都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「岡本秋暉とその師友」 千葉市美術館
千葉市美術館
「岡本秋暉とその師友」
4/9-6/5
千葉市美術館で開催中の「岡本秋暉とその師友」へ行ってきました。
現在、同美術館で行われている「ボストン美術館浮世絵名品展」の併催の展覧会ですが、単にそのおまけと思ってしまうとしっぺ返しをくらうかもしれません。
実際、浮世絵展とほぼ同じスケールの展示室を用いていますが、岡本秋暉と関連の絵師の江戸絵画、全65点は相当に見応えがありました。
まずはその岡本秋暉とは何ぞやと言うところから話をはじめなくてはいけません。江戸後期の1807年、江戸の町人に生まれた秋暉は、とりわけ孔雀を得意とする絵師として知られていました。
千葉との関係はやや複雑です。秋暉はそもそも小田原藩士の養子として、江戸の屋敷で勤務していましたが、それ以外にも地方の有力者のために様々な絵を描いていました。
その一つが当時の柏村、ようは現在の千葉県柏市の名主、寺嶋家というわけです。この寺嶋家こそ、浮世絵や江戸絵画を多く所有する現在の摘水軒記念文化財団のルーツに他なりませんが、千葉市美術館では同財団所有の秋暉作の約4割を預かっているなどの縁もあり、今回の展示が実現しました。
前置きが長くなりました。構成は以下の通りです。
1.江戸の南蘋派
2.岡本秋暉
3.谷文晁から鈴木鵞湖へ
タイトルに師友とあるように、秋暉のいわゆる回顧展ではありません。彼が影響を受けた宋紫石ら南蘋派の画家、そして親しく交流をもっていた渡辺華山や椿椿山、さらには華山の師の谷文晁、また千葉出身で文晃系の画家として知られる鈴木鵞湖らの作品などが展示されていました。(出品リスト)
金子金陵「秋雨鶏雛図」1789-1801年 個人蔵
お馴染みの精緻な描写が光るのは冒頭の南蘋派の作品です。ここでは宋紫石の作品7~8点を含め、秋暉に影響を与えた江戸の南蘋派の作品が約20点ほど展示されていましたが、やはりあのどこかドギツク、また硬質なタッチによる鳥、そして輝かしいまでの色彩をまとった花の絵には目を奪われます。
その一例として挙げられるのが金子金陵の「兎図」です。多産を表すという兎は南蘋派でも好んで用いられたモチーフだそうですが、その茶色の毛をしてこちらをじろりと見やる兎の異様な存在感には思わず後ずさりしてしまいます。
またこの作品、キャプションにて、とある何かに例えられていますが、今回はそのくだけたキャプションにも要注目です。親しみをもって絵に接することが出来ました。
中盤では主役、岡本秋暉の作品が約15点ほど登場します。先に触れたように秋暉は南蘋派との関連を指摘されますが、実際に作品を見るとそのイメージだけでは語れないことが分かるかもしれません。
その最たる作品が秋暉最晩年の作である「雲龍図」です。雲海から朧げに出現する龍はどこか達観したような表情をしていて、背景の墨の濃淡で示された雲海の効果もあるのか、全体としても幻想的な雰囲気が感じられます。また「桃に紙雛図」も興味深い作品ではないでしょうか。紙雛の端正なタッチはまるで抱一でした。
岡本秋暉「孔雀図」1853年 個人蔵
もちろんこの「孔雀図」のようにこれぞ秋暉というような作品もありましたが、一筋縄ではいかない彼の多様な画風を存分に味わうことが出来ました。
出品作数が最も多いのは最後のセクション「谷文晁から鈴木鵞湖」です。そもそも鈴木鵞湖は2007年に同館で展覧会も開催された、言わば千葉市美の得意とする画家ですが、今回も10点弱の作品が登場しています。
鵞湖というと南画風の作品が有名かもしれませんが、「漆・藪柑子・桔梗図」などといった、これまた抱一の温和な作風を連想させる作品も展示されていました。
宋紫石「雨中軍鶏図」1771年 個人蔵
以下は先日拝聴した同館学芸員の伊藤紫織氏の講座の内容に沿いますが、意外に画風の多様な秋暉は南蘋派だけでなく、中国絵画一般を学んだのではないかということです。それに有名な孔雀における羽などはいかにも南蘋風でありながら、たとえば植物などは椿椿山や渡辺華山の影響も見受けられるという話もありました。
なお講座は秋暉の出自から日本と中国における花鳥画の成立史、そしてその分類、また南蘋派との関連、さらには秋暉の個々の作品の比較検討など、予定時間をオーバーしての充実したものでした。
江戸絵画好きには是非見ておきたい展示と言えるかもしれません。混雑無縁の環境で楽しめるボストン浮世絵展とあわせ、今週末は千葉へのミニ遠征は如何でしょうか。
「ボストン美術館浮世絵名品展」 千葉市美術館(拙ブログ)
6月5日まで開催されています。
「岡本秋暉とその師友」 千葉市美術館
会期:4月26日(火)~6月5日(日)
休館:無休
時間:10:00~18:00(日~木)、10:00~20:00(金・土)
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
