都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「特別展 写楽」 東京国立博物館
東京国立博物館
「特別展 写楽」
5/1-6/12
おそらくこのスケールでの写楽展はもう望めないかもしれません。東京国立博物館で開催中の「特別展 写楽」へ行ってきました。
実は私自身、これまで写楽に今ひとつ惹かれない部分がありましたが、この展覧会に接すると、それはただ何も見ていなかったということが痛いほど分かりました。
これぞ空前絶後の写楽展です。そもそも写楽は寛政6年、僅か10ヶ月だけ活動したのみで忽然と姿を消したことでも有名ですが、展示ではその間に残した146図のうちの殆ど全てを網羅しています。(出品リスト)
震災により開幕が延期されるなどの影響を受けましたが、非出品になったものはごく僅かで、ほぼ当初の規模と内容での展覧会が実現しました。
構成は以下の通りです。*会場案内図(混雑状況の記載あり)
1 写楽以前の役者絵
2 写楽を生み出した蔦屋重三郎
3 写楽とライバルたち
4 版の比較
5 写楽の全貌(1、2、3、4期。相撲絵など。)
6 写楽の残影
通常は章立ての順に廻るのが適切かもしれませんが、今回に限ってはいささか異なるかもしれません。会場では混雑緩和のため、入口で係員の方が第二会場(5)よりの展観をすすめていましたが、実際にそちらから見た方が楽しめるのではないでしょうか。
なぜなら後半、つまり第2部の「写楽の全貌」で写楽の画業、つまりは10ヶ月の制作史を年代別(全4期)に追っている反面、前半の1から4のセクションでは摺や他の絵師との比較などのテーマ展示となっているからです。
確かに前半では前史、つまりは写楽以前の役者絵などを紹介しているので時代は前後しますが、目まぐるしく変化する写楽の画業の変遷を一通り理解した上で、そうした各テーマに沿った作品を見た方がより理解が深まるのではないかと思いました。
「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」東洲斎写楽 寛政6年(1794) メトロポリタン美術館
というわけで、第2部の「写楽の全貌」の冒頭に登場するのは、画業第一期に写楽が手がけた一連の大首絵です。この時期の写楽は28枚の大首絵を描きましたが、その全てが紹介されています。またここではお馴染みの「奴一平VS江戸兵衛対決」も当然ながらハイライトの一つです。千葉市美術館での「ボストン美術館浮世絵名品展」でも展示されている両作品ですが、メトロポリタン美術館とギメ美術館から出品された2点の状態は良く、改めてその魅力を堪能しました。
「三代目市川高麗蔵の亀屋忠兵衛と中山富三郎の新町のけいせい梅川」東洲斎写楽 寛政6年(1794) 大英博物館
大首絵から一転、僅か2ヶ月後の第2期ではいわゆる全身像が展開します。ともかく写楽は画業後半になると形式化が進み、その魅力も損なわれると言われますが、まだこの時期の作品は写楽ならではのキレの良い描線、また大胆な構図感を見ることが出来ました。
3期以降は次第に躍動感に欠け、人物の描写そのものも小さくなっていきます。私にはどこまでが写楽でどこからがそうでないのかを判別する眼はありませんが、前述の通り10ヶ月余りでこれほど印象を変化させる絵師の存在自体に、やはり何かミステリーを感じてなりませんでした。
前半、第1会場では写楽以前の役者絵と、版元の蔦屋との繋がりで歌麿が登場します。初めに大作の屏風2点、「歌舞伎遊楽図屏風」と師宣の「歌舞伎図屏風」が出ていたのは嬉しいサプライズでしたが、やはりここで圧倒的に魅力を感じるのは歌麿の美人画でした。
とりわけギメ東洋美術館からの「歌撰恋之部」シリーズ2点には思わず見惚れてしまいます。背景に光る薄い桃色の雲母の輝きは、これまでに見たこの作品の中でも最も美しいものとしても過言ではありません。まさかこれほど状態が良い作品が見られるとは思いませんでした。
またこの作品の状態の点で重要なのは、同じモチーフによる写楽の版の比較展示です。ここではこれまた見たことのないような抜群の状態の大首絵が5点ほど登場しています。それらはいずれも東博所蔵の作品と並べられていましたが、失礼ながらもそちらがかすんで見えるほどの見事な色を放っていました。いずれも個人蔵の作品でしたが、この5点を見るだけでも写楽展へ行く価値は十分にあるかもしれません。
また比較としてもう一つ挙げておきたいのは、写楽と他の絵師を描かれた役者別に並べた展示です。たとえば良く登場する沢村宗十郎のモチーフを写楽はどこか中性的に、一方での豊国はどこか男性的な美を強調して描いています。江戸時代の役者や舞台の知識のない私にとって、こうした構成はとても有り難く思えました。
「写楽/別冊太陽/平凡社」
人気の写楽の大回顧展ということで確かに賑わっていましたが、列に加わればそれほど強いストレスを感じることはありませんでした。なお夕方16時以降は確実に人が減ります。何分点数が多いので時間との戦いになりそうですが、閉館間際でじっくりと極上の状態の写楽や歌麿の作に見る喜びは格別でした。
「ストーリーで楽しむ写楽in大歌舞伎/東京美術」
6月は休みがありません。通常閉館日の月曜、6月6日の開館日は狙い目となりそうです。
6月12日まで開催されています。もちろんおすすめします。
「特別展 写楽」 東京国立博物館・平成館
会期:5月1日(日)~6月12日(日)
休館:6月は無休
時間:9:30~17:00(土、日、祝は18:00まで開館)
