「前川國男建築展」 東京ステーションギャラリー 2/25

東京ステーションギャラリー(千代田区丸の内1-9-1)
「モダニズムの先駆者 生誕100年 前川國男建築展」
2005/12/23-2006/3/5

長期休館前の東京ステーションギャラリーにて開催されている、建築家前川國男(1905-86)の回顧展です。図面約150点、模型約30点を含んだ、計約250点の資料にて前川建築の全貌に迫ります。質量共に充実した展覧会です。

前川國男の名前を聞いてまず頭に浮かぶのは、上野の森に並んでいる東京文化会館(1961)と東京都美術館(1975)、それに国立西洋美術館新館(1979)の三作品ですが、この中で特に印象深いのは東京文化会館です。建物からグイッと迫出して、空へと向かう大きなコンクリートの庇。立ち並ぶ太い柱が屋根を支えながら建物の外観を作り、壁は大きなガラスとして中と外をつなげている。最近改修したとは言え、さすがに年代を感じさせる部分もありますが、ル・コルビュジェの西洋美術館本館と対峙するようなその威容。上にアップしたパンフレットのようにして下から屋根を見上げると、まるで大きな鳥が翼を広げて羽ばたこうとしている姿のようにも見えてきます。庇は前川建築の特徴の一つとしても挙げられていますが、この力強さと逞しさは見事です。一見しただけで記憶に残る個性的な作品です。

懐かしい思い出のある京都会館(1960)も前川の作品でした。幼かった頃何度となく足を運んだ場所ですが、今改めて見ると、特に疎水側から眺めた時に感じられる和風的な外観が、周囲の緑と美しく調和していることが分かります。まるで禅寺、それこそ南禅寺の山門をくぐるかのようにして敷地へと入って行く。ちょうど中庭部分を囲むかのようにして建物が配されているので、一度「門」を抜けても再び空が待っています。東京文化会館とは一年違いの建物ですが、こちらは不思議とあまり古さを感じさせません。平安神宮(1894)や京都市美術館(1933)を兄分とすれば、共に岡崎の風格を象る弟分のような存在です。

ステーションギャラリーから最も近くにある前川建築は、会場の窓からも眺めることの出来る東京海上ビルディング(1974)です。建設当時の「美観論争」によって設計案が変更されたビルですが、(高さ127メートルから約100メートルへ。)今となってはその論争が一体何だったのかと思うほどに周囲が高層化されていて、もはや高さとしての存在感はありません。しかし、東京駅舎と対になっているような打ち込みタイルによるワイン色の外観と、ビル全体を覆った太いラインによる格子模様が大変印象に残ります。外観においては、依然として色あせることのない作品です。

ここに挙げた大きな作品以外にも、小さなバラックビルや量産型の建築が多数紹介されていました。私などどうしても大きな建物ばかりに注目してしまいがちですが、そのような小さな建物にも決して見逃せない味わいがあります。コストや耐震性なども意識した実直な作品、例えば新宿の旧紀伊国屋や自邸などは魅力的です。特に自邸は是非一度拝見してみたいとも思いました。(小金井市の「江戸東京たてもの園」に移築されているようです。)

展示スペースの関係でやむを得ないのでしょうが、出来れば図面などがもう少し低い位置にあれば良かったと思いました。今の姿では最後となるステーションギャラリーの温もりを味わいながら、前川建築をたっぷりと楽しめる展覧会。来月5日までの開催です。おすすめします。
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