黄色いおしべが、まるで金粉を吹き付けたかのようにキラキラと輝く様子も魅力的です。この一点に出会えただけでも、展覧会に来た価値が十分にあったと言えるほどです。

展示作品は全部で約120点ほどに及びます。多様なジャンルを万遍なく取り揃えたバークのコレクションは、もちろんどれも魅力的な品ばかりと言えるわけですが、中でも仏像や仏画、さらには桃山と江戸期の屏風画には、目を見張らされるほどの質の高さを感じます。縄文と弥生の土器(『縄文土器』、『弥生土器』)が一点づつ並べられ、造形そのものや美意識(用途の差異によるものも大きいのかと思いますが。)の違いに驚き、また白鳳から鎌倉期にかけての仏像(特に『不動明王坐像』の恐ろしく見開いた目!)の迫力に圧倒され、さらには優雅な桃山期の屏風画(『柳橋水車図屏風』の見事さ!橋が迫出しています。)にうっとりさせられる。時空を超えた日本美術の旅が、今ここで一人のコレクションによって体現されています。この上なく贅沢な話です。

初めに取り上げた若冲と並んで興味深かった作品は、酒井抱一の「桜花図屏風」(1805年頃)でした。やや「葉桜」気味でもある立派な桜の木が、不思議なことに花の部分よりも幹をクローズアップするかのような構図で描かれています。特に右側の太い幹における、絵具が金地に溶け込んだ、まるで霞からぼんやりと浮かび上がっているような気配。これは絶品です。もちろん、やや重々しく描かれた桜の花も味わい深いのですが、私は花よりもこの幹の方に強く惹かれます。金箔にスッと滲みゆく顔料の美しさは息を飲むほどです。

会場にて最も人だかりが出来ていたのは、パンフレットの表紙にもなっている曾我蕭白の「石橋図」(1779年)でした。我先にと頂上を目指す逞しい獅子たちと、まるで地獄の底から噴き上がる蒸気のような雲のうねり、さらにはたった今地殻変動によって隆起したばかりのような荒々しい岩壁。その全てが、何ら迷いを感じさせない筆にて、サラッと、しかし躍動的に描かれています。また、二匹の獅子が岩山から落下している様子など、サービス精神をも感じさせるアニメーション的な細かい芸も必見です。これまで曾我蕭白の作品をあまり積極的に見て来なかったのですが、今回の展覧会にて一気にその世界に引き込まれました。

「春日宮曼陀羅」や「大麦図屏風」、さらには狩野探幽の「笛吹地蔵図」(17世紀)から酒井鶯蒲の「六玉川絵巻」(1893年頃)など、まだまだ他にも惹かれた作品はたくさんあるのですが、それを挙げればきりがなくなるほどに、どっぷりと日本美術の魅力に浸ることの出来る展覧会です。私が出向いた日は幸いにもあまり混雑していませんでしたが、早めのご観覧をおすすめします。来月5日までの開催です。

*この日開催された、展覧会監修者である辻惟雄氏の講演会「バーク・コレクションの魅力」の記事はこちらへ。
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