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
「特別展 写楽」
5/1-6/12
おそらくこのスケールでの写楽展はもう望めないかもしれません。東京国立博物館で開催中の「特別展 写楽」へ行ってきました。
実は私自身、これまで写楽に今ひとつ惹かれない部分がありましたが、この展覧会に接すると、それはただ何も見ていなかったということが痛いほど分かりました。
これぞ空前絶後の写楽展です。そもそも写楽は寛政6年、僅か10ヶ月だけ活動したのみで忽然と姿を消したことでも有名ですが、展示ではその間に残した146図のうちの殆ど全てを網羅しています。(出品リスト)
震災により開幕が延期されるなどの影響を受けましたが、非出品になったものはごく僅かで、ほぼ当初の規模と内容での展覧会が実現しました。
構成は以下の通りです。*会場案内図(混雑状況の記載あり)
1 写楽以前の役者絵
2 写楽を生み出した蔦屋重三郎
3 写楽とライバルたち
4 版の比較
5 写楽の全貌(1、2、3、4期。相撲絵など。)
6 写楽の残影
通常は章立ての順に廻るのが適切かもしれませんが、今回に限ってはいささか異なるかもしれません。会場では混雑緩和のため、入口で係員の方が第二会場(5)よりの展観をすすめていましたが、実際にそちらから見た方が楽しめるのではないでしょうか。
なぜなら後半、つまり第2部の「写楽の全貌」で写楽の画業、つまりは10ヶ月の制作史を年代別(全4期)に追っている反面、前半の1から4のセクションでは摺や他の絵師との比較などのテーマ展示となっているからです。
確かに前半では前史、つまりは写楽以前の役者絵などを紹介しているので時代は前後しますが、目まぐるしく変化する写楽の画業の変遷を一通り理解した上で、そうした各テーマに沿った作品を見た方がより理解が深まるのではないかと思いました。
「三代目大谷鬼次の江戸兵衛」東洲斎写楽 寛政6年(1794) メトロポリタン美術館
というわけで、第2部の「写楽の全貌」の冒頭に登場するのは、画業第一期に写楽が手がけた一連の大首絵です。この時期の写楽は28枚の大首絵を描きましたが、その全てが紹介されています。またここではお馴染みの「奴一平VS江戸兵衛対決」も当然ながらハイライトの一つです。千葉市美術館での「ボストン美術館浮世絵名品展」でも展示されている両作品ですが、メトロポリタン美術館とギメ美術館から出品された2点の状態は良く、改めてその魅力を堪能しました。
「三代目市川高麗蔵の亀屋忠兵衛と中山富三郎の新町のけいせい梅川」東洲斎写楽 寛政6年(1794) 大英博物館
大首絵から一転、僅か2ヶ月後の第2期ではいわゆる全身像が展開します。ともかく写楽は画業後半になると形式化が進み、その魅力も損なわれると言われますが、まだこの時期の作品は写楽ならではのキレの良い描線、また大胆な構図感を見ることが出来ました。
3期以降は次第に躍動感に欠け、人物の描写そのものも小さくなっていきます。私にはどこまでが写楽でどこからがそうでないのかを判別する眼はありませんが、前述の通り10ヶ月余りでこれほど印象を変化させる絵師の存在自体に、やはり何かミステリーを感じてなりませんでした。
前半、第1会場では写楽以前の役者絵と、版元の蔦屋との繋がりで歌麿が登場します。初めに大作の屏風2点、「歌舞伎遊楽図屏風」と師宣の「歌舞伎図屏風」が出ていたのは嬉しいサプライズでしたが、やはりここで圧倒的に魅力を感じるのは歌麿の美人画でした。
とりわけギメ東洋美術館からの「歌撰恋之部」シリーズ2点には思わず見惚れてしまいます。背景に光る薄い桃色の雲母の輝きは、これまでに見たこの作品の中でも最も美しいものとしても過言ではありません。まさかこれほど状態が良い作品が見られるとは思いませんでした。
またこの作品の状態の点で重要なのは、同じモチーフによる写楽の版の比較展示です。ここではこれまた見たことのないような抜群の状態の大首絵が5点ほど登場しています。それらはいずれも東博所蔵の作品と並べられていましたが、失礼ながらもそちらがかすんで見えるほどの見事な色を放っていました。いずれも個人蔵の作品でしたが、この5点を見るだけでも写楽展へ行く価値は十分にあるかもしれません。
また比較としてもう一つ挙げておきたいのは、写楽と他の絵師を描かれた役者別に並べた展示です。たとえば良く登場する沢村宗十郎のモチーフを写楽はどこか中性的に、一方での豊国はどこか男性的な美を強調して描いています。江戸時代の役者や舞台の知識のない私にとって、こうした構成はとても有り難く思えました。
「写楽/別冊太陽/平凡社」
人気の写楽の大回顧展ということで確かに賑わっていましたが、列に加わればそれほど強いストレスを感じることはありませんでした。なお夕方16時以降は確実に人が減ります。何分点数が多いので時間との戦いになりそうですが、閉館間際でじっくりと極上の状態の写楽や歌麿の作に見る喜びは格別でした。
「ストーリーで楽しむ写楽in大歌舞伎/東京美術」
6月は休みがありません。通常閉館日の月曜、6月6日の開館日は狙い目となりそうです。
6月12日まで開催されています。もちろんおすすめします。
「特別展 写楽」 東京国立博物館・平成館
会期:5月1日(日)~6月12日(日)
休館:6月は無休
時間:9:30~17:00(土、日、祝は18:00まで開館)
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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