「岡本秋暉とその師友」
4/9-6/5
千葉市美術館で開催中の「岡本秋暉とその師友」へ行ってきました。
現在、同美術館で行われている「ボストン美術館浮世絵名品展」の併催の展覧会ですが、単にそのおまけと思ってしまうとしっぺ返しをくらうかもしれません。
実際、浮世絵展とほぼ同じスケールの展示室を用いていますが、岡本秋暉と関連の絵師の江戸絵画、全65点は相当に見応えがありました。
まずはその岡本秋暉とは何ぞやと言うところから話をはじめなくてはいけません。江戸後期の1807年、江戸の町人に生まれた秋暉は、とりわけ孔雀を得意とする絵師として知られていました。
千葉との関係はやや複雑です。秋暉はそもそも小田原藩士の養子として、江戸の屋敷で勤務していましたが、それ以外にも地方の有力者のために様々な絵を描いていました。
その一つが当時の柏村、ようは現在の千葉県柏市の名主、寺嶋家というわけです。この寺嶋家こそ、浮世絵や江戸絵画を多く所有する現在の摘水軒記念文化財団のルーツに他なりませんが、千葉市美術館では同財団所有の秋暉作の約4割を預かっているなどの縁もあり、今回の展示が実現しました。
前置きが長くなりました。構成は以下の通りです。
1.江戸の南蘋派
2.岡本秋暉
3.谷文晁から鈴木鵞湖へ
タイトルに師友とあるように、秋暉のいわゆる回顧展ではありません。彼が影響を受けた宋紫石ら南蘋派の画家、そして親しく交流をもっていた渡辺華山や椿椿山、さらには華山の師の谷文晁、また千葉出身で文晃系の画家として知られる鈴木鵞湖らの作品などが展示されていました。(出品リスト)
金子金陵「秋雨鶏雛図」1789-1801年 個人蔵
お馴染みの精緻な描写が光るのは冒頭の南蘋派の作品です。ここでは宋紫石の作品7~8点を含め、秋暉に影響を与えた江戸の南蘋派の作品が約20点ほど展示されていましたが、やはりあのどこかドギツク、また硬質なタッチによる鳥、そして輝かしいまでの色彩をまとった花の絵には目を奪われます。
その一例として挙げられるのが金子金陵の「兎図」です。多産を表すという兎は南蘋派でも好んで用いられたモチーフだそうですが、その茶色の毛をしてこちらをじろりと見やる兎の異様な存在感には思わず後ずさりしてしまいます。
またこの作品、キャプションにて、とある何かに例えられていますが、今回はそのくだけたキャプションにも要注目です。親しみをもって絵に接することが出来ました。
中盤では主役、岡本秋暉の作品が約15点ほど登場します。先に触れたように秋暉は南蘋派との関連を指摘されますが、実際に作品を見るとそのイメージだけでは語れないことが分かるかもしれません。
その最たる作品が秋暉最晩年の作である「雲龍図」です。雲海から朧げに出現する龍はどこか達観したような表情をしていて、背景の墨の濃淡で示された雲海の効果もあるのか、全体としても幻想的な雰囲気が感じられます。また「桃に紙雛図」も興味深い作品ではないでしょうか。紙雛の端正なタッチはまるで抱一でした。
岡本秋暉「孔雀図」1853年 個人蔵
もちろんこの「孔雀図」のようにこれぞ秋暉というような作品もありましたが、一筋縄ではいかない彼の多様な画風を存分に味わうことが出来ました。
出品作数が最も多いのは最後のセクション「谷文晁から鈴木鵞湖」です。そもそも鈴木鵞湖は2007年に同館で展覧会も開催された、言わば千葉市美の得意とする画家ですが、今回も10点弱の作品が登場しています。
鵞湖というと南画風の作品が有名かもしれませんが、「漆・藪柑子・桔梗図」などといった、これまた抱一の温和な作風を連想させる作品も展示されていました。
宋紫石「雨中軍鶏図」1771年 個人蔵
以下は先日拝聴した同館学芸員の伊藤紫織氏の講座の内容に沿いますが、意外に画風の多様な秋暉は南蘋派だけでなく、中国絵画一般を学んだのではないかということです。それに有名な孔雀における羽などはいかにも南蘋風でありながら、たとえば植物などは椿椿山や渡辺華山の影響も見受けられるという話もありました。
なお講座は秋暉の出自から日本と中国における花鳥画の成立史、そしてその分類、また南蘋派との関連、さらには秋暉の個々の作品の比較検討など、予定時間をオーバーしての充実したものでした。
江戸絵画好きには是非見ておきたい展示と言えるかもしれません。混雑無縁の環境で楽しめるボストン浮世絵展とあわせ、今週末は千葉へのミニ遠征は如何でしょうか。
「ボストン美術館浮世絵名品展」 千葉市美術館(拙ブログ)
6月5日まで開催されています。
「岡本秋暉とその師友」 千葉市美術館
会期:4月26日(火)~6月5日(日)
休館:無休
時間:10:00~18:00(日~木)、10:00~20:00(金・土)
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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