「国宝 雪松図と能面」 三井記念美術館

三井記念美術館中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階)
「寿ぎと幽玄の美 国宝 雪松図と能面」
2008/12/10-2009/1/24



お馴染み「雪松図」と、先だって重文指定を受けた館蔵の能面などを概観します。三井記念美術館で開催中の「国宝 雪松図と能面」を見てきました。



三井の戦略に思いっきりのせられていますが、やはり私にとってのお正月は応挙の「雪松図」から始まります。同作品については以前も触れたことがありましたが、簡略化された最低限の墨線にて遠近感や立体感の巧みに表された松は、美しい金粉の効果もあってか、新年を祝うのに相応しい姿であることは言うまでもないでしょう。また今年改めて見ることで印象深かったのは、左右に異なった構図上の空間表現です。上部に幹も抜け、全体としても手前側に迫り出すかのように描かれた右隻に対し、左隻はやや遠方から捉えることで、松の後方へ広がる空間の無限な広がりを演出しています。あたかも舞台の前後で相互に大見得をきる役者たちの姿のようにも見えました。

 

本来の鑑賞の方法ではないかもしれませんが、一種のポートレートとして捉えれば能面は俄然面白くなってきます。「雪松図」より後半、ずらりと揃うのは翁、尉、鬼神、男、女の五種に大別された「旧金剛宗家伝来能面」全54面です。中でも興味深いのは、すらりとした卵形の顔面の中に喜怒哀楽、それぞれに異なった情感をたたえる女面でした。口を僅かにあけ、また目を細めながら、前を静かに見据える様子は、例えば鬼神における誇張された表現にはない、言わばミニマルな美感を纏った人間の多様な感情を確かに見ることができます。昔語りをして恐縮ですが、かつて父の実家に、曾祖母が嗜んでいた能の女面が一つだけ飾られていました。まだ幼かった私はそれがどうしても怖く、家に連れて行かれてもその能面の前だけはなるべく顔を背けて通っていたことを良く覚えています。能面は見る者の心持ちを見透かす神秘的な力があるのかもしれません。逃げようとした子供の頃の私はそういう意味でとても正直でした。

その他、同館ご自慢の長次郎の黒楽「俊寛」をはじめとする茶道具、または応挙、呉春などの屏風も紹介されています。

今月24日までの開催です。
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